「結婚しよう、魔王様」
『すごいな…』
俺はデーモンを倒して、自分の身体の変化に少しながらも驚いていた。
前の世界と比べて、明らかに身体が軽い。
戦い方も、脳が身体に直接教えてくれるような感覚だ。
『でも、チート能力って言うほどの力なのか?』
単純に、自分のステータスが高いだけのような気もする。
「さすが、私の運命の人♪」
すると、魔王がやけに上機嫌でこちらを見ていた。
「運命の人?」
「はい、あなたは私にとって運命の人です♪」
全く意味がわからない。
そもそも、どうしてここに連れてこられたのか。
「私が召喚魔法を使って、あなたを召喚したんです」
「召喚…か」
俺は死んで転生して異世界へ行くことになった。
異世界へ行く理由として、魔王に召喚されたってところかな。
まあ、空に放置されて落下するよりは断然マシだが。
「俺を召喚した理由は?」
「この世界を私の物にするために力を貸してほしいのです」
「で、本音は?」
「私と結婚をしてほしいのです///」
…………………………………………………………………………は?
「全然意味がわからないんだけど」
「母上が「あなたも今年で×××歳になるのだから、そろそろ結婚相手でも探しておきなさい」と言うので、とりあえず適当に召喚していけば、運命の人と出会えると思い…」
…んな理由で俺は召喚されたのか…
だけど、悪くない話だ。
俺はこの世界のことをなんにも知らない。
この世界を知るにはたくさんの情報が必要だ。
世界征服が目的の魔王なら、普通じゃ知ることの出来ない情報を持っていてもおかしくない。
というか、こんな絶世の美女に言い寄られて、悪い気はしない。
「…そもそも、なんで俺を運命の人だと思う?」
「ただの人間が私の部下を、こうも簡単に倒せるはずがありません」
「いや、それ以前に初対面でお互いのことを録に理解していない同士で結婚なんてしていいものなのか?」
まあ、普通じゃあり得ないだろう。
初対面で一目惚れしたから結婚しようなんて。
絶世の美女と結婚できるのはかなり嬉しいことだが、そんな簡単に結婚するというのは抵抗がある。
「…むぅ」
魔王は頬を膨らませていた。
まあ、魔王自身は結婚したがっているのに、相手が拒否するのが気にくわないんだろう。
「私と結婚すればなんでもしてあげますよ?この世界のありとあらゆる情報を提供しますし、基本的な生活で困ることはありません。それに…」
魔王は腕を組み、胸を強調しながら誘うように言う。
「私はサキュバスの魔王ですよ?私の身体を好きにしてもいいんですよ?」
その言うと、魔王は魔力を全て解放した。
サキュバスの魔力、しかも魔王の魔力を直接受けて、正常でいられる人間がいるはずがない。
普通の人間なら、理性をなくしたり、場合によってはその場に倒れたりする者もいる。
それは勇者であっても同じことだ。
『これで、この男は私のもの♪』
そう確信し、人間を見つめると、その人間は普通に立っていた。
表情に変化もなく、身体に変化も見当たらない。
『嘘!?どうして!』
魔王が動揺していることを知らず、その人間は
『エロい胸だな』
としか思っていなかった。
「あ、あなたは、なんともないんですか?」
震える声で魔王は訊ねる。
さすがに、なんともないわけないだろう。そう思っているのだが
「何が?」
その言葉を聞いて、魔王は地面に膝をついた。
魔王の魔力を受けて、そんな軽い反応しかしないなんて。
『どうしたらいいんだろう…』
そんな魔王を見て、俺はどうしていいのかわからなかった。
俺は前の世界で、友達なんてものはいなかったし、人間関係なんてものは全然理解していない。
多分、理由はわからんが魔王はショックを受けている。
でも、慰める言葉なんてものは少しも思い付かない。
そんなことを考えているうちに、魔王は半泣き状態だ。
『泣かせたら、明らかに俺が悪くなるよな…』
このままでは、本格的に泣き始めてしまう。
ここは魔王の城なのだから、もし誰かに聞こえてしまったら面倒なことになるだろう。
「分かった、結婚してやるから泣くな、な?」
魔王の側まで行き、そっと頭を撫でてやる。
「グスッ…本当か?」
魔王か涙目の上目遣いでこちらを見てくる。
可愛いなんてレベルじゃない、もはや死んでもいいレベルだ。
そもそも魔王と結婚してもこちらに悪いことが一切ない。
「結婚するよ。ちゃんと愛を誓います」
一先ず、魔王が泣き止まなければなんにも進まない。
魔王が喜ぶ言葉を片っ端から並べる。
「結婚、してくれるんだな?」
「ああ、結婚しよう」
魔王はニヤリと笑うと、俺に抱きついてきた。
「結婚、結婚♪」
「お前、嘘泣きしてやがったな」
魔王はこちらを見つめながら、可愛らしい笑顔で言った。
「これからよろしくお願いします。旦那様♪」