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第45話 7-10 「始まりの日」

第45話を公開します。


20150316公開


あらすじ

 巨人ホモ・サヤマエンシスに蹂躙され、拉致された大阪狭山市の市民たち。

 そして決行された二つの軍事作戦。

 戦死者も出した作戦の結果、もたらされる運命とは?




7-10 『始まりの日』 西暦2005年10月27日(木) 午前6時48分



美味おいしい・・・・・」


 河内唯がポツリと呟いた。

 

「ああ、本当にうまいなあ。ご飯てこんなに旨かったんだ・・・」


 橋本翼も同じ様に呟いた。


「さすが自衛隊のパックメシだね。自衛隊が海外に派遣された時に行われた戦闘糧食コンテストで優勝した事も有るんだよ」

「納得出来るわ。もしかしたらこれまでに食べた中で一番美味しい食事かも」


 彼らは巨人の砦の広場で食事を摂っている最中だった。

 鈴木母娘もすぐ近くで仲良く食べていた。

 周囲でも高校生コンビと同じ様に自衛隊から供給された戦闘糧食Ⅱ型にむさぼりつく様にして食べている拉致被害者の姿が在った。

 前日までは想像も出来ない光景だった。

 彼らが食べている戦闘糧食Ⅱ型はレトルトパックになっており、ご飯系の主食パック2つとおかず系パック1つの3つで構成されていた。

 

「あ、こっちのパックは山菜飯だ」

「私のはドライカレーだわ。うーん旨い。これ、お土産にくれないかな?」

「いいねえ。お土産にもらえるか後で聞いてみよう」


 戦闘糧食Ⅱ型には箸やスプーンは付属していない。その為に全員が袋から絞り出すようにして食べていた。

 とは言え、拉致されてからの数日間、巨人に与えられた食事が具もまばらな味のしないスープと堅いだけのパンの様なものだったせいも有り、食べる姿を別にすれば久し振りに摂った文化的な食事だった。

 

「ああ、俺たち助かったんだなあ・・・」


 真っ先に食べ終わった翼がお腹をさすりながら呟いた。

 その言葉に唯が残っていた高菜漬けに名残惜しそうに口を付けながら頷いた。

 

「どうしたの、留美? さっきから一言も喋らないけど?」


 吉井真里菜の質問に、宮野留美は慌てて答えた。


「何でも無いよ。余りにも美味しかったので、思わず無口になっただけ」

「そう、ならいいけど。なんだか、さっきから様子が変だったから心配していたのよ」

「ゴメンね、心配掛けて」

「まあ、他の人達も留美と同じ反応だから、はしゃいでいる私たちが変なのかもしれないけどね」


 そう、真里菜の言葉の通り、拉致被害者たちは黙々と戦闘糧食Ⅱ型を食べていた。

 中には涙を流す者もかなりの数が居る。


「でも、どうでもいいけど、朝食にしてはちょっと重い食事よねえ」

「まあ、食事が済んだら、またあの距離を歩くんだから、栄養はしっかりと摂っていた方がいいと思うよ。確か一食当たり1000キロカロリー以上は有った筈だけど」

「げっ! 1時間のウォーキングでの消費カロリーが160キロカロリーだから3時間歩くとしても足りないわねえ。帰ったらダイエットしなきゃ」

「いやいや、これまでの粗食で栄養が不足しているからちょうどいい位だよ」

「なるほど・・・・・ って、それって悪魔の囁きだわ。帰ったら体重の確認しなきゃ。あ、肌荒れも気になるから念入りに手入れしなきゃ」

「意外と真里菜って気にする方なんだな」

「当り前よ。これでも花も恥じらう乙女なんだから。ま、私なんて適当な方よ。凄い子は化粧に命を懸けているのも居るし」


 そんな他愛も無い会話だが、留美にとっては感情を抉るような会話だった。

 何故なら、彼女は自分達の運命を“分かっている”からだ。

 食べ終わってゴミとなった空のパックを回収して回っている自衛隊員の空気が、留美の確信に補強の材料を与えていた。

 彼らは緊張していた。

 自分自身の覚悟はもう済ませた。

 だが、拉致されてからここまで一緒に苦労を共にしたみんなの事を考えると、この後に訪れる筈の運命を呪いたくなる。

 

