第66話 自由の矛編2-07 「必要なもの」
第66話を公開します。
20150611公開
*1項前に『閑話休題シリーズ「ある自衛官へのインタビュー①」』を公開しています m(_ _)m
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって20日目。
砦での生活が“日常”となっていた。
人々はそれぞれの“生活”に順応しようとしていた。
(*登場人物紹介は7項前です)
9-07 『必要なもの』 西暦2005年11月15日(火)朝
「ハル、今日の予定は?」
守春香の朝食は数日前までと違って、賑やかなものになっていた。
彼女の以前の朝食は時間を掛けて食べるものでは無い、早飯が当たり前の住民たち、すなわち自衛隊員が同席者だったから自然と春香も早食いになっていた。
自衛隊員は混雑を防ぐ意味も有り、日本の駐屯地での日課と同じ午前6時30分から朝食が配給されていた。もちろん、市民も同じ時間から食べても良いが、どちらかと言えば少数派だった。ほとんどの市民が市民専用の午前7時10分以降に朝食を摂っていた。
春香の朝食が賑やかになった理由は、クラスメートたちと一緒に朝食を摂るようになったからだった。
それまでは市民への迷惑を考えて(あの朝の影響が大きかった。彼女と顔を合わすと息を飲む市民が多い。中には顔が引きつる者も居た)、自衛隊用の時間帯に食事をしていたが、助手に任命された3人に強引に市民用の時間帯に半ば強引に食堂に連れ去られるようになっていた。
クラスメートで親友の宮野留美の質問に答える為に、春香は慌てて堅いパンもどきを飲み込んだ。
「午前中は実験棟で作業するけど、午後からは待機になると思う。ラミシィスからの使者が午後には着く筈だから」
「え? そんな噂を聞いた事無いけど?」
「まあ、ユリネェが今朝確認したばかりの情報だから」
「あ、例の早朝の・・・」
そう言葉を挟んだのは吉井真里菜だった。
「うん。今は私の代わりも含めてユリネェが1日に3回飛んでくれているの」
「佐々先輩に会ったらご苦労様ですって言っておいて。で、あんたもあっちに行くの?」
「通訳が私しかいないからね。あと、ムビラには日本語を少し教えたんだけど、私も時間が無いから他人に任せてるし」
「え、ハル以外にこっちの言葉が分かる人が居るの?」
「もちろん居ないよ。だから、自衛隊に無理を言ってコピー紙を30枚譲ってもらって、使徒向けの日本語辞典と日本人用のラミシィナ・ラミシィス語辞典を大急ぎで書いたの、で、それを使って只今3人でお勉強中」
「3人?」
「小学校の時の山下先生と中学校の時の三村先生が居たの。知らなかったの、留美?」
「恥ずかしながら」
「まあ、ゆくゆくは小学校と中学校を作らないといけないから、その前準備も兼ねているんだけどね」
そう言って、春香はソーセージの様な保存食と苦闘を繰り広げている鈴木美羽の方を見た。
彼女は危険防止の為に木で作られた幼児用のナイフとフォークでソーセージもどきを切ろうとしていた。
「今は未だ問題にならないけど、使徒の子共たちの教育も必要になるし、今後はここで生まれた子供たちの教育の場が必要だからね」
真里菜が呆れた様な声を上げた。
「今を生き延びる事に一杯一杯なのに、よくもまあ、将来の事まで考えられるわね」
「まあ、私も計画作りに参加した『5ヵ年計画』と『10ヶ年構想』に基づいているだけだし」
「なに、それ? 砦本部ではそこまで先を読んでるの?」
高木良雄が興味を引かれたように春香に訊いた。
「高木君、『フランクリンとスーレの50/500の経験則』って知ってる?」
「うーん、聞いた事無いなぁ」
「人が近親交配を心配せずに集団を維持出来る短期的な人数と長期的に必要とされる人数の経験則ってところかな。で、これから導き出されるのは、現在の人口構成の男女差が歪過ぎて致命的だという事。だって、ここで1番多い集団が自衛隊員だからね。という事も考慮に入れて、どうするのか?を真っ先に作った訳。まあ、私はシミュレーター代わりに貴ニィに使われただけだけどね」
「ほんと、あんたら兄妹おかしいわ・・・」
真里菜が心底呆れた様な声を上げた。
「私じゃないよ、貴ニィがおかしいの」
「そうよ、真里菜ちゃん。春香ちゃんはまともだよ」
そう言って会話に加わったのは河内唯だった。
その頃、美羽は遂にソーセージもどきに勝利して片方を満面の笑顔で口に頬張っていた。
「教えるのも上手だし、物知りだし。それに子供好きだし」
「まあ、唯がそう言うなら、そういう事にしとくわ。で、話を戻すけど、あんた、ラミなんとかって国に行くんでしょ? 帰って来る時にお土産を期待しても良いよね? その、出来ればシャンプーみたいのが有れば手に入れて来て欲しいの」
「あ、そうか。私、髪の毛が短いから気にせず石鹸で洗っていたけど、みんなは長いものね。うん、向こうに行ったら、女の子用グッズを一通り手に入れられるか交渉してみるね。ここじゃなんだから出発前に何が要るかを教えてね」
「よかったあ。来週あたりなんだよね、私」
「真里菜ちゃん、しっ!」
「あ・・・」
幸か不幸か、男性陣は女性陣の悩みに気が付かなかった。
如何でしたでしょうか?
予定では午後のシーンまで書く筈だったのですが・・・・・
うーん、致命的に遅筆過ぎますねえ(^^;)
それと、なんだか戦闘シーンが書きたくて堪らなくなって来ました・・・
閑話休題シリーズで回想シーンとして書いちゃおうかなぁ・・・
例えば、春香嬢が初めて巨人と闘ったシーンとか・・・