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COMBINATION  作者: haruka
新しい仲間
57/57

episode19-6 エール

「パパァ!」

 女の子の叫び声と、一発の銃声が鳴り響いた。

 あれ・・・痛くない。

 閉じている目をおそるおそる開くと、間宮が真っ赤に染まった左肩を右手で押さえて俺の前に立っていた。

「ま、みやさん!」

 なんで・・・・俺を庇って撃たれたのか?!ふらつく間宮の体を、後ろから慌てて支える。

「まーさん!」

 田村と篠原と藤堂が、駆け寄ってきた。谷原を睨んだまま、岩のように動かない間宮に谷原も俺も圧倒されていた。

「おい、まだ倒れないぞ。あと二発、俺に撃ち込むか?谷原、もういいだろう。お前がやってることは、住谷がお前にやったことよりも、もっと卑劣なことだ。お前まで腐った奴になってどうする。その子には何の罪もない!子どもを放すんだ!」

 脂汗を浮かべながら間宮が、谷原に向かって叫んだ。谷原は、目を見開いたまま動かない。やがて、谷原の右手から拳銃が落ちた。

「・・・・くそっ!どうして、俺だけがこんな目に・・・・」

 谷原が悔しそうに呻き、その場に膝を折る。抱きかかえられた彩花は、泣いている谷原を見てしゃがみ込んだ。

「どうして泣いてるの?パパにイジワルされたの?大丈夫?あとで彩花がパパにめってしてあげるね」

 谷原の頭を撫でながら彩花がそう言うと、谷原は顔をあげて大粒の涙を流した。

「・・・・優しい子だね、ありがとう」

 そう言って、優しく彩花を抱き締めた。

「お父さんがあそこで待ってるから、行っていいよ」

 谷原がそう言うと、彩花はニッコリ笑い「ばいばい、またね」と言って住谷のもとへ走り出した。

「パパー!」

 座り込んでうなだれていた住谷は、顔を上げ彩花を強く引き寄せ抱き締めた。

「彩花!・・・・よかった。無事で・・・よかった」

「うん、楽しかったよ。おじちゃんと観覧車に乗ったんだよ」

 彩花が嬉しそうに言った。

「・・・・そうか、楽しかったか・・よかった」

 住谷は、彩花をもう一度、優しく抱き締めた。


 谷原は取り囲まれた捜査員に現行犯逮捕され、警察車まで連れて行かれた。住谷が駆け寄っていくと、谷原は目を逸らせ車に乗り込んだ。

「谷原、すまなかった」

 住谷の謝罪の言葉にも、谷原は顔を歪め何も言わなかった。車に乗り込んでも谷原は一度も住谷を見ようとはしなかった。やがて車は発進し、谷原の乗った車が見えなくなるまで住谷は頭を下げ続けた。結局二人は和解することはできなかった。

 十年という歳月の間、苦しめ続けた過去の記憶と心の傷。それは、すぐに消えるものではない。すべてをなかったことになんて、できはしない。そんな簡単に、割り切れるものではない。時間が解決してくれる、というけれど・・・。彼に残された時間は、あまりにも短く儚い。


「あれほど、無茶するなって言っただろーが!」

 田村が、鬼のような形相で怒鳴った。

 あわわ、すまん。拳銃をむやみに使うなってことかと思ってた。田村に説教されている俺の横で、篠原と藤堂が間宮の傷口の応急処置をした。無愛想のまま、住谷親子を見つめている間宮はどこかホッとした様子にも見える。

 彼は、たぶん我慢できなかったのだ。父親と娘が、目の前で引き裂かれそうになっているのを、見ていられなかったんだろう。俺がそんなことを考えていると、白いワンピースを着た女の子が駆け寄ってきた。

「パパ!・・・・のばかっ!!」

 息を切らして涙ぐみながら、処置を受けている間宮を睨んだ。

 あれ、この子・・娘さんか?

 間宮を見ると、その言葉にショックを受けたのかがっくりと肩を落としている。ああ・・・・可哀相になってきた。

「パパに何かあったら、私どうすればいいの?私を一人にしないで・・・・もう危ないことなんてしないで」

 震える声で由美はそう言うと、声を上げて泣き出した。怖かったのだろう、硬く握っている手が震えている。間宮は頭を下げ「由美、すまん」と娘を抱きしめ、一緒になって泣きだした。篠原と藤堂は、そんな二人を見守っている。

「さぁ、まーさん病院行くぞ」

 篠原が立ち上がり、間宮の右肩に手を置いた。

「そういえば由美、遊園地に行ってたんじゃなかったのか?」

 立ち上がりながら、間宮が言うと彼女は「違うよ」と首を振った。

「パパの誕生日プレゼント買いに、ここの中に入ってるお店に買い物に来たの」

 そう言って、持っていた紙袋をひょいと持ち上げた。

「でも、ライオンの前で待ち合わせって・・・・」

 しまった、というように間宮は口元を手で押さえた。その様子を見て、由美が間宮を睨んだ。

「パパ!また電話、盗み聞きしたの?」

 怒る彼女に「いつものことじゃないか」と篠原が、笑いながら言った。

「ライオンって言ってもアレだよ」

 口を尖らしながら由美は、ショッピングモールの入口にあるライオンの銅像を指差した。なんだ・・・・間宮の早とちりじゃないか。そう思って呆れていると「なーーーっ!」と、間宮が叫びながらライオンに向かって指を差した。震える指の先を目で追うと、茶色い髪をした男の子がこっちに向かって会釈した。

「またアイツかーっ!!」

 間宮が彼のもとへ向かって行こうとするのを、篠原と藤堂が制止し無理矢理車に押し込んだ。

「藤さん頼むなー」

 暴れる間宮となだめる藤堂を乗せた車は、そのまま病院に向かって走り出した。

 藤堂さん・・・こんな時にも。同情しながら、車を見送った。やれやれと篠原は頭を掻いていた。

「由美ちゃん、もう家に帰る?」

 篠原が由美に向き直りそう言うと、彼女は頷いた。

「パパ、今日、家に帰れますか?」

 由美が、心配そうに聞くと篠原は「たいした傷じゃないから、すぐ戻るよ」と言って笑った。

 いやいや、撃たれてますよ?弾まだ体に残ってるし。篠原さん・・・こんな時にも、そのキャラは健在ですか。

「すぐ戻るから、待ってなさい」

 篠原が、穏やかに笑って由美の頭に手を置いた。

 由美は安心したのか顔をほころばせ、元気よく頷いた。走り去ろうとする由美に「彼氏によろしく」と篠原が言うと、くるりと振り返り、顔をしかめて否定した。

「違います!ただ買い物について来てもらっただけだよ!アイツ、私より弱いし」

 それを聞いて、篠原は苦笑した。

 無自覚の日本一少女か。プラス娘命の鬼父。大変だな・・・・あの男の子も。

 田村と、二人の楽しそうな後姿を見送りながら、茶髪の男の子にエールを送りたくなった。


仕事が忙しくなり、なかなか更新できませんでした。

なんとかこのお話を終えることができよかったです。

今回も、展開が速くてすみません。



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