第51話 自由の矛編1-06 「SMAW」
第51話を公開します。
20150413公開
20150426修正
市議当選回数修正
8-06 『SMAW』 西暦2005年10月28日(金)昼
「なんかよく分かんないけど、新しく接触した現地の人たちがやって来るみたいよ」
広場の端っこで日向ぼっこをしている高校生グループの所に、吉井真里菜が戻って来て最初に口にした言葉だ。
彼女は持ち前の闊達さを取り戻していた。
さすが、宮野留美の第一印象が、“ナイスガイ”だっただけは有る切り替えの早さだった。
昼食の最中に、何やら自衛隊や機動隊の動きが慌ただしくなったのを見て、すぐさま行動に移していた。
たった1日で仲良くなった機動隊の部隊に理由を聞きに行ったのだ。
とは言え、普通ならば簡単には教えてくれないであろうが、守春香のクラスメートという事で、格別に目を掛けられているという影響も手伝った。
「巨人が使っていた崖の通り道では無く、違う場所から来たみたい。どうする、見物する?」
「もちろん」
「そうね、私も見たい」
「じゃ、決まり。でも、服はこのままっていうのは嫌だけど、仕方ないか・・・」
着たきり雀だった拉致被害者の服装は、粗末な木綿の様な布で出来た巨人たちの普段着と適当な布の切れ端を帯というかベルトにした服装に変っている。昨日まで着ていた服装は今朝洗ったばかりなので乾いていなかった。
一見すると砦の外で麦の収穫を続けてくれている現地の人達と変らない。ファッショナブルな国民と海外から評価を得ていた現代文明人たる日本人としての姿は全く感じられない姿だった。
「あ、会議が終わったみたいだね。いや、出迎えに出て来たのかな?」
高木良雄が目敏く『食堂』から出て来た集団を見付けた。
「先頭は自衛隊でなく、あの政治家か・・・ 嫌な予感しかしないな」
上代賢太郎が続いて発言した。
彼は春香と再会してからはかなり喋る様になっていた。
このグループの方針を決める意見を出す為に、自然とリーダー格になっている。
「市民に対するアピールの一環だろうね。只のパフォーマーに過ぎないと思うよ。留美ちゃん、どう見える?」
良雄の問い掛けに留美は見たままを伝えた。
「自信過剰とも言えるくらいにやる気満々ってとこかな。むしろ、周りの人間の方が面白いよ。白けてる」
「ふーん。ま、本人にやる気が有るなら、任せてみるのもいいかな」
その時、幼女の声がした。河内唯と母親の鈴木珠子の3人であやとりをしていた鈴木美羽だった。
「そのひとたちはこわいひと?」
答えたのは留美だった。
「多分違うよ。この砦に入れるくらいだから、きっと仲良く出来るんじゃないかな?」
「だったらいい。もしこわいひとだったら、はるかおねえちゃんがやっつけてくれるよね?」
一瞬の間が開いた。みんなの顔になんとも言えない表情が浮かんだ。
普通なら、自衛隊や機動隊が得るべきポジションに女子高生が居る。
有り得ない話なのだが、彼女が目の前で見せた圧倒的な戦闘力と存在感が幼女の信頼に結び付いているから仕方が無い面も有った。
「そうだね、春香に任せれば大丈夫だと思うよ」
「そうだよね」
そう言って笑顔を見せた美羽の頭を撫でながら、留美はポツリと呟いた。
「そう言えば、ハルは何処?」
新たな現地人が砦にやって来るという噂はあっという間に砦の拉致被害者の間に伝わった。
ほんの10分ほどで、広場には拉致被害者全員が揃っていた。
その間に広場の中央には自衛隊のテントから4つの長机とパイプ椅子が並べられていた。
櫓門の上に居る自衛隊員に動きが有った。
すぐに外門と内門が開けられた。
真っ先に姿を現したのは、自衛隊の部隊だった。続いて明らかに外国人と分かる背の高い堀の深い顔をした集団が現れた。
「白人に見えるが、肌はそんなに白く無いな」
「巨人よりは文明が進んでいるみたい。金属製の鎧に装飾が入っているし、靴も金属製のパッチを充てた技術力の高そうな物だね。中世くらいの文明は有りそう」
「武器は剣と弓か」
「どっちも巨人の物より進んでいるよ。弓なんて多分複合弓だね。巨人のより威力が高そうだ。盾を2種類装備していると言う事はかなり戦術も高度なものを持っていそうだね」
良雄と賢太郎が集団の論評をしていたが、ある人物を見付けた瞬間に絶句した。
「ハル、何してるのよ・・・」
留美が呆れた声で呟いた。
守春香が集団の中ほどに混じって、右横を歩いている少年と話をしていた。
春香がこちらを見て、軽く手を振った。
「分からないと思うので教えておくけど、あの人たち、全員がハルと同類よ」
そう告げた留美の言葉がグループの空気を凍らせた。
現代人と新たな人類種との初の会合は広場の真ん中に並べられた長机と椅子を使って行われた。
もちろん発案者は現代人代表の真ん中の席に位置する佃中竜二市議だ。
