第69話 自由の矛編3-01 「使節団の来訪」
第69話を公開します。
20150622公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって20日目。
砦での生活が“日常”となっていた。
そして、新しい季節が訪れようとしていた。
*登場人物紹介と地形図紹介を1項前で公開しました
*砦見取り図と修正版の地形図を1項後で公開しました
10-01 『使節団の来訪』 西暦2005年11月15日(火)昼
『S13よりベースへ、プリンセス3が「ペリーご一行」と接触した。「ペリーご一行」の人数は15人。代表はアラフィス殿下の模様。護衛は10人。残りはどうやら役人の模様』
『ベースよりS13へ、了解した』
『S13よりベース、現状は問題無し。出発時に再度報告する』
『ベースよりS13へ、了解。人数が少なくて助かった』
『S13よりベース、全くだ』
今頃、砦では、会談場所の設営と晩餐会の準備に取り掛かっている筈だ。
実は地味に問題だったのが、晩餐会で出す食事だった。
食糧環境の改善に取り組んだ成果が出て来て、収穫した大麦と巨人が備蓄していた食料だけでなく、追加の食材も段々と増えて来ているとはいえ、「国賓」を迎えるには砦の食材は余りにも貧弱だった。
外交における食事は意外と大きな要素となる。現代世界では料理やワインのランク等によってメッセージを込めるくらいは当然の様に行われる。その様に大切なファクターの食事がみすぼらしいと外交上の失点となってしまう。
最終的に決まったのは、戦闘糧食Ⅱ型を可能な限り見栄えがする様に出すという身も蓋もない手法だった。
『S13よりベースへ、今から護送を開始する』
『ベースよりS13へ、了解。粗相の無いようにな』
『S13よりベースへ、こう見えても俺たちは紳士だぜ』
『ベースよりS13、いや、紳士は蛇を食べないから・・・。なんにしろ、無事な帰還を祈る』
アラフィス・ラキビィス・ラミシィスは、外面上は仮面を被っていたが、内心では上機嫌だった。
前回の訪問の詳細な報告と彼の意見具申に対する反応は鈍く、新たな勢力に対する方針の決定は捗々(はかばか)しくないものだった。
王族を超える『主神の恩寵』を持つ矮人の存在なぞ有り得ないとされ、ましてや見た事も聞いた事も無いような威力を発揮する武器に至っては、さすがに面と向かって言葉にしないものの、王周辺のアラフィスに対する評価を下げる要因になっていた。
彼の苦境を救ったのは、守貴志が敢えて渡してくれた10個の89式小銃用の弾丸の空薬莢とミネラルウォーターの空のペットボトルだった。
全く同じ寸法で作られた10個の空薬莢は、高い技術力を誇るラミシィスでさえも再現が不可能であり、材質さえも見当が付かないペットボトルは全く異質な文明の存在を明示していた。
流れを決定付けたのは、それまで敢えて方針を明確にしてこなかった王の発言だった。
彼はアラフィスに3つの質問をした。
「信用に足る集団であるか?」
「滅ぼそうとした際の想定される損失規模は?」
「交流するとした場合に得られる具体的な利益は?」
それに対するアラフィスの答えは
「応」
「2個の『師家軍(定員1225名)』、下手をすれば2個の『上師家軍(定員1881名)』の全滅」
「失われたラミシィナの情報と未知の様々な情報」
であった。
王の勅命を帯びた使節団は小規模で編成される事となった。
100人を越える使節団を送り込む案も出たが、敢えて小規模とする事で、交流に懐疑的な一派の反対意見を抑え込む事にしたのだ。代表は王位継承権第5位のアラフィスとし、副代表に懐疑派の人間を据える事でバランスを取った。
副代表は出迎えた守春香を見た瞬間に硬直した。
春香が出す『主神の恩寵』の質と量に言葉を出せない副代表を横目に、アラフィスは出迎えてくれた自衛隊部隊の敬礼(何故か春香もしていたが)に左手を顔の横に掲げるラミシィス式の敬礼を返した。
そこでやっと衝撃から立ち直ったのか、副代表がぎこちない動作で両手を合わせて頭を下げる文官用のお辞儀をした。
「われら大阪狭山市及びアメリカ合衆国はアラフィス殿下並びに使節団のご訪問を歓迎いたします」
「ラミシィスを代表し、歓迎に感謝します」
『S13よりベースへ、あと1時間ほどで金沢ベースを通過予定』
『ベースよりS13へ、了解』
合流と自己紹介を果たした一行は小休止の後、砦に向けて出発した。
外交官の役をこなす春香は主にアラフィスと会話をしていた。
勿論、副代表から出される質問にもにこやかに答えるのだが、どうしてもアラフィスに対するものとは違う温度にならざるを得なかった。
まあ、元々、対人関係が得意と言えない彼女なのだから仕方が無いと言えば仕方が無いのだが。
『S13よりベースへ、砦が見えて来た。歓迎の準備は終わったか?』
『ベースよりS13へ、歓迎の準備は完了している。ただし、どこを探してもクラッカーが無いみたいだ』
『S13よりベースへ、89Rクラッカーが有るだろ?』
『ベースよりS13、そうか、その手が有ったか!』
『ちょ、おま・・・ S13よりベースへ、弾が勿体無いから止めておけ』
『ベースよりS13、アドバイス、感謝する』
文官に合わせて移動した影響で、砦に到着した頃には夕焼けが始まっていた。
その日、砦で動ける市民全員が、ラミシィス使節団の到着を歓迎した。
もしもラミシィスとの外交が上手く行かない場合、最悪、2つの人類種から狙われる事が確定するからだった。
一般的な市民にとって、外交が生活を揺るがす身近な問題だと初めて認識した7日間が始まった。
如何でしたでしょうか?
うーん、『信長の野●』風に言えば、内政が終わって外交に軸足を移したターンという感じでしょうか?
まだまだ安心して異世界ライフを楽しめそうにありません(^^;)
あ、告知を忘れるところでした。
この後、『修正版地形図(一部河川が飛んでいたり地形がずれていました)』と『私たちが住んでる砦紹介(^^)』に取り掛かります。
今夜中には公開出来る筈です(^^)/