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第72話 自由の矛編3-04 「タグィリラル砦の奇跡」

第72話を公開します。



20150630公開


P.S. 1つ後ろで砦の見取り図を公開しました(^^)

   挿絵(By みてみん)


あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって22日目。

 取り残された現代人は、異世界での生き残りの為に新たな一歩を踏み出す。

 ラミス王国への外交団の派遣であった。



10-04 『タグィリラル砦の奇跡』 西暦2005年11月17日(木)夕方


「静子先生、大丈夫ですか?」


 守春香の問い掛けに、両ひざに両手を置いて息を整えていた佐藤静子医官は頷くのがやっとだった。

 たった今、降り切った縦穴の洞窟で感じた恐怖を思い出したのか、彼女の身体がブルッと震えた。

 33年間の人生で一番死と隣り合わせな時間だった。


「ご、ごめん。ちょっとだけ息を整えさせて・・・」


 春香がアラフィス王子に何かを言って、アラフィスも短く答える声が聞こえた。


「ここで10分くらい休みます。関根隊長、先生の水、出してもらっていいですか?」


 すぐに静子の視界に2㍑サイズのペットボトルが差し出された。


「水でも飲んで下さい」

「うん、そうする。ありがと、ハルちゃん」


 静子は遠慮なく腰を下ろす事にした。真正面に春香がしゃがんで顔を覗いて来た。

 彼女は自分が背負っていた背嚢から戦闘糧食Ⅱ型の空き袋を取り出して、クリップを外した。

 中から出て来たのは初めて会った時にご馳走になったクッキーだった。

 差し出されたクッキーを受け取る為にペットボトルの水を少しだけ使い、左手の人差し指と親指を簡単に洗う。濡れたままだが構わずに掴んで口に頬張る。

 やっと、生き返った気分になれた。


「まあ、後は森を抜けて平地を歩くだけですから」

「えーと、どれくらい歩くの?」

「3時間くらいってところかな?」


 一息付けたせいか、静子の耳に周囲から色々な音が入って来た。鳥の鳴き声やら風に煽られて木々の枝が触れあって出る音が聞こえる。

 ぐるっと周囲を見渡す。

 現在地は崖のすぐ傍まで迫っている森の端っこだった。

 太陽は崖に阻まれて見えない。

 だが、もうしばらくすると、この星特有の夕焼けが始まるだろう。

 視線を崖に向けた。ずっと上の方まで続いている崖がのしかかる様な圧迫感を静子に与えた。


「よく降りれたわ。自分を褒めたい気分」

「帰りは登らないといけないんですけどねぇ。ま、アラフィス王子に言って、登り易いようにロープでも張っておいて貰いますね」

「そうして。でも登りの方が前を向けるから気が楽かも」


 静子は下を見るのが怖くて、下からの春香の指示に合わせて洞窟を降りていた。

 休憩が終わる頃には静子も元気が出て来た。

 もっとも、第一の目的地のタグィリラル砦に辿り着いた3時間後には息も絶え絶えになっていたが。


 ラミス王国が築いたタグィリラル砦は巨大としか言い様が無かった。

 自分達が奪った巨人の砦の数倍は大きい。形も複雑で、見える範囲で推測するとどうやら北海道に在る五稜郭をもっと大規模にした風に見える。全周は水掘で囲われ、堀の内側をどっしりとした感じの石垣で囲んでいる。

 更には石で出来た塔もいくつか見えた。

 軍事的な知識に疎い静子の目に映ったタグィリラル砦の印象は、一言で言って「難攻不落の要塞」という言葉がふさわしいものだった。おかげで、自分達の砦が頼りないものに思えて来た。

 こんな“要塞”を築ける国が、本気で自分達の砦を攻めて来たら・・・・・

 疲労とは違う脱力感が、静子の背中を駆け抜けた。


「うーん、近くで見たら思っていたより堅そうだなぁ。真正面からでもやれない事も無いけど、パチンコ玉じゃ時間も掛かるし、帰ったら攻城用の鉄球でも作って貰おうかな・・・」


 静子の背中を先程とは別種の脱力感が駆け巡った。


「ハルちゃん、貴女が何を言っているのか分からないけど、これだけは分かる。きっととんでもない事って事くらいは」

「いやー、お恥ずかしい」


 何故、そこで照れ笑いを浮かべるのか? を、静子は問い質したかったが、このに関しては突っ込んだら負け、という事は短い付き合いながらも身に染みているので、敢えて突っ込まなかった。

 水堀の外周を大きく廻り込んで、水堀に架けられた幅5㍍くらいの木造の橋を渡って巨大な門を潜った先に待っていたのは大きな広場だった。

 そこには軽く1,000人を超える兵士たちが直立していた。

 中央部に幅10㍍ほどの通り道が作られていた。

 アラフィス王子を先頭にラミス王国の外交団がその道へ近付くと、兵士たちが一斉に向きを道に向けてひざまずいた。

 それに対して、静子たち大阪狭山市の外交団は一歩も動けなかった。

 静子の精神は、その集団に近付く事を拒否していた。

 道中でもラミス国の人間に接近し過ぎると感じたプレッシャーが、ここでは数と言う暴力で途轍もなく増幅されている。

 そんな場所に近付く事など精神崩壊を引き起こす自殺行為だった。


「おおー、凄い凄い。さすがにこれだけの人数の『ご先祖の脳波』は圧巻だね、貴ニィ」

「お前なぁ。これじゃあどうしようもないので、何とかしろ」

うけたまわり!」


 途端に静子の精神が緊縛から解放された。

 すぐ傍に天使が舞い降りた様な異様な感覚が静子の精神を満たして行く。



 人類種を超えて、その場に居た1人を除く全員が一斉に春香を見た。

 その顔には1つの表情しか現れていなかった。

 

「貴ニィ、悪乗りしていい?」

「許す」


 春香は更に『前頭葉の暴走』を起こした。

 


 数秒後、広場で立っているものは守兄妹の2人だけだった。



 親友の宮野留美をして、『白ハルの時はマジ天使』と言わしめる、春香のもう1つの顔だった。

如何でしたでしょうか?


 「始まりの日」の時の『黒ハル』に続き、またしてもやっちゃいました ort


 どうすんの、この後の展開・・・・・ ort

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