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ある恋のうた  作者: せりざわなる
はなの章
4/11

はな④

月曜日の夕方。

公園へと続く道でお兄ちゃんが私に気づいた瞬間、くしゃっと顔を歪ませた。

そして、小走りで駆け寄ってくる。


「…はなちゃん…」


何か言いたくて、言えないよう。

お兄ちゃんは、数歩手前をで足を止めてしまった。


「お兄ちゃんだ…っ」


私の方から駆け寄り、その手をにぎった。


「お兄ちゃんに戻ってる…」


お兄ちゃんは、目を丸くしている。


「昨日は、怖かったよ。お人形さんみたいで」


私の言葉は伝わった。

お兄ちゃんは、繋がる手を握り返してくれる。


「ゴメンね。はなちゃん」


お兄ちゃんは身を屈めて、私の目の高さに合わせた。

近づいた瞳が揺れているように見える。


「これから、ボクに少し時間をくれない?はなちゃんにちゃんとお話ししたいんだ」


私がうなづくと、ほっとしたように視線が優しくなる。


「じゃ、ちょっと公園まで歩こう」


歩きだした二人の繋がれたままの手に、ぎゅっと力を込められた。



公園。



お母さんと散歩するところ。

あやちゃんと遊ぶところ。

お兄ちゃんと初めて話したところ。


もうすぐ5月も終わり。

ほんのちょっと前までは、真っ暗になっていた時間。

こうして、ベンチに座って向かい会うお兄ちゃんの顔は、まだ見えていた。


「春と言っても、すぐに寒くなるからね」


制服のジャケットを脱いで、私の膝に丁寧にかけてくれる。


「ありがと」


お兄ちゃんは口の端だけあげて笑った。

私をじっと見つめた後、目線を落として口を開いた。


「…あの時、はなちゃんがわからなかったわけじゃないんだ。 何だろう、 知らないフリをしなきゃいけないと思ったんだ」


胸がズキリと痛む。


「はなちゃんはボクのお家の事知ってたっけ?」

「大きい病院のお医者さんのお家でしょ?」

「そう。だから、よくある話なのかも知れない。でもね。ボクの心の中では確かにあるんだ」


お兄ちゃんは顔を歪めた。


「それでも、聞いてくれるかい?」


私はうなづいた。

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