第59話 自由の矛編1-14 「日陰者の独裁者」
第59話を公開します。
20150509公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって4日目。
徐々に落ち着きを取り戻しつつある拉致被害者と使徒たち。
そんな中、行われた現状説明会の裏の姿が明らかになって行く。
8-14 『日陰者の独裁者』 西暦2005年10月30日(日)昼
説明会は最終的に3時間を少し過ぎてから終了した。
暫定市長の選挙はその場で起立しての投票が行われ、金澤達也が当選した。
市議会議員は佃中竜二と自治会の2人に加え、商工会の役員をしていた男性と司法書士の男性が新たに立候補し、そのまま信任された。
そして、生き残りに重要な役割を担う事になる外交ポストには守貴志が金澤達也によって任命された。
食糧問題は、戦闘糧食Ⅱ型温存の為に明日の朝食から現地食に切り替えられる事となった。
平成18年1月1日元旦に戦闘糧食Ⅱ型の最後の配給が行われ、温存された分は病気に罹った者へ優先的に回す事が決まった。
「使徒」は新たな市民として編入手続きを行い、基本的人権を日本人と同等とする事と引き換えに土地の所有権問題を決着させた。
更に、暫定市長の金澤達也の提案で、生き残った者たちが持っている知識を後世に伝える為に自衛隊による聞き取り調査も行われる事も決まった。
これは現代人が持っている知識が、すぐに活用出来ない様なものであっても、この地では重要な価値を持つ事を認識している事を示すものだった。
例えば、植物の成長を促す肥料一つとっても、知識が無ければ生み出すことが出来ない。
肥料の三大元素、「窒素」「カリウム」「リン」の名前を知っていても、造り方を知らなければそれは活用出来ない知識でしかないが、化学を齧った者が居れば生み出せるかもしれないし、採取する事が可能になるかもしれない。
だから、各自が持っている知識を最大限集めようとしたのだ。
西山勉教授は改めて、守貴志と云う大学生の皮を被った独裁者による政治劇を見せ付けられていた。
彼は、この説明会の前にそれぞれに役割分担を割り振っていた。
第一、暫定市長になった金澤達也自体が貴志の父親から献金を受けていて、操り易かったので暫定市長になる様に演出させられたのだ。
まあ、金澤本人も何度か貴志と顔を合わせていて、能力を知っていたが故に快諾した面も有った。
問題児であった佃中市議でさえも、いつの間にか手懐けていた事を知った時は驚いたというよりも恐怖を感じたくらいだ。
そして、圧巻は、只のお荷物でしか無いと思われた市民に、存在意義と生き残る意欲を芽生えさせた事だった。
どんな些細な事でも、「知識」を持っていれば貢献出来る、と言われれば、少しでも役に立とうとするだろう。
専門的な知識を持たなくとも、出身地で食べられていた食料の材料と作り方を言えば良い。
手芸が趣味ならば、その技を使って服飾を充実させてもらえば良い。
役に立たない者は居ないのだと思わせてしまう様に説明会は巧みに誘導されて行った。
守春香という目立つ妹の影に隠れる様にして暗躍する貴志に恐ろしさを覚えながらも、頼もしさを覚えざるを得ない西山だった。
『西山先生、無理ですよ』
彼は何故、自分が市長になろうとしないのかと言われた時に苦笑いを浮かべて答えた。
『21歳ですからねえ。市長に立候補出来るのは25歳になってからです。それまでは日陰者でいいですよ』
ああ、日陰者の独裁者という矛盾に満ちた大学生が居る事に気付く市民は出て来るのだろうか?
それとも、彼が25歳になって、表舞台に出て来た時に本当の独裁が始まるのだろうか?
守春香は目の前で行われている政治劇に自分が巻き込まれていない事をいい事に、市民全員の反応を記憶していた。
彼女の役割は、兄の貴志が行っている煽動から漏れそうな人物のピックアップだった。
その様な人物は、自衛隊による聞き取り調査の際に特別に精神的なケアを気付かれないレベルで施される予定だった。
聞き取り調査と言う名のカウンセリングを受けた後は、少しでも将来に希望を持てるだろう。
とんでもない情報処理が必要なので、彼女がするしか無いのだが、本当に妹使いが荒い兄であった。
こうして、3時間以上に及ぶ説明会が終了した。
如何でしたでしょうか?
お兄ちゃんが乱心したら暴君なんてもんじゃないレベルで、怖いんですけど(^^;)
P.S. 昨日、お二人もブックマークをして頂けました\(^o^)/
謹んで、お礼申し上げます m(_ _)m
P.S.②と喜んでいたら、ブックマークが1つ減っていました(^^;)
こういうのをツンデレと言うのでしょうか? (イヤ、タブンチガウ^^)