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第74話 自由の矛編3-06 「形」

第74話を公開します。



20150708公開

   挿絵(By みてみん)



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって22日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為にラミス王国への外交団を派遣する。

 到着した“要塞”で、外交団は異世界で初めての歓迎を受けていた。



10-06 『形』 西暦2005年11月17日(木)夜



 歓迎式典は通訳の守春香の奮闘も有り、まずまずの成果を上げた。

 最大の成果は、『主神の恩寵』を持たない『矮人』と呼ばれる人類種にしては、知性も理性もそれなりに有るとラミス王国人に認めさせた事だった。

 言い換えると、“交渉のテーブルに着くに値する相手”と見られる様になったと言える。

 現代人からすれば、文明が数世紀以上も遅れている相手に見下されていると捉える者が出ても不思議ではないが、実際は個人レベルで見ればラミス王国人の方がIQも高く、理性的であった。現代人に科学文明の知識が有ったとしても、理性ばかりは知識がいくら有ろうとも正比例で増える訳では無い。

 また、現代人側がラミス王国人が発するプレッシャーに慣れた事も収穫だった。

 いつまでもプレッシャーに慣れないならば、今後の交渉にも支障が出ただけに、小さいながらも意義が大きな収穫だった。


 そして、式典も終わりに近づく頃、ラミス王国側のサプライズイベントが行われた。

 

「殿下、お気持ちは嬉しいのですが、さすがに頂けません。どうか、お考え直し下さい」


 困った顔をする春香を見ながら、笑みを浮かべるのはネキフィス・ラキビィス・ラミシィス第3王子だった。


「いや、是非とも受け取って欲しい。自分の人生であれほどの経験は初めてだった。その貴重な体験をもたらしてくれたお礼もだが、より実直に言えば貴女きみを気に入ったからだ」


 その言葉を聞いた周囲からどよめきが起こる。

 第3王位継承権を持っている王子が発する言葉では無かったからだ。

 一歩間違えれば、ラミス王国内で色々な政治的な問題になりかねない。


「春香様、よろしければ兄上からの贈り物を受け取って下さい」


 ネキフィスに助け船を出したのはアラフィス・ラキビィス・ラミシィス第5王子だった。


「兄上は我ら兄弟の中ではいささか変わり者でして、更には少々頑固なところが有ります。まあ、臣下に見放される程ではないのですが・・・ そうであろう、ミケラ?」


 いきなり振られたミケラ・ドラカはネキフィスに幼少期から付いている側近だった。

 彼は動揺も見せずに答えた。


「その通りです、アラフィス殿下。ネキフィス殿下はほんの少ーし頑固者ですが、自分を始め配下全員がネキフィス殿下を慕っております」


 何故か周囲の空気が温かいモノに変った。ネキフィスの人間性が、王族と言うフィルターを通り抜けて部下に伝わっているのだろう。


「それに、先に剣を贈った私に火の粉が飛んで来ないとも限りません。どうか、私を助けると思って、兄上からの剣も受け取って下さい」


 さすがにそこまで言われれば、春香も受け取るしかなかった。


「分かりました。お受け致します。ネキフィス殿下、光栄に存じます」


 ネキフィスから事前に指示を受けていた従卒が、細長い木の箱を両手で捧げ持ってネキフィスと春香の傍にやって来た。

 ネキフィスは箱から1本の剣を取り出した。鞘には幾何学模様の立派な装飾が施されている。

 ネキフィスが視線を目の前の少女に移した時、さっきまでと違う印象を抱いた。

 立派な装飾の剣にやや驚いたというか驚嘆している風を装っているが、武人らしい興味を抱いた事が微かに見て取れる。

 ネキフィスは剣を抜く事を告げ、更に春香の反応を探る事にした。

 その剣は、アラフィスが贈った剣と長さは同じくらいだったが、より剣身が太く、重心が剣先に寄った打撃力重視の造りをしていた。剣身にはアラフィスの剣と同じ模様が彫刻されている。


「いかがかな、春香殿? それなりに良い剣だと認識しているが?」

「ええ、本当に立派な剣ですね。本当にありがとうございます」


 春香は笑顔を浮かべた後、少し異国風ながら、優雅なお辞儀をした。


「アラフィスより、春香殿が優れた技量を持つ剣士と聞いている。もし良かったらお手並みを見てみたいのだが?」

「さすがにそれは保安上の問題が有ると思われますが?」

「なるほど・・・ では、あちらの空いた場所で型の1つでも披露してもらうというのは如何かな?」


 ネキフィスが指差した先は確かに空間が出来ていた。

 春香が歓迎会開催前にラミス王国人たちと話していた場所だった。

 さすがに簡単に誘いに乗る訳にもいかず、春香は兄でもあり外交団の団長でもある守貴志の方を見た。

 貴志は頷いた。

 苦笑を浮かべていたが・・・


「では、簡単な形だけでよろしければ」

「アラフィスが“只者では無い”と言っていたので、楽しみだ」


 周囲から4㍍は空間が空いた場所で、ネキフィスの従卒から抜き身の剣を受け取る。

 見た通りに重心はやや剣先に寄っているが、真剣を使った素振りを平気でこなす素の春香の筋力だけでも扱える範囲内だった。元々が片手剣として造られている為に柄がやや短いのが気になるが、何とかなるだろう。

 普通に形を披露しても良かったが、それではネキフィス王子は納得はすまい。

 春香は剣身に左手を沿わせて、含まれているUKをこっそりと固定していった。

 幼い頃より習った剣術の立ち姿勢を取ると、周りから音が消えた。


 ネキフィスは、春香の雰囲気が変わった事に気付いた。

 感覚的に捉えた雰囲気を言葉にするとすれば、彼女に場の空気が吸い込まれて行くという感じだろうか?

 目が離せなくなる。

 彼女が立ったまま上半身を前に傾ける動作をして少ししてから頭を戻した。


『やべえ・・・ こいつは予想以上だぜ』


 動作を起こした場所にピタリと頭を戻すという、たったそれだけの動作で、ネキフィスは4㍍先で立っている少女が只者では無いと分かってしまった。

 余りにも滑らかで無駄な力を全く使っていない。どれだけ練習しても到達出来るかどうか分からない程の身のこなしだった。

 少女が剣を前に出す感じで構えた。見た事も無い構えだった。片手剣にも関わらず右手を前に、やや離して左手を後ろに構えている。脚はほぼ揃えている。

 彼女が動いた。

 剣を上に上げた後、すっと前に出ながら打ち降ろした。


『だから、やべえって・・・』


 目が剣筋を捉えているにも関わらず、何故か認識が遅れている奇妙な感覚に陥る。

 実戦で対峙していたら、頭を割られて初めて斬られたと認識するレベルの剣筋だった。

 


 数分後、少女が形を披露し終えた時、初めて音が戻った。

 





 

 

 




如何でしたでしょうか?


 えーと、春香嬢の剣術に関しては素人が書いているので、本職の方から見れば噴飯モノと言う事を先に言っておきますね(^^;)

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