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第78話 自由の矛編4-01 「鬼の笑み」

第78話を公開します。



20150724公開

   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって24日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 そして遂に外交団は王との謁見に臨む。



11-01 『鬼の笑み』 西暦2005年11月19日(土)朝



「うーん、緊張する・・・」


 佐藤静子三等陸佐は、目覚めてから5回目となる言葉を発した。

 彼女の言葉に答えた声は少女のものだった。


「大丈夫ですよ。最悪、いざとなれば、パチンコ玉もあるし」


 その声音に緊張感は含まれていない。

 

「パチンコ玉を持っているから安心って、傍から聞いたら“何言ってんだ、こいつら”って思うでしょうね」


 ラミス王国の王様との謁見の時間が迫って来ていた。

 一旦、男性陣や自衛隊の護衛部隊と合流した後、外交団だけが王様と謁見する事が昨夜の内に伝達されていた。


「もし、私が伏せて!って叫んだら、迷わずに耳を抑えて口を開けて身体を伏せて下さいね。目もつぶっていた方がいいかな?」

「なんかえらく物騒な事を言っている気がするんだけど?」

「下手したら衝撃波だけで耳や肺がやられるもんで」

「こわ・・・ でもそう言うハルちゃんは?」

「ちゃんと対策はしてるから大丈夫ですよ」

「そう言えば、今日は迷彩服じゃないのね?」


 守春香のいでたちは黒い作業着だった。

 もっとも、只の作業着とは思えない。自衛隊が採用している迷彩服2型から迷彩パターンを外した様なデザインだった。


「ハレの場ですからね。我が社が開発した最新の素材で作られた試作品ですよ。この状態で自衛隊の防弾チョッキ込みに匹敵する防御力を持ってます」

「あんたら兄妹って何者? って時々思うわ・・・」


 春香の答えは笑みだった。

 女子高生が浮かべる様な類の笑みでは無かったが・・・・・



 謁見は予想通り、壮大と言える様な広間で行われた。

 地球でもここでも、王様の権威を印象付ける手法はさほど変わらないのだろう。広間の奥は2㍍ほどの高さの雛段になっている。そこには一目見て玉座と分かる装飾された巨大な椅子が鎮座していた。

 謁見を受ける人間は、自然と王との間に高低差と着座した王と地面に居る自分との立場の違いを感じる様に意図されていた。

 それを補強する様な巨大な空間が、更に謁見を受ける者に心理的な圧力を掛ける計算だろう。

 もっとも、外交団が広間に入る直前に守兄妹がプレッシャーを解放すると、案内をしてくれた衛兵の表情に驚きが走ったのを私は見逃さなかった。

 おかげで心の余裕が出来たので、謁見の間に入る時には緊張が解けていた。

 広間に通された途端、中に控えていたラミス王国の家臣団や軍人からざわめきが起こった。

 事前に聞かされていた話では、この国の人々はハルちゃんや外交団団長の守貴志君たちの守兄妹が発する特殊な脳波を人物判断の材料にしている。

 だからこそ、守兄妹が放つ脳波、特にハルちゃんに驚くのだ。

 使徒代表のムビラ少年が片言の日本語で教えてくれた。


『ハルカ様ノケリャクハトンデモナイ』と・・・


 誘導されるままに謁見を受ける場所に歩いて行く間も、ざわめきは続いた。

 『掴みはOK』というお笑い芸人の様な言葉が私の脳裏を過ぎった。

 謁見の位置まで進むと、事前に教えられた通りに、頭を下げつつ右膝を床に付けて、両手はそれぞれの足の太ももに添える姿勢を取った。

 右斜め前に控えていた初老の家臣が言葉を上げた。


「これより謁見の儀を行う」


 外交団にギリギリ聞える声量でハルちゃんが訳してくれた。

 初老の家臣の言葉に反応して、広間に居たラミス王国の人々が同じ姿勢を取ったのか、背後で一斉に物音が響いて、すぐに静まった。

 それに合わせる様に初老の家臣の声が再び響いた。


主神ラミに導かれ認められし一族代表、デュラフィス・ラキビィス・ラミシィス様、ご入場」


 遂に王様の登場だった。

 先程までと違ってシーンとした広間に、木で出来た靴底がコンクリの様な素材で造られた床に当たって上がる靴音が響く。

 頭を下げているので見えないが、靴音だけである程度の推測は出来る。

 歩幅は広いし、力強さも感じる。左右のリズムが同じと言う事は脚部に異常は無い。

 身長は歩幅とリズムから高いと思われる。体重は100㌔前後か? 

 真正面の壇上に置かれた玉座まで進んだ足音が止まった直後に何か重いものをクッションに落とす様な音が響いた。

 しばらくして初老の家臣が何かを告げた。


「面を上げよ、異教徒よ」


 ハルちゃんの言葉に左隣に居るムビラ少年の肩がピクっと反応した。

 私は右隣に居るハルちゃんの横顔をこっそりと見る為に視線を一瞬だけ動かした。


 彼女が顔を上げる直前の表情が視界の端に見えた。




 彼女は薄っすらと笑っていた。




 その独特の笑顔を見た瞬間、私の背筋は凍えた。

 特戦群の猛者たる関根二尉が言っていた意味が分かったのだ。



 そこには私が知っている普段のハルちゃんは居なかった。



 笑顔を浮かべる怪物が居た。


 戦場での守春香オニが居た。

 

 



  


 


如何でしたでしょうか?


 春香嬢、怖いッス(><;)

 なんか、「肉食系」どころか、Tレックスの様な肉食系恐竜を連想する様な・・・

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