episode19-2 命
捜査本部に戻ると、藤堂と間宮がすでに戻っていた。陣内は、前で篠原と話し込んでいる。俺たちが近付いていくと、間宮は部屋から出ていってしまった。
「お疲れ、望月たちは何か収穫あった?」
俺たちは首を振りながら、藤堂の後ろの席に座った。
「残念ながら。間宮さん、何かあったんですか?」
藤堂は苦笑しながら、「由美ちゃんのことでちょっとね」と言ってため息をついた。
捜査中なのにまだ週末デートのことが気になるのか?藤堂が俺が顔をしかめたのを見て再び苦笑した。
「あの遊園地は、間宮にとって特別な場所だからね」
遊園地―――とは、週末、娘さんがデートする緑が丘遊園地のことか?
「信じられないかもしれないけど、七年前まではまーさん、由美ちゃんが幾つなのかも知らないほど仕事人間だったんだよ」
肩をすくめながら藤堂が言った。
まさか、あの間宮が?!
七年前?―――確か奥さんが亡くなったのも。
「八千代さんが病気で亡くなって、自分を責めて落ち込む間宮を連れて由美ちゃんが、緑が丘遊園地に行って励ましたんだ。9歳の女の子が、どうしたら父親が元気になってくれるか、一生懸命考えて。自分だって悲しいはずなのにね」
藤堂は穏やかな声で「まーさんはね、由美ちゃんに救われたんだよ」と言って伏し目がちにほほ笑んだ。
そうか。だからあんなに――殺気だっていたのか。大切な場所だったんだ、間宮にとって。
気をつけろよ、誰だか知らないが相手の男の子。なんで娘さんもそんな場所選ぶかなぁ。間宮が少し可哀相になった。
他の捜査員たちも続々帰ってきたところで、本日二回目の捜査会議が始まった。間宮は、険しい顔のままだった。
谷原の部屋から押収した診察券をもとに、病院に聞き込みに言った捜査員から谷原が末期の胃ガンだったことが報告された。本人にも、一ヶ月前に告知していたようで、余命半年だということだった。
ガン―――。
余命半年。
呆然としていると、被害者と容疑者の繋がりを調べていた捜査員から思いがけないことが報告された。
谷原と被害者が同級生だったということだ。しかも、谷原は被害者に学生時代イジメられていたそうだ。
さすがに、捜査本部は騒然とした。
逆恨み―――?
「拳銃には、弾が残り七発」
篠原が険しい顔で呟いた。
イジメた人間を、まさか―――殺していくつもりか?!
当時の同級生たちから聞いた話では、イジメが原因で谷原は学校を退学したようだ。そのままグレて、暴力団の準構成員になり、挙げ句、余命半年と診断された。
逆恨み、と簡単に済ませてしまっていいのだろうか。
もしイジメがなければ、谷原の人生は違ったものになっていたかもしれない。最期も幸せなものになっていたかもしれない。
でも、僅かな命で谷原が選んだのは、イジメていた人間を殺すこと。
十年も前のことを―――と、イジメた側の人間は言うかもしれない。遊びだったと言うかもしれない。
でも、イジメられた人間は―――十年たった今でも忘れていなかった。傷ついたままだった。だからといって・・・・殺人は許させることではないが。
「あと何人イジメに加わっていたんだ?」
篠原が、苦虫を噛みつぶしたような顔で捜査員に聞いた。
「あと、二人です。もう一人は、バイクの事故で一昨年亡くなっていました」
篠原は頷き、残りの二人に数人の捜査員を警護につけることを決めた。他の捜査員たちは、引き続き谷原の捜索にあたることとなった。