第71話 自由の矛編3-03 「外交団の出発」
第71話を公開します。
20150629公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって22日目。
取り残された現代人は、異世界での生き残りの為に新たな一歩を踏み出す。
10-03 『外交団の出発』 西暦2005年11月17日(木)朝
砦の広場には、ほぼ全ての市民が集合していた。
彼らの視線の先には2つの集団が居た。
一方は一昨日到着したラミス王国の外交団と護衛の兵士達。
もう一方には市を代表してラミス王国を訪れる外交団と護衛の自衛隊員達だ。
ラミス王国の訪問団は昨日1日を使って、守春香を通訳としながら一部の区画を除き砦の隅々まで視察していた。
その際に、声を掛けられた市民も多数存在していた。
アラフィス・ラキビィス・ラミシィス、すなわちラミス王国の第5王子は意外と外交官としての才能も持っていた様だった。彼の笑顔に警戒心を解いてしまった市民が少なからず居たのだ。
だが、市民の全体的な空気はさほど楽観的なものでは無かった。
初めての訪問時に彼が言った言葉が頭に残っているからだ。
『秩序を保つ為ならばラミシィス国は万の単位の兵を差し向けるだろう』
平和国家として歩んで来た戦後の日本で生きていた彼らにとって初めて経験する、他国からの恫喝を直接経験したのだ。
万が一、戦争になった場合、いくら現代文明で武装した自衛隊と米海兵隊といえども勝てるかどうかは微妙なところだろう。自衛隊員と海兵隊員を合わせても500名を少し超えたくらいしか居ないのだ。その内、砦奪取と巨人増援部隊との戦闘で負傷して入院中の者が23名居るので、実際は更に少ない。
下手したら数十倍もの人数の敵に勝てると言い切れる市民は居なかった。
「では、園田さん、守君、くれぐれもよろしく頼む」
暫定市長の金澤達也が言葉を掛けながら、名前を挙げた2人に握手を求めた。
先に握手をしたのは大阪狭山市の政策調整室危機管理グループの係長の園田剛士だった。
彼は自衛隊による救出前に、言葉が分からないながらも巨人に市民の待遇改善を求めた結果、制裁を受けていた。その時の怪我が元で一時は生死の境を越えそうになったが、自衛隊の衛生分隊の手当で生き延びていた。
動き回れるようになって10日ほどだが、マラソン大会に出場するのが趣味だった彼は、体力が有ったせいか回復が早かった。
外交団のバランスや能力を考えた結果、彼を派遣する結論になっていた。
「少しでも期待に応えられるように頑張ります」
そう答えた園田の表情は渋みのある顔の造形も相まって、頼もしいものが有った。
次いで握手した貴志はいつもの表情だった。
金澤の次の握手相手は、アメリカ合衆国代表として参加するロバート・J・ウィルソンUSMC第31海兵遠征部隊選抜チーム隊長だった。
「大尉、市民を代表してお願いする。なんとしてでも今回の訪問を成功に導いて欲しい」
「全力を尽くす事を約束します」
本来であれば軍人の彼で無く、ステーツが送り込んだ学者のリーダーが行くべきであったが、残念ながら彼は精神的な理由で辞退していた。その一因を作ったのは例のカレッジの学生だった事にウィルソン大尉は気付いていたが、今となってはどうでも良い事だった。
「佐藤三佐も宜しくお願い致します」
「ええ、承りましたわ」
「春香君も大変だろうが通訳をよろしく頼む」
「了解です」
握手の最後の相手は少年だった。
「ムビラ君も頑張ってくれ」
「ラミノミチビクママニ」
今回の外交団には、本来であれば選ばれないであろう人物が混じっていた。
使徒の少年、ムビラだった。
だが、外交を任されている貴志の推薦で、ムビラも連れて行く事が決まっていた。
理由の1つ目は、重要な立場にある使徒たちを無視出来ないからだ。市民が砦の運用に携わる様になったとはいえ、まだまだ使徒に比べると不慣れだったので実質的な運用は使徒が仕切っていた。
次に100人を越える集団は構成比が高く、無視し得えなかった。
最後に将来的な事も見据えて、敢えて若い語り部の彼を連れて行く事にしたのだ。
砦の運命を担った外交団は、市民の祈る様な見送りを受けて砦を後にした。
如何でしたでしょうか?
4日ほど間が空いたので、筆が進みませんでした(^^;)
P.S.
イラストに挑戦しようとペンタブレットを買ったのは良いのですが、全然使い方が分かりません(;;)
いつになったら、皆さまにお見せ出来るようなイラストが描ける様になるのやら(^^;)
あ、それ以前に、手書きのイラストって高校生時代以来かも・・・
お見せ出来るイラストを描ける気がしなくなって来ました ort