第80話 自由の矛編4-03 「会談開始」
第80話を公開します。
20150729公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。
そして遂に外交団は王との謁見に臨むが、事態は思わぬ方へ転がって行く。
11-03 『会談開始』 西暦2005年11月19日(土)昼
デュラフィス王との会談は意外なほどすぐに決まった。
昼食後に王の執務室の前に作られている応接室で行われる事が伝えられたのだ。
「ハルちゃん、今度こそ大人しくしてね。さすがに心臓に良くないから」
一度は守春香を庇ったが、エアートランペットを吹いていた春香の姿に断罪を下した佐藤静子三等陸佐が釘を刺していた。
「シズさん、私が大人しくしたくても、アッチがほっとかないと思うよ?」
「そりゃそうだろうけど、外交交渉を進める必要が有るんだから」
「よし、分かった。頑張ってトラの皮を被るよ!」
「それ、『猫を被る』って普通は言うのじゃない?」
「しまった! 本心を読まれてしまった!」
初めから外交団の会話を聞いていた護衛部隊隊長の関根昌幸が遂に堪え切れずに噴き出してしまった。
良くも悪くも外交団の緊張は霧散した。
昼食は現代人だけで摂り、会談に向けた最終調整を行った。
もちろん、ラミス王国人には解読不可の日本語での会話だったが、万が一の盗聴を考えて、隠語を多用していた。
事前の想定では春香に興味を持たれる事も考慮に入っていたが、予定よりも興味が集中し過ぎてしまった為に、その是正を図る事と、これまでに得たラミス王国の国力を基に見積もりの修正を行った。
ただし、今回の外交団の隠れた目的に関しては、今の所、情報が少な過ぎて予測の修正はしようが無かった。
昼食を終えて、しばらくすると迎えの応接係がやって来た。
昼食前に会談の事を告げに来た人物だった。
心なしか目の光り方がさっきと違っている。
明らかに警戒感よりも探る度合いが勝っている。
会談が行われる王の応接室は20畳ほどの広さだった。意外と狭い。
当然ながら、ここでも護衛部隊は別室での待機を指示されたので、外交団だけが応接室に通された。
重厚なテーブルを挟んで向い合せに設置された椅子の片側には6人の男性のラミス王国人が着席していた。顔を知っているデュラフィス王やネキフィス第3王子、アラフィス第5王子の他に3人の男性が居る。
雰囲気はそれぞれ違うが、そこはかとなく顔立ちからして王子達である可能性が高い。
その椅子の後ろには5人のラミス王国人が立ったまま控えていた。
その内の1人が謁見の場を仕切っていた重臣と言う事から、多分他の4人も王国の重臣なのだろう。
向かって右端、王が座っている後ろに帯刀した如何にも武人という雰囲気を醸している巨漢の中年男性が目立っていた。鍛えられた肉体もそうだが、刃の様な鋭さを感じる風貌も相まって、かなりの腕前を持っている事は医官である佐藤三佐にも伝わった。
応接係によって椅子を勧められて、外交団のそれぞれが一礼をしながら椅子に着席したタイミングで、デュラフィス王が口を開いた。
「どうだ、こちらの食事は口に合うか?」
春香の通訳を聞いた外交団の反応は、『なに、この、近所のおじさんというか久しぶりに会った田舎の親戚っぽい切り出し方は?』というものだった。
すかさず反応したのは守貴志だった。
「我ら全員が堪能していると断言出来ます。お心遣いに感謝を」
春香の翻訳を聞いたデュラフィス王がニヤリと笑った。
「そうか、それを聞いて安心した。味の分からない蛮族相手では、交渉のし甲斐が無いからな。それにアラフィスから聞いたが、其の方らの料理も変わった味付けながらも大層美味だと聞いた。こちらの食材を使って振る舞う事は可能か?」
春香の翻訳を聞いた貴志の返答は思わせぶりであった。
「王が望まれるのならば、如何なる手段を用いてでもご用立てしましょう」
その答えに対する王の反応は短いが大きな笑い声であった。
「誘うのが上手いな、お主。そう言われれば、どの様な手段を取るのかに興味が湧く。もしかすれば、我らの知らぬ術を持っているのではないか? とな。気が付けば、料理では無く、其の方が持っている技術に誘導されてしまう訳だ」
そう言って、王は後ろに控えている重臣に声を掛けた。
「例の物を」
持って来られたのは、5個の89式小銃の空薬莢と空のペットボトルだった。
「この金属の部品の半分は研究の為に実験に使った。結果、分かった事は明らかに我らよりも進んだ技術と未知の鉱物の存在だ。この容器に関しては想像も出来ん技術が使われている。アラフィスに渡したのも誘いだな?」
貴志の答えはすぐさま返された。
「王の言われる通り、こちらに興味を引くが為の餌です」
貴志の答えに王はニヤリと笑うと、真顔になって更に発言をした。
「それだけではあるまい。興味の持ち方でこちらの事を探ったのであろう? 興味を示すか示さないか、どの程度の興味を示すかで、こちらとの交流の仕方を決める気だったのであろう?」
貴志はわざとらしい程の苦笑を浮かべた。
「全てをお見通しですね」
王は真顔のままで更に発言した。
「そして、更に今も誘っておる。どこまでも本心を現さんな、お主」
貴志の返事は、ニヤリとした笑顔だった。
如何でしたでしょうか?
王様、かなりぶっちゃけ過ぎ(^^;)
意外と、ストレートな性格なのかも知れませんね。
でも、貴ニィの誘いを悉く見破っている事から、かなり鋭い人物と言う事も判明しました。
それよりも、紹介もされずに会談に臨んでいる3人の王子達(アラフィス第5王子・ネキフィス第3王子以外)がどんな顔をして会話を聞いているのかに興味が湧く今日この頃です(^^)
そして、意味ありげに登場した武人の活躍する場が来るのでしょうか?
まあ、『姫来て』番外編としてmrtkのブログで公開した事が有るのですが、本編では早目に初登場してもらいました(^^)
さあて、狸同士の鞘当てはどの様に転ぶのでしょうか?
アンツィオ頭のmrtkには想像も出来ません(いや、作者ならプロットをちゃんと考えろよ、mrtk ^^;)