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第55話 自由の矛編1-10 「生き残りへの第一歩」

第55話を公開します。



20150426公開

20150426修正

 市議当選回数修正

 守   春香  高校2年生 17歳 先祖返り   本編主人公

     貴志  大学3回生 21歳 遺伝発現者  春香の兄

     真理  社会人   23歳 遺伝発現者  春香の姉

     徹朗  会社社長  50歳 遺伝未発現者 春香の父

     幸恵  主婦    48歳 遺伝未発現者 春香の母

     妙   隠居    75歳 遺伝発現者  春香の祖母

佐々   優梨子 高校3年生 18歳 遺伝発現者  春香の従姉

     雅司  高校1年生 16歳 遺伝発現者  春香の従弟

     俊彦  教授    48歳 古人類学者  春香の叔父

     瑠衣  主婦    44歳 遺伝未発現者 春香の叔母

宮野  留美  高校2年生 17歳 春香の親友

吉井  真里菜 高校2年生 17歳 春香のクラスメート

橋本  翼   高校2年生 17歳 春香のクラスメート

高木  良雄  高校2年生 17歳 春香のクラスメート

河内  唯   高校2年生 17歳 春香のクラスメート

上代  賢太郎 高校2年生 17歳 春香のクラスメート

鈴木  美羽  幼稚園年長組 5歳 拉致事件の被害者

鈴木  珠子  主婦    26歳 美羽の母親  

西山  努   学者    62歳 系外惑星研究

大前  聡史  学者    47歳 植物生理生態学

佃中  竜二  市議会議員 42歳 当選1回

金澤  達也  市議会議員 36歳 当選2回


ムビラ           13歳 ッギュルゥットィヴァグ(使徒)の伝え部

スグリ           39歳 ッギュルゥットィヴァグ(使徒)の族長


あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって3日目。

 徐々に落ち着きを取り戻しつつある拉致被害者と使徒たち。

 そんな中、人々は生き残りへ歩み始める。




8-10 『生き残りへの第一歩』 西暦2005年10月29日(土)昼



 守春香は自衛隊のテントの中で今日2回目の飛行に備えていた。

 テントの外からはオートバイの暖機運転の音が聞こえていた。

 装備品はいつもの自衛隊の無線機と、ラミシィス族の王子アラフィスから贈られた剣だった。

 巨人の剣で十分に間に合っているので固辞したのだが、最後は強引に渡された剣は装飾もされていて見るからに手の込んだものだった。

 長さは巨人の剣よりも3割ほど短い1㍍強だが、肉厚な為か意外と重い。感覚的には2割ほど巨人の剣より軽いだけだった。

 刃身は両刃で鋼の刃を被せる様に造られていて、巨人の剣よりもかなり高度な技術が使われていた。

 これならば、刃こぼれもし難いだろう。

 もっとも、春香は刀身に含まれるUK(UnKnown:この星特産の謎物質としか言い様が無い性質持ちマテリアル)の固定化を使うので、どんな刀身であろうと刃こぼれはさせないのだが、巨人の剣よりも鋭い刀身は切れ味に直結するだろう。

 そろそろ頃合いかな、と思った時にテントの入り口が開けられた。

 逆光だったが、誰が来たかは直ぐに分かった。兄の貴志と従姉の佐々優梨子だった。

   

「春香、そろそろだが、準備はいいか?」

「うん、いつでも行けるよ。それとユリネェ、今日の上空はどうだった?」

「1000㍍付近でちょっとした南風が出てたけど、その上の層はおとなしかったわ。ハルちゃんなら全然問題無いと思う」

「うん、了解」

「それと、戻って来たら、また食堂の方を頼む」

「いいけど、味の保証は出来ないよ? 食材も調味料も香辛料も圧倒的に少ないから」

「だが、このまま自衛隊の戦闘食を消費するのは無駄だし、すぐに無くなる。何としてもここで摂れる食材で食いつなぐ必要が有る」

「分かってはいるけどねぇ。せめて胡椒とハーブ類がもっと有れば、肉料理は何とかなるんだけど」


 巨人たちの食堂の厨房と倉庫に残されていた食材を、料理関係に自信のある自衛隊員3名と確認した時に春香は思わず天を仰いでいた。

 この砦は元々2000人以上の巨人が暮らす拠点として造られた。

 だが、厨房に残されていた調味料と倉庫に残されていた食材は量はともかく、種類が少な過ぎた。

 更に現代では香辛料代表格の胡椒は一握りしか残されていなかった。


「まあ、インド原産の胡椒がこっちにも伝わっているだけでもラッキーかぁ・・・ アラフィスに再会した時にハーブと一緒に頼んでみようかなぁ。山椒とわさびを知っているか、使徒の人達に聞いておこうっと。そうそう、貴ニィは縄文時代の食材を知っているよね? 何か参考になりそうな食材を知らない?」

