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第79話 自由の矛編4-02 「謁見」

第79話を公開します。



20150727公開

20150729一部修正

   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 そして遂に外交団は王との謁見に臨む。


11-02 『謁見』 西暦2005年11月19日(土)朝


 守春香は時として複数の人格を持っているかのように振る舞う事が有る。

 親友の宮野留美が名付けた、『黒ハル』と『白ハル』がその最たるものだろう。

 とは言え、彼女は解離性同一性障害を持っている訳では無かった。記憶や感情が統一出来ているし、現実から逃れる必要も無いからだ。

 ただ単に、振れ幅が大きいだけと言えるのかも知れなかった。

 そして、幼稚園児の時から付き合いの有る宮野留美でさえも知らない彼女の姿も存在した。

 彼女が戦場で見せる、敵に対して容赦の欠片も無い振る舞いをする時の守春香の姿だった。

 そして、当然ながらそれ以外にも余り表に出さない姿も有った。


「面を上げよ、異教徒よ」


 その言葉を日本語に翻訳して言葉を出しながら、春香は自分が間違って戦闘モードに入ってしまっていた事に気付いた。

 ちょっと気合を入れ過ぎた。気合を入れるにしても、さすがにこれでは交渉にならない。

 ちょっとくらいカチンと来ても、ここはスルーすべきだ。


『テヘ・・・ クールダウン、クールダウン・・・』


 何故か自然と浮かんでいた笑みを、顔を上げる途中で無表情に戻す。

 左隣のシズさんがポカンとした顔をして動きを止めているのが視界の端に映った。

 チラッと視線を送ると慌てた様に正面に向き直った。


『ありゃ、ちょっと恥ずかしいかも・・・ ま、いっか』

 


 良くは無い・・・

 一瞬で雰囲気や思考の方向性を変える事の出来る春香と違って、一般人の佐藤静子三等陸佐は混乱に陥っていた。


『え? え? 今、何が起こった?』


 

 その佐藤三佐の混乱と同じ事は、謁見の進行を担っているラミス王国の重臣、ケトラ・クイラにも起こっていた。

 只でさえ目立つ『主神の恩寵』を纏った矮人の少女が、ほんの一瞬だけ放った戦士の様な雰囲気に意識が取られた。

 他の重臣は気付いていないであろう。皆、頭を垂れていたのだから。

 少女の変化に気付けるとすれば・・・


「矮人の少女よ、そちは面白いな。器用なのか、それとも愚かなのか? おぬし本人はどちらと考える?」


 デュラフィス・ラキビィス・ラミシィス王が式の進行を無視して直接言葉を発した。

 前代未聞の事態だった。

 謁見を受ける者が、王の謁見を賜る事に対して過大に装飾された言葉で謝意を表した後に、王が短く答えるのが慣例であった。

 それがいきなり、王の質問である。

 それまで静まり返っていた広間にざわめきが拡がって行く。


主神ラミに導かれ認められし一族代表のデュラフィス・ラキビィス・ラミシィス王よ、いくら『主神の恩寵』を授かっていても、所詮は人間。うっかりは誰にでも起こり得ます。とは言うものの、今のはさすがにうっかりと言うにはやり過ぎ。愚かとしか言えますまい」


 広間の重力が一気に数倍になった様な空気が広がった。

 言葉が分からない外交団を除き、ラミス王国の臣下は息苦しさを感じた。

 余りにも予想外の進展が続いているからだ。

 まず、いきなりの王の質問。それに臆する事無く答える矮人の少女。

 しかも、その言葉はいにしえの言葉だった。


「我らは主神ラミより恩寵を賜るまで野の獣と変わりが無かった。

 何故ならば、生き残る事のみが生存意義であったのだから。

 我らは恩寵を自覚するまで野の草花と変わりが無かった。

 何故ならば、世の理を余りにも知らなかったからだ。

 我らは恩寵を授かったが故に、野の獣とも、野の草花とも違う道を歩まねばならぬ。

 主神の望む道を進まねばならぬ」


 春香は『再誕期の書』の一節を、一部にしか伝わっていない古代の言葉で歌うかのように朗読した。


「なるほど、そちの言う事ももっともだ。人間、誰しもうっかりはあるな。ケトラ、これで謁見は終わりだ。すぐにもっと近くで話が出来る場を設けよ」


 デュラフィス王はそう言って、視線を春香に向けた。


「少女よ、そちの名は?」

「ハルカ・モリと申します、主神ラミに導かれ認められし一族代表のデュラフィス・ラキビィス・ラミシィス王よ」

「覚えておこう」



 ラミス王国の王と、現代人の謁見はこうして終わった。





「春香、お前、突っ走るにも程が有るぞ!」


 控えの間で守貴志が春香に小言を言っていた。

 事の顛末を聞き終わった瞬間に怒られていた。


「いやあ、ほんとにゴメン! さすがに私もやり過ぎたと反省しているよ。えーと、『若気の至りアン』と言うか・・・」

「反省する気なしだな・・・」

「いやいや、本当に反省してるって、貴ニィ」


 兄妹の応酬をオロオロとしながら見ていた外交団だったが、最初に口を開いたのは使徒のムビラだった。


「タカシ様、ハルカ様ハ、ワレラ『ッギュルゥットィヴァグ』ノタメニオコッテクダサッタノデス」


 そう言うと、ムビラは彼らの最敬礼に当たる座して頭を下げる姿勢を取った。


「え、どういう事?」


 次いで声を上げたのは外交団最年長の園田剛士だった。


「園田さん、ラミス王国の重臣が使った『異教徒』という言葉が問題なのですよ。使徒からすれば、彼らこそ正統な信徒なんです。それを我ら地球人と同じ扱いをされたから、思わず春香が怒ったという事です」

「なるほど」

「とは言え、我々の目的を考えると、意味の無いトラブルに発展する恐れが高い行動をした訳ですから怒っているのですが、本人には反省をする気が無いみたいです」


 そう言われた春香は、ムビラを立たせた後はそっぽを向いて、口笛を吹く真似をしていた。


「でも、結果だけを見れば、結果オーライとも言えるのでは?」


 ロバート・J・ウィルソンUSMC第31海兵遠征部隊選抜チーム隊長が言葉を挟んだ。


「重臣たちの慌てぶりを見れば、異例の展開だったのでしょう。それに、どうやら王も直接言葉にしなかったとはいえ、責任を認めたとも言えますからね」

「ええ、その通りなんですがね・・・」


 春香は口笛を吹く真似から横笛を吹く真似に進化していた。


「怪我の功名と言う言葉も有るし、ハルちゃんも反省してると言ってるし、この辺で許して上げたら?」


 佐藤三佐も助け船を出した。

 春香はトランペットを吹く真似に進化していた。


「守団長、怒ってもいいと思う」



 ラミス王国の応接係が外交団に昼食以降の予定を告げに来た時に見た光景は、ケトラ・クイラ経由でデュラフィス王に伝わった。




 貴志によって正座をさせられた上で叱られている春香の姿は、『謎の宗教儀式』として伝えられた。





如何でしたでしょうか?


 前回の展開、引きを考えると、大参事なり血みどろの展開なりを予想された方が多かったと思いますが、結果はご覧の通りです(^^;)

 肩透かしを食らったという方には、伏してお詫びを m(_ _)m

 それと、王様が意外といいキャラになっちゃいました(^^)

 何かのフラグなのでしょうか?

 まあ、ノリと勢いだけで書いているアンツィオ高校の様なmrtkですから、伏線なんか何処にも張ってませんよ・てませんよ・せんよ・・・・・・よ?

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