第54話 自由の矛編1-09 「異文化の交わり」
第54話を公開致します。
20150421公開
あらすじ
巨人から奪った砦での生活が始まって3日目。
徐々に落ち着きを取り戻しつつある拉致被害者と使徒たち。
そんな中、あるグループが異文化交流に挑み始めていた。
8-09 『異文化の交わり』 西暦2005年10月29日(土)昼
「留美、悪いけど、そろそろ行くね。ユリネェと交代しなきゃ」
「あ、もう、そんな時間?」
「うん」
「春香、無事に帰って来るのよ?」
「吉・・ 真里菜、ありがと。それとムビラ君の事、頼んだよ。じゃ、行って来るね」
守春香が砦に向かおうとすると同時に、周辺を警備していた自衛隊の半数が彼女を取り囲む様に隊列を組んだ。
「まるでVIPみたいね」
吉井真里菜がその光景を見ながら呟いた。
宮野留美も春香と自衛隊の隊列を見送っていた。
「みたいじゃないよ。VIPそのものよ。真里菜も見たでしょ、昨日の」
「うん、そうだけど・・・」
「私はお金を積まれても嫌だな。空を飛んで、巨人と戦って、全く知らない異人と交渉して、教祖の様に崇められて、悪魔の様に恐れられて・・・ 神経がもたないわ」
「改めて言われると、凄いなあ」
「守さんが居なかったら、僕たちはまだ巨人に捕まったままだったしね。下手すれば戦闘に巻き込まれて死んでいたかも」
高木良雄も会話に加わった。
「さあて、『使徒』の人達も休憩にする様だから、俺たちも食事にするか?」
上代賢太郎の言葉に、みんなが我に返ったように食事の支度に取り掛かった。
と言っても、砦を出る前に配給を受けていた朝食分の戦闘糧食Ⅱ型の残りを自衛隊から借りた背嚢から取り出すだけだった。
『使徒』のムビラは仲間たちの方に戻って行ったが、しばらくすると帰って来て、みんなの近くに腰を落ち着けた。手にはパンの様な食べ物が有った。
一口大に手でちぎって食べようと口を開けた時に、彼に声を掛けた人物が居た。
「おにいちゃん、それ、おいしい?」
鈴木美羽だった。彼女は彼の横に座ると更に声を掛けた。
「よかったら、みうのはんばーぐもたべる? はんぶんこしない?」
そう言って、彼女は巨人の食堂で分配された自分の皿にハンバーグを出して、母親の鈴木珠子に半分に切って貰った。
ムビラはポカンとした後、喰い付くような目で美羽の手元を見ていた。
ムビラは、『主神の加護を強く受けし一族のハルカ様』に、8人の『加護無き者』と行動を共にする様に言われていた。
もちろん、彼女と行動を共にする気だったのだが、拒否されてしまった。
落ち込んだ彼に彼女は言った。
『予の事を知りたければ、この者たちを観察するが良い。予が立つ足場を予が戻るまでに理解せよ』
自分の横に座り込んで来た幼女が更に何かを話しかけて来た。
彼女は手にしていた木製の皿(自分達が使っている皿と同じ造りだった)に向けて、何やら茶色い食べ物を初めて見る類の袋から押し出した。
彼の目は食べ物では無く、たった今初めて見た袋に釘付けになっていた。
編み目は見当たらない。何から出来ているのか分からないが、主神の光を反射している部分がある。更には茶色い食べ物と一緒に同じ様な色の汁も出て来たから、さきほどまで密封されていた筈だ。
もしかして、この者たちは自分達が伝え聞いている『加護無き者』と違うのだろうか?
目の前にいきなり、その袋が差し出された。
見上げると、『加護無き者』の男が自分の分を渡そうとしていた。
良雄は目の前に差し出されたレトルトパックの袋をじっと見ているムビラに向かって頷いた。
異邦の男の子も頷いて、左手で袋を受け取ると、色々な角度から見始めた。
「凄い喰い付きね」
「でも、この子は頭が良いと思うよ。自分達と僕たちの文明の差をレトルトパック一つで推し量ろうとしているのだから」
外は光沢がある素材だったが、中は金属の幕になっていた。中と外でその様に違った加工する理由をいくつか考え付くが、問題はその造り方だった。この様に柔らかい金属の幕をどうやったら作れるのかが全く分からない。
袋には複雑な文字と簡単な文字が混在しながら書かれているが手書きとは思えなかった。
まず、四角形を描く線が真っ直ぐに同じ幅で書かれている。手書きでは無理な正確さだった。
四角形の枠の中の上方に大きく書かれた簡単な文字が7つ並んでいるが、2つめと最後の文字が寸分の狂いも無く正確に同じ形で書かれている。
今得たばかりの情報を整理していると、目の前に茶色い物体が差し出された。隣りに座った少女が木を削って作った棒に刺した食料を差し出していた。
どうやら自分に食べさせたいらしい。
周りを見渡すと、『加護無き者』全員が笑顔を浮かべて見ていた。
その目に浮かんだ表情には、期待が込められていた。
幼女が大きく口を開けながら、何かの呪文を唱えた。
「はい、あーんして! ほら、あーんんん」
幼稚園児の美羽が中学生くらいの異邦人に“あーん”を強要している光景は微笑ましいとしか言えなかった。
遂に根負けしたのか、ムビラが差し出されたハンバーグを口に収めた。
初めて口にした『加護無き者』の食べ物は少々濃い味だったが、ムビラがこれまでに食べた中では一番美味しかった。
鳥とは違うという事は分かったが、何の肉かは分からない。こんなに柔らかい肉は初めてだった。
噛むごとに旨みが滲み出て来る。最初は濃いと思った味付けだが、肉と合わさると美味しさが倍増する。
思わず言葉が出た。
「美味しい・・・」
言葉は分からなくとも、その意味は分かったのだろう。
『加護無き者』たちの笑顔が深くなった。
如何でしたでしょうか?
若い世代同士の交流故に反発も生まれ易いですが、好奇心が切っ掛けとなって交流が進む事も有ります。
ムビラ君、日本文化の奥義、『萌え』を理解するまで頑張れ(^^)