表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/151

第53話 自由の矛編1-08 「共生への第一歩」

第53話を公開します。

 今話は新たな人物からの視点です。


20150420公開



あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって3日目。

 徐々に落ち着きを取り戻しつつある拉致被害者と共生者たち。

 そんな中、新たな現実を突き付けられる人物が居た。




8-08 『共生への第一歩』 西暦2005年10月29日(土)朝


 ムビラはその少女と初めて会った日の事を生涯忘れないだろう。


 その日、ムビラは遠くから響く雷の音で目が覚めた。

 だが、普通の雷と違い、雷鳴は等間隔で連続して鳴り響いた。

 3回目の雷鳴が鳴り響いた時には、思わず数を数え始めていた。

 そしてちょうど10回目で雷鳴が止まった時、彼は一族の運命が変わった事を確信した。

 彼は雷鳴に驚いて起き出して来た母親たちや子供たちに向けて宣言をした。


「騒がないで! 雌伏の時は終わり、栄光の時が再び訪れます! いつでもお出迎えが出来る様にして下さい!」


 『遅れてきた者』たちにより征服される前にこの森の奥地に避難した女子供は18人が生き残っていた。

 護衛役の2人の男たちを病で失ってからの生活は、女子供たちだけでは厳しいものではあったが、それでも希望を失う事は無かった。

 彼らにとっては生き延びて『教え』を後世に伝えていく事自体が自らの存在意義だったからだ。

 その日の昼前に、遂に待ち望んでいた瞬間が訪れた。 

 『遅れてきた者』たちに捕まっていた族長を含む大人たちと見慣れない一族に守られて、一人の少女がやって来たのだ。

  

 その少女は、血塗れの変わった服装を除くと自分たちとさほど変わらない外見をしていた。男の子と見間違うような短い頭髪だったが、顔の造形は少女以外の何物でも無かった。

 年齢はムビラよりも数歳ほど上だろう。

 ただし、少女の本質はその様な外見では推し量れない。

 溢れんばかりの『主神の恩寵』が全身を取り巻いていた。

 その少女が視界に入った瞬間に、雷に打たれたように身体が震え、気が付けば最敬の姿勢を取っていた。

 彼の周りも同じ姿勢を取った。


「皆の者、ご苦労であった。よくぞ生き延びてくれた。『遅れてきた者』は駆逐された。そして」


 2年ぶりに再会した族長のスグリはそこで間を開けた。


「『主神の加護を強く受けし一族』が再び降臨された」


 反応は嗚咽だった。

 彼ら一族は、『遅れてきた者』に国を滅ぼされる前に『主神の加護を強く受けし一族』の血を存続させる為にこの地に逃れてきた集団の末裔だった。

 この地に聳える『果ての壁』の洞窟が見知らぬ土地に繋がっている事を知った彼らは、更に集団を分けた。

 生き残っている『主神の加護を強く受けし一族』の全員を含む127人を異郷に逃した後、残った217人は『遅れてきた者』が攻めて来た時に身代わりとして死ぬ事を選んだ。

 だが、『遅れてきた者』の襲撃は起こらず、自らの存在意義を『教え』を後世に伝える事に絞って生き延びてきた。

 

 そして、今日、思いもかけず、『主神の加護を強く受けし一族』の再臨と言う運命に立ち会えたのだ。


 誰もが、一族の解放という知らせと共にもたらされたこの知らせに嗚咽を漏らさざるを得なかった・・・


「皆の者、予はそち達の無事を嬉しく思う。これからは共に生きようぞ」


 『主神の加護を強く受けし一族』の少女の言葉は、その場に居た使徒の一族全員に新たな歴史が開いた事を告げるものであった。 


 『再誕期の書』の冒頭に、この様な記述が有る。


 主神ラミは祝いの雷を10回響かせた後に、我らに第二の誕生をお与えになった。

 その証しこそ『主神の恩寵』であり、他の者では無く我らを加護する御心の現れである。

 故に、我らは『主神の恩寵』を持たぬ者を導かねばならぬ。

 母の如く、父の如く。

 そして、我らは主神ラミより受けた加護を広めねばならぬ。苦難の道であろうとも。

 何故ならば、加護無き者は子であり、子が親の心を分からぬが如く我らの救いが分からぬが故に。  



 だが・・・・

 今、ムビラに目の前で繰り広げられている光景は、これまでの人生を崩しかねないものだった。

 『主神の加護を強く受けし一族』の少女には現在『主神の恩寵』が無い。

 そして同世代の『加護無き者』と一緒に麦の収穫を手伝っていた。

 その様子は、自分達の一族でも見掛ける様な日常の風景だった。

 ムビラが呆然としている事に気付いた少女が声を掛けて来た。


「ムビラ、予が只の少女に戻った事で衝撃を受けたか?」

「は、はい、『主神の加護を強く受けし一族のハルカ様』」

「そちの気持ちも分からぬではないが、慣れよ。これから創る国はラミシィナとは全く違う国が原型ぞ。変化する事を受け止めよ。その上で、ムビラ、そちが『使徒』のみなを導け」

「仰ることの意味が分かりませぬ」

「『教え』を守って来た事は正しい。だが、変化をすべき時にこれまでと同じでは滅びるぞ。これまで以上の高みに到達すべき時が来たと心得よ」



 ムビラの苦労は始まったばかりであった。


如何でしたでしょうか?


 と言っても、反応に困る事は想像に難くありません(^^;)

 生存意義にまでなっている宗教観を現実に合わせろなんて、春香嬢、無茶振りです(^^)


 あ、それと、2015年 04月16日の第52話 自由の矛編1-07 「人柱」公開時から更に3名様にブックマークして頂きました(^^)

 ありがとうございます m(_ _)m

 お一人増えるごとに、mrtkは嬉しくて踊り出しそうなことは内緒です(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