『えー、皆さま。食事が済んだようなので、これからの予定を説明します』


 機械的に拡大された声が広場に流れた。

 広場に居た拉致被害者全員が声がした方に目に向ける。

 そこには十数人の自衛隊員と数十人の機動隊員、更には私服の民間人5人と作業着を着た2人が立っていた。

 1人の自衛官が白い拡声器を口の前まで上げて続きを話し出した。


『自分は自衛隊の派遣部隊司令の清水です。最初に巨人がもたらした凶行により命を落とされた犠牲者の冥福を祈りたいと思います。よろしければご起立下さい』


 ほぼ全員が立ち上がった。


『犠牲者の冥福を祈り、黙祷』


 それは10秒間の黙祷だったが、その僅かな時間に助かった市民の胸中には様々な思いが過ぎった。


『黙祷を終わります。お座り頂いても結構です』


 全員がその場に腰を下ろした。


『この後、皆さまには一緒に寝泊まりしたいグループの申告をして頂きます。ただしご家族の方を除き、男女を分けさせて頂きます』


 拡声器の声が途切れると同時に大声が響いた。


「なに言ってんだ!?! そんな事をしないで、とっとと日本に帰してくれ!!」


 留美は下を向いた。

 彼女には続く言葉が予想出来たからだ。


『残念ながら、現状では日本には帰れません』


 一瞬息を飲んだ後、一斉に抗議の声が上がった。

 中には悲鳴も、泣き声も混じっている。


『もう一度言います。現段階では日本には帰れません。皆さまも通った壁の中の特異点が消失しました。残念ながら原因も対応策も現状では不明です。復活をするにしてもその時期は不明であり、その間はこの砦で寝泊まりをする必要が有ります』


 ほとんどの拉致被害者は呆然として、言葉を失った様だった。

 だが、全員では無かった。


「おい、自衛隊! 責任を取れよ! 俺たちを日本に帰せ! その為に給料を貰っているんだろ! だったら、責任を取って、日本に帰せよ!」


 そう叫んだのは、救出作戦を崩壊一歩手前に追い込んだ男性だった。

 そして、得てしてこういう主張には追随者が発生する。

 徐々にその声は広がって行った。

 立ち上がって、座り込んでいる人の迷惑を顧みずに前の方に向かう人物が10人ほど現れた。

 機動隊がスッと動いて壁を作った。


『お気持ちは分かりますが、現状で取れる手段は限られています。我々の力不足ですが、どうか、ご理解と冷静な判断をお願い致します』


 自衛隊と機動隊は敢えて、帰還出来ない事を最初に明らかにする手法を選んだ。

 もちろん、理由を付けて帰還の期待を持たせたままで時間稼ぎをした上で説明する手法も有るが、最終的に自殺を選ぶ拉致被害者の予測数が少ない方を選んだ。

 


 留美たちのグループは沈黙していた。

 その沈黙を破ったのは幼稚園児の鈴木美羽だった。


「ねえ、みう、おうちにかえれないの?」


 一瞬の間が開いた。

 その質問に答えたのは留美だった。

 

「美羽ちゃん、ごめん」

「るみねえちゃん、ほんとうにかえれないの」

「ええ、その通りよ」

「だったら・・・・・・」


 美羽はそこで間を開けた後で言葉の続きを小さな声で囁いた。


「おねえちゃんたちといっしょにいたい。みう、おねえちゃんたちとおかあさんがいたら、だいじょうぶだから」


 留美には美羽を抱き締める事しか出来なかった。

 この小さな子が堪らなく愛しくて、言葉ではその事を表現できない為に、抱き締めた。




 『始まりの日』と名付けられていた、拉致被害者救出作戦の状況終了宣言は1時間後だった・・・・・





如何でしたでしょうか?


 嫌われるキャラNo.1の筈の男性は敢えて年齢層以外は詳しい描写をしていません。

 皆さまの心の中で、身近な人物で大嫌いな方を当てはめて下さいませ(^^)

 ちなみにmrtkにはそんな人物は居ませんよ(^^;) 本当ですよ(^^)


 取敢えず、次はエピローグになる筈です、多分(^^;)

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