「始めまして、魔王様」
目を覚ますと、目の前には鉄格子があった。
状況を確認するために周りを見渡してみると、この部屋は暗く、灯りは小さな窓から入る日の光くらいであり、とても普通の部屋ではないということを認識できた。
何があったのかを必死に思い出す。
「転生…したのか…?」
起きたばかりだからか、上手く頭が回らない。
転生して、その後何が起きたのか。なぜこんな牢屋のような所にいるのか。
暫く唸っていると、足音が聞こえてきた。
「起きたか」
声を聞く限りは、多分男であろう。
低く、あまり感情のこもってないような声。
「…」
俺はただ睨み付ける。その声の聞こえた方を。
全く現状を理解していないのだから、仕方ない。
警戒をしても、特別損をすることはないだろう。
「出てこい、魔王様がお呼びだ」
その声の主は鉄格子の扉を開け、こちらに同行するように呼び掛けてくる。
ここに留まっていても、特に進む訳ではない。
しかも、ここは転生したRPGの世界だ。
ストーリーに沿った進み方をするべきだろう。
『いや、今こいつは、魔王様と言ったな』
俺はその声の主に従い、後ろをついていく。
ここで1つの仮説を立てた。
なんの根拠もないが、ここは魔王の城の地下か何かだろう。
そして、今俺に声をかけてきたのは、手下のデーモンかなんかであろう。と
どうしてデーモンなのかは、見た目がそういう感じだった。
黒い身体に、黒い翼、そして顔の作りが人間ではない、明らかに人外の存在である。
暫くすると、大きく広い部屋にたどり着いた。
そう、例えるなら、魔王と勇者が戦うような、広々とした空間。奥には大きな玉座がある。
基本的な作りは、人間の王国などと大差ないようなものだと思う。
いや、そもそも人間の王国を実物で見たことはないが。
『3人か…』
俺の周りには、全部で3体のデーモンが槍を持ち、待機していた。
俺が変な行動を取ろうとしたら、すぐさま押さえるつもりなのだろう。
まだチート能力を試してはいない。チートと言っても、何処まで自分が使いこなせるかは全くわからないのだ。
「やっと目が覚めたのね」
気づくと、玉座に誰かが座っていた。
さっきまでは、誰もいなかったはずなのに。
「あんたは?」
「貴様、魔王様であるぞ」「口の聞き方には気を付けろ」
周りのデーモンが俺に槍を向けてくる。
「私は魔王…この世界を統べる存在よ」
魔王と名乗った存在が、コツコツと靴を鳴らしながら歩いてくる。
俺はその魔王の姿を見た瞬間、息をするのを忘れてしまった。
『こいつが、魔王…』
そこには、絶世の美女がいた。
絶世の美女なんて言葉で片付けれるような存在ではない。
色素の薄い肌、深紅の瞳、銀とも言えるような綺麗な白髪、そして、男の欲望をそのまま形にしたような身体をしていた。
出ている所は出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
これだけみると、ただの美しい美女に見えるが、黒く禍々しい角に、大きな翼が生え、何より雰囲気が普通ではないのだ。
「クスッ私の姿に見とれちゃった?」
魔王が誘うように笑う。
だが、いつまでも見とれている訳にはいかない。
「お前が魔王なのは分かった。俺をここに呼んだ理由はなんだ?」
「貴様!いい加減にしろ!」
俺の態度が気に入らなかったのか、1体のデーモンが俺目掛けて槍を突きだしてくる。
「短期な奴だな」
軽く上体を反らし、突きだした槍を避け、手刀で槍を叩き切った。
デーモンが表情が驚きの色に染まった。
素早く地面を蹴り、デーモンの懐に入り込む。
槍はリーチがある分、懐に入られては上手く扱えない。
そのままの勢いでデーモンを殴り飛ばした。
残り2体のデーモンも急いで攻撃しようとしてくるが
「遅い…っ」
同じように槍を手刀で破壊し、体術でねじ伏せる。
時間にしては数秒だったかもしれない。
武器を持たないただの人間が、数秒で魔物を倒したのだ。
魔王はそんな姿の人間を見て嬉しそうに、笑みをもらした。
「さすが、私の運命の人♪」