第44話 7-9 「終わりの日」
第44話を公開します。
20150314公開
あらすじ
巨人に蹂躙され、拉致された大阪狭山市の市民たち。
そして決行された二つの軍事作戦。
戦死者も出した作戦の先にあるものは?
7-9 『終わりの日』 西暦2005年10月27日(木) 午前6時17分
ロバート・J・ウィルソン大尉が率いるUSMC第31海兵遠征部隊選抜チームは砦が見える位置まで帰って来た。
戦死者3名と重傷者2名の担架を担いで来たせいで予定よりも遅い帰還だった。
「中隊長、左手に自衛隊の部隊が居ます」
ウィリアム・H・ダントン三等軍曹が声を掛けて来た。
ウィルソン大尉はダントン軍曹が指し示す方向に顔を向けた。
刈り入れが終わっている麦畑の一角に、少なくとも陸上自衛隊の普通科2個小隊が周囲を警戒している場所が目に入った。
場違いな印象がある警察官部隊(ウィルソン大尉は機動隊という日本独自の警察官部隊を知っていたが、それでもちぐはぐな印象は残った)も、自衛隊部隊の警戒ラインの内側でポリカーボネート製の透明な盾を立てて警戒に当たっていた。
「市民の姿も見えるな」
「助け出されたと言っても、自分達の境遇を知ったら暴動の二つや三つは起こるでしょうね」
「軍曹、君は日本に来て何年だったかな?」
「1年も経っていません」
「ならば分からんだろうな。彼らは信じられないくらいに我慢強い。異常なくらいにだ。もし暴動が起こったとしてもそれほど大規模にはならないだろう。むしろ自殺を選ぶ方が多いと思う」
ウィルソン大尉の脳裏には、阪神淡路大震災の時に見せた日本人の信じがたい程の忍耐強さが過った。
「なんにしろ、帰れる場所が有るという事がこれほど心強いとは考えた事が無かったな」
「確かにそうですね。助け出された彼らがそれに気付く日が来るのでしょうか?」
「さすがにそこまでは分からんな。だが、少なくとも作戦に参加した兵士にとっては、自らが掴み取った領土だ。誰がなんと言おうが手放したい奴は居ないだろうな」
彼らが担った軍事作戦、Operation『Final day』はこうして終了した。
「あれ、もしかしてあの兵隊たちって、アメリカの海兵隊じゃないかな?」
高木良雄が突然声を上げた。
彼の視線の先に目を向けた宮野留美の視界にいくつもの担架を数人がかりで運んでいる軍人の集団の姿が入った。
彼女は自分だけが気付いているであろう運命を早くも受け入れていた。
親友の守春香が示す全てが過酷な運命を示唆していたからだ。
「確かに自衛隊の服の模様とは違うけど・・・」
「多分、砂漠用のDESERT MARPATって呼ばれる迷彩服だと思う。うーん、あれじゃ却って目立つ気もするなあ」
「高木君、もしかしてそっち方面のオタク?」
「いやいや、僕なんてオタクと言えないよ。本当の軍オタなら部隊名まで分かるもの」
「いや、良雄は十分にオタクだと思うよ、私は」
良雄と留美の会話に吉井真里菜が加わった。
「おたくってなぁに?」
更に幼稚園児の鈴木美羽も加わった。
「うーん、なんて言えば分かるかなぁ」
「えーとね、美羽ちゃん、ポケモンに詳しい子が幼稚園に居ない?」
「うんいるよ。まことくんはいろんなポケモンをしってるよ」
「なら、まこと君はポケモンオタクだよ」
「ふーん。だったらよしおにいちゃんはなんのおたくなの?」
「ぐ・・・ 幼稚園児の純粋な質問に答えられない私が居る・・・」
真里菜がそう言って絶句した。
「美羽ちゃん、僕たちを助けてくれた人たちは誰?」
「じえいたいさんときどうたいさん!」
「正解だよ、偉いね。僕はちょっとだけ、その人たちに詳しいんだ」
「わかった! じえいたいさんときどうたいさんのおたくなんだ」
「そうそう、美羽ちゃんは賢いねえ」
「そうかあ・・・ よしおにいちゃんはすごいね!」
「え?」
思わぬ結論にその場に居た全員が間の抜けた声を上げた。
救出された市民が誘導されて砦に再び戻ったのは、それから20分後だった。
如何でしたでしょうか?
予定には無かったのですが、帰宅後に何となく書きたくなったので書いちゃいました(^^;)
そのせいか、ちょっと短めです。
ちなみに、最初の予定では今回で『始まりの日』本編は終わる筈だったのですが、次回に持ち越しです(^^;)