「どうしたもんかな、この状況」
リナとルナに案内され、魔王の間…リリムと最初に出会った大きな広々とした部屋に到着した。
奥にリリムが立ち、その前に忠誠を誓うかのように何十の手下たちが片膝をついている。
リリムは俺との結婚についての説明をしているらしいが、声が小さく話の内容は聞こえてこない。
俺はリリムの元へ向かう。
リリムも俺に気づき、手下たちに俺の存在を教えた。
「彼が私の旦那様となる極夜よ」
あまり気づかなかったが、リリムの口調が軽く砕けたものとなっている。普段はこういう感じなのだろう。
最初は威厳を持たせようとしてるなかに女の子らしさも混ぜようとしてたりと、俺に合わせて口調を変えていたような気もする。
まあ、出会っていきなりの結婚だ。
相手に好印象を与えるために、口調ぐらい気にするだろう。
だが、何か違和感がある。
「異論はあるかしら?」
この違和感の正体がわからず、考えているうちにリリムは話を終えたらしい。
全く話を聞いてなかったが、多分問題ないだろう。
「やはり、私は認められません」
リリムより数歩下がった位置にいたシオンがこちらを睨みつけてきた。
「あくまでこの人は…」
「シオン…」
シオンが言葉を続けようとするのをリリムが阻止する。
とても冷たく、凍てつかせるような声で。
心なしか、この空間の温度も少し下がった気もする。
「ですがっ!」
「仕方ないのよ」
全く根拠がないのだが、多分俺に聞かれたくないのだろう。
シオンが発した言葉をリリムが途中で遮った理由も、俺には言いたくないことなのだろう。
秘密は誰にでもある、気にはしない。
「では、極夜…私と勝負してください」
リリムとの会話の中で、どうしてそういう流れになったのかは全くわからない。
シオンがリリムの結婚を認めたくない理由は、その相手が俺だから。
もしくは、俺という存在そのものを認めたくないのかもしれない。
「私に勝てたのなら、結婚は認めます」
シオンが言葉を続ける。
「魔王様の隣に相応しいか、私が見定めます」
力のない弱小の人間が魔王様の結婚相手なんて認めない。力があるか確認する必要があるというところだろう。
「一応聞くけど、拒否権は?」
「あるわけがないでしょう。それは魔王様との結婚を放棄することになります」
「勝負っていうのは?」
「簡単です」
シオンがナイフを構える。
勝負と言われて思い付くのは物理だが、他にも色々とあると思ったが、単純に俺の戦闘能力を見たいのだろう。
リリムの手下たちは危険と判断したため、遠くに離れて行く。
「リリムも離れていてくれ」
俺はリリムに声をかける。
リリムはなんとかこの場を収めようとしたが、俺の表情を見てか、諦めたような呆れたような顔をして、一番奥にある玉座に座り込んだ。
「武器がなくては話になりません」
シオンは足元に置いていた剣を持ち、こちらに渡すために歩いてくる。
審判がいない状態で勝負開始の合図を出す者はいない。強いて言うなら、この場に来た時点でもう勝負は始まっているのだ。
俺の手に剣を手渡した瞬間、シオンは俺の首目掛けてナイフを振ってくる。
上体を反らしてナイフを回避するが、シオンの攻撃の手が止まるわけがない。
床を蹴りシオンとの距離を取るが、この判断が間違いだと気付いた時には遅かった。
俺には近接での攻撃しかないが、シオンはナイフで近接もできれば、ナイフを投げ遠距離で戦うこともできる。
距離を詰めなければいけないが、ナイフを投げてくるために距離を詰めることは難しいだろう。
予想通り、シオンはナイフを投げつけてくる。
俺はシオンから受け取った剣でナイフをなんとか弾くが、剣術など1つも心得ていない。
明らかにこちらが不利であった。
「さぁて、どうするかな」