「残念だね、勇者様」
※表現がグロいシーンがあるので、苦手な方はご注意ください。
魔王は結婚することが、かなり嬉しいのか鼻歌まで歌い始める。
抱きつかれているので豊満な胸が当り、嫌でも意識させられる。
決して嫌なわけではないのだが。
「そういえば、あなたの名前は?」
これから結婚する相手の名前も知らないのでは話にならないだろう。というか、自己紹介も無しによく結婚しようしたな。
「私は先程も言ったとおり、サキュバスの魔王…リリム」
「ああ、俺の名前は…」
答えようとして、俺は黙り込んだ。
そういえば、俺の名前…あの声の主が言っていた、俺の名前は…
『んーじゃあ、君の名前は… 』
『君の心は真っ暗で、日の光が1つもないみたい』
『あの人とは正反対だから 』
『だから君の名前は』
「極夜」
俺は再度、リリムの目を合わせながら答える。
「俺の名前は極夜だ」
「極夜、それが私の旦那様」
リリムは満足そうに俺の名前を繰返し読んでくる。
「極夜…」
「リリム…」
そんなラブラブな雰囲気を丸出しの中、外から大きな爆発音が聞こえてきた。
「っ!何事だ」
リリムの表情が険しいものとなる。
すぐに手下と思われる魔物が駆け付けてくる。
「魔物様!大変でございます!」
「何があった」
「勇者です!勇者が責めてきました!」
リリムが息を飲むのがわかる。
「数は?」
俺が手下の魔物に質問をする。
魔物は俺が何者かを訊ねるようとしたが、すぐに質問に答えることを優先したようだ。
「数は全部で3人でございます!」
「そうか」
3人ならば、対したことはないだろう。
俺はすぐに爆発がしたと思われる方に向かった。
勇者の実力がどれ程かは分からないが、自分の力を試してみたかったからだ。
「極夜!」
リリムが俺を呼び止めようとするが、俺は振り返らずにそのまま歩いていった。
不思議だがこちらの世界に来てから、戦うことに関してはやけに積極的になっている気がする。
本能が戦いを求めているような、そんな感じだ。
「ここが、魔王の城か」
魔王の城へ入るための大きな扉の前で、剣を構えながら1人の男がいった。
魔王を倒しに来た勇者である。
「へへ、魔王ってのがどんなもんなのか、腕がなるねぇ」
屈強な身体を持つ、戦士が斧を肩に担ぎながら言う。
「油断は禁物ですからね」
杖を持ち、いかにも魔女のような見た目をした女が呟く。
「よし、行くぞ」
勇者が気合いを入れ直し扉を開けようとした瞬間…
「やるか…」
俺は扉のちょうど真上にある部屋の窓から飛び降りていた。
魔法使いは俺の姿に気付き、声をあげる。
戦士や勇者も俺の姿に気づき、顔を上げるが
「残念、俺の方が速いんだわ」
勇者の顔面に踵落としを入れ、そのまま地面に叩きつける。
地面には、小さなクレーターが出来ていた。
魔法使いは素早く反応しブツブツと魔法らしきものを唱えて、杖をこちらに向けてくる。
「くらいなさい!ファイアーボール!」
無数の火の玉が出現し、こちらに向かってくる。
『これはすげぇな』
何十という、数の火の玉に対して思ったのではない。
自分の目が一瞬で、全ての火の玉の数や位置を把握し、このあとの軌道も手に取るようにわかるのだ。
『チート能力っていうのは、単純な力だけじゃなく、視力とか反射神経にも含まれるのかな』
俺は地を蹴り、火の玉の間をくぐり抜け、魔法使いとの距離をつめる。
魔法使いが慌てて魔法を唱えようとするが、俺の方が速い。
一瞬で背後に回り、魔法使いの頭を両手で掴む。
「っ…!」
魔法使いが声を発する前に、俺は左右の手を逆方向に引いた。
ゴキィッと、鈍い音が響く。
「うぉぉぉおおお!!!!」
戦士が斧を構えながらこちらに走ってくる。
「よくも仲間を!!」
戦士が勢いよく斧を降りおしてくるが、それを難なく避け、右手を真っ直ぐに伸ばす。
右手は戦士の胸を貫き、辺りに血が飛び散った。
その右手は、戦士の心臓を握っていた。
戦士は何があったのかを全く理解出来ていなかった。
そのまま心臓を握りつぶし、戦士の身体から右手を引き抜く。
「さすがチート能力…かな」
右手を振るい、手についた血を落とす。
ふと、視線を上に向けると、リリムが窓からこちらを見ていた。
俺は笑顔で手を降る。
リリムは、折角見つけた旦那様が勇者たちに殺されてしまうのではないかと心配になり、急いで駆けつけてみたが、杞憂に終わった。
「なんという力…」
この勇者たちは、決して弱い訳ではない。
リリムが本気を出せば負けることはないが、苦戦を強いられるであろう程の実力。
それ程の実力を持った勇者たちを、極夜は一瞬で片付けた。
武器も魔法も無しに、ただの人間が…だ。
「彼は、一体何者なの…?」