彼の計算では、交渉を仕切っている姿を市民に見せて、今後の主導権を握る手筈だった。
だが、彼の計算はあっさりと崩れた。少女の姿を見た瞬間に昨日の恐怖が蘇ったのだ。
辛うじて表情に出さずに済んだが、手が小刻みに震えるのを止められない。
「みなさん、ご紹介させて頂きます。こちらはラミシィス国の第5王位継承権王子アラフィス・ラキビィス・ラミシィス殿下です」
少女はこっち側のみんなに視線を送りつつ言葉を発した。その声は周りで見ている市民たちの耳にも届く位に大きなものであった。
佃中竜二は企みが失敗しつつある事を分かりながらも答えた。
「位継承権第5位の王子自らお越し頂き、大阪狭山市の市民を代表してお礼を申し上げます」
春香がその言葉を通訳して行く。
ロバート・J・ウィルソンUSMC第31海兵遠征部隊選抜チーム隊長とアメリカ政府が派遣した民間人代表は苦虫を潰した様な表情を浮かべた。
まあ、その他のメンバーも同じ様な表情であったが・・・
春香が通訳した返礼が再び春香からもたらされた。
「今、発言した人物があなたたちの代表と考えて良いのか? と言っています」
「ええ、私は市民から選ばれた立場ですから、その様にお考え下さい」
再び春香と第5王位継承権王子とで言葉がやり取りされた。
「ならば、我が国はあなた達に対して、近い将来に戦いを挑む事だろう。それでも、あなたが代表で良いのか? と言っていますけど?」
その内容にふさわしく無いほど朗らかな春香の言葉が周囲に響いた。
「な・・・ おい、お前、適当な事を言ってるんじゃないぞ! いきなり戦争を吹っ掛けて来るなんて、おかしいじゃないか! こっちは巨人に勝ったんだぞ! やれるものならやってみろっていうんだ!」
佃中竜二は思わず地を剥き出しにして叫んだ。
彼の中では、地球よりも遅れた文明しか持たない人類種が戦いを挑んで来るなど正気の沙汰では無いと思っていた。
なにせ、あの圧倒的だった巨人でさえも結局は自衛隊に蹴散らされていたからだ。
春香と王子の会話がまた行われた。
「力の使い方も自分達の立場も分からない様な者に、この地を任せる事はラミシィス国にとって望ましく無い。秩序を保つ為ならばラミシィス国は万の単位の兵を差し向けるだろう。重ねて問うが、あなたが代表で構わないのだろうか?」
「ああ、上等だ! やってやろうじゃないか!」
周囲で成り行きを見守っていた拉致被害者の顔面は蒼白だった。
1名を除いて佃中竜二と同席している全員が事の成り行きに呆然としていた。
「春香、通訳してくれるか?]
声を上げたのは現代人代表の末席に座っている守貴志だった。
「いいよ。でも、そのままで発言しても説得力が無いと思うよ」
「だろうな。ちょっと失礼します」
貴志はそう周りに声を掛けてから『ご先祖の脳波』を発生させた。
効果は大きかった。
現代人代表の一部を除いて、ほぼ全員がぎこちなく貴志の方に視線を送った。
「そこに居る守春香の兄の守貴志と言います。分かっていると思いますが、僕もあなたがた程度の『主神の恩寵』は持っています。正直なところ、アラフィス王子が懸念している点に関しては僕も同じ立場なら同じ結論になります。現状では我々にこの地を任せる事は無用な危険因子と判断するでしょう。とは言え、万の単位の兵力を投入せずとも巨人からここを守り切れるならば、あなた達の国にとっては利益が有るのでは?」
アラフィス王子の反応は先ほどよりも穏やかなものとなった。
「春香様の兄上ならば話が早い。とは言え、あなた達がこの地を守れるかどうかを判断するには材料が少な過ぎる。可能であれば証しを見せてくれると助かる」
貴志はロバート・J・ウィルソン大尉に顔を向けた。
「そちらで持って来ているバズーカみたいなのは使えませんか? 妹のは隠しておきたいんで」
「ばれていたか。バズーカでは無くSMAW(スモ―)という名前だ」
「ありがとうございます」
「いや、こっちこそ、感謝する」
ウィルソン大尉が貴志に礼を返したのは、敢えてアメリカ海兵隊の存在価値を上げる提案を貴志がしたからであった。
もっとも、この会合前にお互いに手の内を明かし合っていたので出来レース以外の何物でも無かったが。
「春香、外でこっち側の戦力の一部を披露するって言ってくれるか?」
「うん、分かった」
有効射程が500㍍のSMAW ロケットランチャー(Shoulder-launched Multipurpose Assault Weapon)の性能を秘匿する為に敢えて100㍍で試射した効果は絶大だった。
現代人代表団のラミシィス国への招待が決まった。
佃中竜二の名前はその中に含まれていなかった。
如何でしたでしょうか?
愛すべきキャラ、佃中竜二の今後の活躍に期待です(^^)
活躍する予定が有る・・・・・・・の?




