第62話 自由の矛編2-03 「慰霊」
第62話を公開します。
20150521公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって10日目。
砦での生活が“日常”となり始めていた。
だが、日常になったが故に現代人にとっては問題となる事も有った。
9-03 『慰霊』 西暦2005年11月5日(土)朝
守春香は早朝から「使徒」の一部と2人の市民と共に、ある場所に向かう為に砦の広場に居た。
春香のお供をする「使徒」は、栽培に従事していた女性たちとその子供、そして語り部のムビラ少年だった。
「使徒」も全員が集まった事を伝えにムビラが春香の元にやって来た。
「主神の加護を強く受けし一族のハルカ様、全員が集まりました」
「参るとしよう」
そう答えた春香がすぐ傍に居た自衛隊員と機動隊員に顔を向けた。
「お待たせしました。秋山二尉、岸部警部補、出発します」
一行を護衛する為に自衛隊は、春香と一番付き合いの長い陸上自衛隊第37普通科連隊第一中隊第一小銃小隊を付けて来た。
更には、大阪府警第三機動隊第二中隊第一小隊も荷物を積んだリアカーを用意していた。
「了解。 みんな、出発だ!」
巨人の襲来に対する防衛面や、歯ブラシ代わりの房楊枝の配布に代表される健康・衛生面に関する問題、市民の精神状態に対する問題を少しずつ解決しつつある現在、砦で最大の問題は食に関する問題だった。
一番は食材に関する問題だった。
はっきりと言って、食糧庫に保管されていた食材の種類が余りにも乏しいのだ。
今回の遠征にも同行する八百屋を営んでいた夫婦の旦那は、自衛隊に頼まれて食糧庫の品目作りをした時に思わずぼやいていた。
『これじゃぁ、八百屋なんか出来やしないぞ・・・』
自分が営んでいた八百屋で取り扱っている野菜のほとんどが保管されていなかったのだ。
夫婦は卸売市場が定休日で仕入れが出来ないから日曜日を八百屋の定休日にしていた。その為に「狭山池干上がり騒動」を見に来て事件に巻き込まれていた。
『この食材だけだったら、栄養のバランスが全然取れないよ。確か福田さんとこの奥さんが栄養士だった筈だから、ちょっと呼んで来てもらっていいかい?』
急遽呼ばれた福田聡子は食糧庫の食材を見て絶句した。
『無理! これだけの食材じゃあ、すぐに病気になるよ。 ったく! でかい図体してるだけかい、あいつらは!』
ほぼ八つ当たりとも言える言葉を言われた自衛隊員の報告を受けた自衛隊司令部は、相談を暫定市長の金澤達也とブレーンの守貴志に持ち掛けた。
貴志は、元々春香を経由して「使徒」から食材になりそうな植物を聞き取り調査中だった事も有り、前倒しで見込みの有りそうな場所の現地調査を行う事にした。
逃げのびていた子供を含む「使徒」の集団の生活圏で栽培されていた野菜は、量が少ない為に全て次の種まきに使われる事が決まっていた。残るは元々は畑だったが巨人の侵攻により見捨てられていた場所と現代日本人が知っている食材が自生していそうな場所だった。
砦を出た一行は、「使徒」が昔は畑にしていた場所に向かった。
歩き出してしばらくすると、一行の足が止まった。
自然と出来た道に面したちょっとした広場だった。そこには木で出来た50㌢ほどの柱が37本立っていた。
『始まりの日』と『終わりの日』の両作戦で戦死した自衛隊員とアメリカ海兵隊隊員の墓地だった。
日本人全員が黙祷と敬礼を捧げる様子は「使徒」たちにも何かしらの慰霊的な儀式だという事が伝わったのか、彼らも彼らの宗教に則って祈りを捧げた。
更に数分歩くと、先ほどよりも大きな広場に着いた。広場と言っても、一面がこんもりと盛り上がっていた。道に面した位置に先ほどよりも大きな柱が1本だけ立っていた。
日本人は先ほどと同じ様に黙祷と敬礼を捧げた。
再び歩き出した一行だったが、ムビラは春香に尋ねざるを得なかった。どうして2カ所に分けているのか? という事を。
「『遅れてきた者』の墓地故に冥福を祈った。死ねば異教徒であれ異人種であれ、みな同じ故に」
春香の答えはムビラの予想を超えていた。
「理解出来ぬか? 我らは“教え”や“人類種”が違えども、死者を鞭打つ事は無い」
春香の言葉はムビラを通じて、「使徒」の全員に伝えられた。
彼らにとって、春香たち日本人の宗教観は異端以外の何物でも無いが、今後の事を考えると受け入れざるを得ない。
「使徒」が蒙った被害を考えると許す事は出来ないが、彼ら以上の被害を受けた日本人が『遅れてきた者』の死者に対して示した度量の大きさは、ある意味日本人に対する認識を改めさせるものだった。
如何でしたでしょうか?
サイドストーリー『美羽の異世界生活』を執筆した為に1週間ぶりの更新ですm(_ _)m
日本人の死者に対する向き合い方はある種独特なものが有ります。
次回更新は来週になる筈ですが、春香嬢たちが直面している食糧事情が明らかになる筈です、多分・・・・・