「知りたい?惚れた理由」
シオンはまだ私と極夜が結婚するのを認めてないらしい。
でも、それは仕方のないことだと思う。
出会って数十分で結婚するなんて、普通ではありえないだろう。
「あんな勇者のどこに惚れる要素があるのですか」
シオンがリリムに尋ねる。
まず、この時点でシオンは勘違いしているのだ。
「極夜は勇者ではないのよ」
「…へ?」
シオンは間抜けな声を出す。
一度ちゃんと説明してやらねば。
「極夜は召喚魔法で呼び出したただの人間よ」
「では、先程の勇者は?」
多分勇者がきたという情報は聞いていたが、その勇者を極夜が倒したということは知らなかったのだろう。
「その勇者なら極夜が倒したわよ」
「信じられません」
「私はちゃんと見たし、なによりシオンのナイフを避けるくらいの実力なのよ?」
「…」
シオンはこの城では、私の次に強いといっても過言ではない実力の持ち主。
あの時は完璧な不意討ちにも関わらず、極夜はそのシオンのナイフを避けた。
それだけで、極夜の実力がかなりの物だと理解させられる。
「しかも、私の魅了魔法も効かなかったしね」
「魔王様の魅了魔法が!?」
シオンが驚きの声をあげる。
サキュバスというのは人間の精を糧にして生きている。
基本的サキュバスというのは戦闘を得意としない。
私のような魔王の力があれば話は別だが、普通のサキュバスでは人間に迫ることは難しい。そこで魅了魔法だ。
迫ることが難しいのなら、あちら側からこちらに来てもらえばいい。
サキュバスの魅了魔法にかけられた者は、一時的ではあるがサキュバスを求めるようになる。
なのに、極夜はその魅了魔法が効かなかったのだ。
魔王の私の魅了魔法でさえ。
「極夜は私の魅了魔法を受け付けなかった。でも特別そういう魔法を跳ね返す力があるようにも見えない。私はそこに惚れたの」
「…?」
シオンは2つのことで困惑していた。
なぜただの人間の極夜に魅了魔法が効かないのか?そこにリリムがなぜ惚れたの?
「どういうことですか?」
魅了魔法が効かなかったのは、何かしらの理由があるはずだ。
だか、今はそんなことどうだっていい。
なぜ自分の魔法が効かない相手に惚れるのか。
「私の魅了魔法は勇者までも魅了する。剣を落とし、目的を忘れ、私を求めようとする。私はそれがつまらなかったの」
「つまらなかった?」
「何もかもが思い通りになるって素晴らしいように見えるものだけど、手応えを感じなくなるのよね」
リリムは笑顔で続ける。
「私の魅了魔法が効かない人間…その存在にすごく惹かれてるの。出会った瞬間から、何か運命のようなものも感じたしね」
シオンはその人間を羨ましいと思った。
出会ってたった数十分で結婚してもいいと思うほど、魔王様に想われてる人間を。
魔王様自らが結婚することを望んでいる。
それは魔王様の表情を見れば明らかだった。
「もうそろそろ時間ね、行くわよシオン」
リリム自らが望んでいることならば、止める理由はない。
だが、やはりまだ認めることは出来なかった。
シオンはこっそりと手持ちのナイフを確認する。
緊急時に素早く反応出来るようにするため、いつも持ち歩いているのだ。
シオンは決意する。
『魔王様に相応しい器の持ち主か、私がこの目で確認する必要がある』