「ドングリとかエゴマを粉末にして焼いた縄文クッキーとか有名だな。後は魚貝類、鹿やウサギなどの肉類だが、味付けは分からん」

「まあ、何にしろ、何とかするしかないわね。さあて、そんじゃ、偵察に行って来るか」


 春香は第37普通科連隊情報小隊が待機している方に歩いて行った。

 その後ろ姿を見送った後、貴志は優梨子に声を掛けた。

 その声には春香には向けられる事の無い労わりの成分が含まれていた。


「優梨子は休んでくれ」

「はい、そうします」


 佐々優梨子がこの地に居る責任は貴志が背負うべきものだった。

 彼が呼ばなければ、彼女は今も快適な日本で暮らせていたのだから。


「貴志兄さんはこの後、予定でも有るんですか? お昼を一緒に食べませんか?」

「悪い、ちょっと野暮用が有る。一人で食べてくれ」

「はい・・・」


 少しだけ寂しそうな表情を浮かべた優梨子だったが、すぐに元の表情に戻した。


「夕食は一緒に食べよう」

「はい」


 優梨子が笑顔を浮かべるのを確認してから頷いた貴志は兵舎群に向かって歩き出した。

 彼はこれから、昨日からほとんど姿を見せなくなった或る人物を訪ねる予定だった。

 その人物は巨人が20人で使っていた兵舎を1人で独占していた。


佃中つくだなか先生、入りますよ」


 貴志は返事も聞かずに扉を開けた。

 佃中竜二大阪狭山市市議はギョッとした顔で勝手に入って来た貴志を見た。

 手には自衛隊の戦闘糧食Ⅱ型のご飯の袋が握られていた。


「先生にもそろそろ働いてもらいますよ」

「最近の若い奴には、礼儀も遠慮も無いのか? 俺の若い頃なら〆られていたぞ、若造!」


 言葉とは裏腹に、彼の表情には力が無かった。

 貴志は兵舎に入ってすぐの所に立ったままで竜二に言葉を返した。


「僕もいつか同じセリフをこの砦で生まれた奴らに言うかも知れませんね」

「け、気の長い話だ。そこまで生き残れるものか!」

「生き残って見せますよ」

「お前さんの妹を使ってか? あんな化け物を手足の様に使えりゃあ、お前たち兄妹だけなら生き残れるかもな」

「まあ、化け物って言う点は否定しませんよ。あの子は僕から見ても異常だ」


 貴志の言葉を聞いた竜二はハッとした表情を浮かべた。


「どこの世界に、空を飛べて、巨人と剣を使った斬り合いが出来て、1日で外国語をマスターするような能力を持つ人間が居ますか? あの子以外には居ませんよ、そんなの」


 貴志は肩を竦めていた。


「正直、僕もあの子の能力を見くびっていました。確かに日本に居た時から下地は有りましたが、ここまで自分の能力を使いこなせるとは思ってもみませんでした。ええ、正直に言います。嫉妬も感じていますよ」


 竜二の表情に変化が表れていた。


「えらく素直じゃねえか? 昨日、俺を虚仮にした人間と思えねえくらいに」

「簡単ですよ。生き残る為です」


 貴志は視線を竜二の目に合わせていた。

 その視線にはとても大学生のモノとは思えない力が込められていた。


「さて、お願いしたいのは、この砦のインフラを作り変えて欲しいという事です」

「そんなのはお前さんたちですればいいだろ? 用済みの俺は高みの見物と行くさ」


 竜二の言葉に対して、貴志はカンボジアの或る農村の名前を呟いた。

 その村の名前を聞いた瞬間、竜二の表情が変わった。


「どうしてお前が知っているんだ?」

「父も町の名士と言える存在ですから、それなりに政治家と交流が有るんですよ。政治献金もしていますしね。で、僕もその情報を共有していたので、先生の事もある程度知っていたりします。その中には先生がご自身の経歴から隠している情報も有ったりします」

「くそ、若気の至りでしでかした事を今更・・・」

「もう一度、今度はこの砦で生き延びるしかないみんなの為に働いてくれませんか? 調べた限り、先生しかみんなの先頭になれる人は居ませんでした」


 建設業界で働き出して8年後の26歳の時に、佃中竜二は人間関係の拗れから日本を脱出する様に東南アジアをバックパッカーとして渡り歩いた。そんな時期にカンボジアの或る農村で彼は風土病を患い、行き倒れてしまった。

 村人が乏しい食料を融通し、献身的な看病を施した結果、彼は一命を取り留めた。

 回復後の彼は、バックパッカーとして築いたコネを使って足りないながらも資金を集め、自分の技術を元に井戸を初めとするインフラ整備と衛生環境の整備を行った。

 彼が日本に還って来たのは、それから2年後だった。

 日本に帰って来てからの彼はがむしゃらに働いた。

 そして、事業に成功した頃には、カンボジアでの出来事を隠すようになっていた・・・・・


「お前、本当に大学生か? 政治家としてやって行けるぞ」

「最上の褒め言葉として頂いておきます。それで、返事は如何ですか?」



 佃中竜二の名は、新狭山市の歴史を語る上では必ず出て来る事となる・・・

 

如何でしたでしょうか?


 徐々に動き出した拉致被害者たち・・・・・

 明日はどっちだ?(^^;)

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