第76話 自由の矛編3-08 「使徒ムビラ」
第76話を公開します。
20150713公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって23日目。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。
外交団最年少のムビラの目に映るものとは?
10-08 『使徒ムビラ』 西暦2005年11月18日(金)朝
使徒のムビラはあの悲劇の日から目まぐるしい程の経験を重ねていた。
そして、今度は想像もした事も無い下界への旅だった。
彼ら『ッギュルゥットィヴァグ(使徒)』にとって、下界は『遅れてきた者(巨人)』に占拠されている土地と言う認識だった。
実際に2000巡期以上もの間を静かに時を過ごして来た『ッギュルゥットィヴァグ(使徒)』は、2年前に上界に侵攻してきた『遅れてきた者(巨人)』に征服された。
あの『解放の朝』が無ければ、きっと今も潜む様に生き延びるしかなかった。
だが、ラミ(主神)は我々を見放していなかった。
『ケリャカイス・ラミシィナ(主神の加護を強く受けし一族)』を我らの下に戻してくれたのだ。
更には、下界への道も差し出してくれた。
ラミシィナ(ラミス神国)の承認によって建国されたラミシィス(ラミス王国)が今も存在し、『遅れてきた者(巨人)』と戦っているなど想像もしていなかったが、現実はこの巨大な砦を建造する程の力を保持していた。
「使徒ムビラ、祈りは済んだか?」
ラミ(主神)のお導きによって戻って来た『ケリャカイス・ラミシィナ(主神の加護を強く受けし一族)』の1人、モリタカシ様が日本語で訊いて来た。
「ハイ」
「そろそろ朝食の時間だ。身支度を済ませておくように」
「ハイ」
守春香程ではないが、ムビラも言語関係の才能が豊かだった。
春香が手書きした辞書を数日で記憶し、更には『センセイ』と呼ばれる2人のニホンジン(日本-住人)と手探りでお互いの言葉を理解しあう日を重ねる事で、日本語で簡単な会話程度ならば可能となっていた。
もっとも、ラミシィスで使われている言葉は、ムビラ達の言葉を原型としながらも変化が多く、未だに完全な習得には至っていなかった。
朝食は昨夜と違って、いつも使われている食堂の様だった。
一般兵士の姿が無いし、規模も小さいので特別な食堂なのだろう。
2人の王子を筆頭に、要塞の上位の者と思われる数人が会食の相手だった。
ラミシィス人の視線は通訳を務めるハルカ様に自然と集まる。
ムビラは無作法にならない程度に木で出来た食卓の向こうに座るラミシィス人を観察をしていた。
『ケリャク(主神の恩寵)』はムビラたち『ッギュルゥットィヴァグ(使徒)』よりも遥かに多い。
だが、ハルカ様と比べると少ない。2人の王子でさえモリタカシ様と変らない程だった。
量も少ないが、質はもはや比較にならない程だ。
ハルカ様が昨日行った奇跡の御業の再現など絶対に不可能だろう。
あれは凄まじかったとしか言い様が無い。
至近距離で行われたおかげで、今もハルカ様の姿を見れば自然とあの時の光景が目に浮かぶ。
3ドグ(約8㍍)を超えるほどの範囲にケリャクを放ち、その身に、見た者全てに祝福を与える様な固形化したとしか言い様の無いケリャクを身に纏ったハルカ様は、もはや人としての存在を超えていた。
その姿を見た者全てが『奇跡の発現』と思わざるを得ない神々しさ・・・・・
ケリャクを見ることが出来ないニホンジンも思わず、膝を付いていた程だった(後々の為に、影響を消す様にわざわざ逆の御業を施した程だった)。
あのお姿を見てしまったラミシィス人は、無意識のうちにハルカ様に害を為そうとは思わないだろう。
何故ならば、ラミ(主神)より授かった『ケリャク(主神の恩寵)』で行われた御業を否定する事は、ラミ(主神)への信仰をも否定する事になるからだ。
ラミシィス(ラミス王国)の王都へ出発したのは、朝食会が終わって1大時刻(約1時間38分)後だった。
途中で立ち寄った小さな砦(それでも『遅れてきた者(巨人)』の砦並みの大きさだった)で昼食を摂り、途中で何度かの休憩を挟みながら王都に到着した頃には夜になっていた。
如何でしたでしょうか?
後に「タグィリラル砦の奇跡」と呼ばれる事になる春香嬢の暴走を違う視点で語る為にムビラ君に登場して貰いました。
思ったよりも短い話になってしまいました・・・・・・(^^;)
ちなみに、現代人は感じる事しか出来ませんが、ラミス王国の人間は見る事が出来ます。
それ故に離れていても春香嬢がやらかした事を理解しています。
1000人以上の人間が見てしまった「奇跡」を隠す事は流石に戦時中と言えども不可能でしょう。
現代人と異世界人との外交にどの様な影響を与えるのでしょうか?
P.S. ルビ振りがどうやっても上手く行きません(;;)
おかげで見難い文面に・・・・・・ ort
只でさえ読み難い文章なのに・・・・(T_T)