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第52話 自由の矛編1-07 「人柱」

第52話を公開します。


20150416公開


あらすじ

 巨人から奪った砦での生活が始まって3日目。

 徐々に落ち着きを取り戻しつつある拉致被害者たち。

 そんな中、新たな活動を始めようとする集団が居た。



8-07 『人柱』 西暦2005年10月29日(土)朝



「おーい、もう準備は出来たか?」


 外から男子たちの声が聞こえた。

 吉井真里菜が慌てて返事をした。


「あー、もうちょっと待って。すぐ行くから!」


 彼女はそう答えると、守春香に声を掛けた。


「春香、クシを貸して! あ、鏡を持っているわよね? それも貸して」

「うん、いいよ」


 彼女がこの兵舎に居る理由は昨日の夕食後の出来事が原因だった。

 夕食後にばったりと出会った時に、彼女は数名の現地人と話しながら鍛冶場の方へ歩いていた。


『ハル、どこに行くの?』

『ああ、留美。 明日の作業の打ち合わせだよ』

『ねえ、それが終わったら、私たちの部屋に来ない?』

『うーん、30分くらい掛かると思うよ』

『待ってる。部屋は・・・』

『Aの5でしょ?』

『なんで知ってるの?』

『内緒』


 巨人の砦には夥しい数の兵舎が建っていた。

 巨人の体格に合わせて広く造られたそれは、簡単なベッドが20個も備えられた横幅7㍍50㌢、奥行き30㍍と言う大きなものだった。

 拉致被害者や救出部隊、学者たち全てを収容してもほとんどは使っていない状態だった。

 留美たちのグループは解放された初日に割振りされた部屋に案内された後、巨人たちの汗臭い体臭が篭っていたので換気に全力を尽くしたのは良かったが、どうしても匂いが取れないと文句を言っていたら、実は自分達が臭かっただけだったというオチが付いたのは良い思い出だった。

 慌ててこの砦に唯一在る浴場へ向かい、他人にばれない様に春香から貰った貴重な石鹸を使って身体と髪の毛を洗ったが、着替えを用意していなかったので汚れ放題の服装に再び袖を通した結果、あまりの匂いに兵舎に戻ってから巨人たちの下着に慌てて着替えたのも良い思い出だった。


 留美たちのグループの女子3人と鈴木母娘を合わせて5人が使っている兵舎へやって来た春香は手土産を持って来ていた。


『これ、少ないけどおやつにして。「使徒」の人達から貰ったの』

『ああ、現地の人たちの事ね。でも、いつの間に言葉を覚えたの?』

『昨日。アラフィスたちの言葉も大体覚えたよ』

『かー、これだから、天才って嫌い』

『ちょっと待って』


 春香と留美の会話に真里菜が割り込んだ。


『それ、本当? 1日で覚えられるもんなの? あんたたちが話しているのは聞こえたけど、完全に外国語だったよ?』

『えーと、吉井さんだっけ? まあ、ちょい訳有りでね・・・』

『真里菜でいいよ。ま、いいわ。で、あのイケメンの王子様はまた来るの?』

『しばらくは来ないと思うよ。王城に帰って報告しないといけないし、方針の決定にも時間掛かるから』

『ふーん。でも、あんた、凄いね。日本に居た頃とは全然違う』

『はは、日本で今みたいに振る舞ったら研究材料で解剖されちゃうよ』

『そうだね。それと初めて話したけど、もっと暗い子かと思ってた』

『真里菜ちゃん、直球過ぎ!』

『いやいや、留美、アンタを別にして、だれかと話しているとこを見た事無いもの』

『まあ、人見知りするのは確かだし、話し掛けられることが少ないのは事実だしね。どこかで怖がられていたと思うけど』

『うん、その通り。私も怖かったもの。でも、今日話して怖くないって分かったから、これからは友達になりましょ』

『ありがと、吉井さん』

『真里菜でいいって』


 春香が持って来た手土産は、クッキーの様なもので、微かに蜂蜜の味がして好評だった。

 「使徒」の人々が巨人に征服される前に森の奥地に逃がした母親たちと子供たちが、安全になった砦に合流した際に持参したものだった。

 その後に開かれた女子会でいろんなことを話していると、男子グループもやって来た。

 その時に出た話題の一つが、これから何をすべきか? という事だった。

 もちろん、何もしなくてもいいと言えるのだが、身体を動かさないと却って精神的にダメになって行きそうだと言う橋本翼の言葉が切っ掛けとなり、いくつか候補を上げ合った。

 その中の一つが、「使徒」がやってくれている麦の収穫を手伝うというものだった。



「おーい、もう「使徒」の人達が出発するぞ」

「分かったって」


 何とか間に合ったが、「使徒」が春香に対する態度は、みんなの想像を超えていた。

 合流した留美たちの中に春香が居る事に気付いた瞬間に全員が地面に座り込み、一斉に頭を垂れる。

 春香が1分ほど何かを話してからやっと立ち上がった。


「なんか、新興宗教みたい」


 思わず留美が言うと、春香は複雑な笑みを浮かべた。


「まあ、彼らにしたら待ち望んでいたケリャカイス・ラミシィナの復活だからね」

「何、それ?」

「『主神の加護を強く受けし一族』って意味。法王様に近い立場かな」

「あんた、どんだけ、こっちの世界で偉くなるのよ?」

「私も分かんないわ」


 春香が肩をすくめた時に「使徒」の集団から2人の男性が近付いて来た。

 1人は40歳台に見える。もう1人は10台の子供だった。

 春香が2人としばらく話すと、中年男性の方だけが集団に戻って行った。


「えーと、この子は?」


 留美の問いに、春香は男の子が持っていた書物に小さく何かを呟きながら手を添えた後に答えた。


「彼らが伝えて来た「教え」を子孫にも伝える為に守られる語り部と言うか宗教家と言うか、そんな感じの役割を与えられた一族の子よ。名はムビラ君。歳は13歳。彼女居ない歴13年。でも15歳になったら強制的に結婚させられるよ」

「おお、異世界ぽい。で、ここに残された理由は?」


 高木良雄がした質問の答えはみんなの想像を超えていた。


「私たちの言葉を覚える為よ。より深く、私に奉仕する為に・・・ 人柱とも言うわね」



如何でしたでしょうか? 


 こんな訳の分からない作品なのに、ブックマークを登録されている方が18名様になりました(^^)

 本当にありがとうございます m(_ _)m


 このサイトの本流では無い作風ですし、序盤はやたら冗長だったりして読み進めるのに忍耐力が必要な作品ですからね(^^;)

 ブックマークをして頂いた皆さまの期待に応えるべく、今後も頑張ります m(_ _)m

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