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第42話 7-7 「少女が開く道」

第42話を公開します。



20150309公開


あらすじ

 巨人ホモ・サヤマエンシスに蹂躙され、拉致された大阪狭山市の市民たち。

 被害者たちの運命は?

 救出作戦の結果、もたらされる影響とは?

 

 


7-7 『少女が開く道』 西暦2005年10月27日(木) 午前4時33分



 ロバート・J・ウィルソン大尉は自分の戦闘前の見積もりが甘かった事を痛感していた。

 敵、すなわち前時代的な装備しかしていない巨人に、自分達Devil Dogsがここまで被害を蒙るとは思ってもいなかった。

 そのツケは戦死者3名、重傷者2名、軽傷者3名という被害だった。

 部下の死という精神的ショックだけでなく、キャンプ・ハンセンやステーツ本土からの補充が見込めない状況下での戦力ダウンは様々な悪影響を及ぼす。


 部下の治療を見やりながら考え事をしていた彼の元に、カウンターパートナーの陸上自衛隊第37普通科連隊第一中隊第三小銃小隊の小隊長、山口和男二尉が通信兵と共にやって来た。

 山口二尉は几帳面と言う印象を受ける敬礼をした後にウィルソン大尉への伝達事項を伝えた。

 

「大尉殿、我々は引き続き、この場に留まる命令を受けました。貴隊には砦への帰還要請が来ています」

「了解した。30分後には出発の準備が整うので、その様に伝えてくれないか?」

「了解です。それとお悔やみを申し上げます」

「お心遣い感謝する。この被害は私の慢心が産んだものだ。まさかこれほど戦い難い相手とは思ってもみなかった」

「我々も・・・」


 山口二尉は部下たちの方を振り返った後で言葉を続けた。


「自衛隊も多くの犠牲を出しました。私の小隊は幸いにもこれまで戦死者は出ていないのですが、他の部隊は酷いものです。1個小隊が丸ごとやられた連隊も居ますから・・・」

「戦った後だから言えるが、開けたこの戦場では無く、市街地での戦闘を余儀なくされていたのだから自衛隊の犠牲者が多かったのも理解出来た。もし我々が同じ状況下に置かれても同じ結果になっただろうな」


 山口二尉が部下の下に帰った後、ウィルソン大尉は部下の叱咤激励に気持ちを切り替えた。


 なんにしろ、砦への帰還命令が出たという事は、砦奪取作戦も成功したという事だ。

 少なくとも、最悪の状況からは遥かにマシな状況になったと言える。


「野郎ども! 自衛隊は砦の奪取に成功したそうだ! 犠牲を出したが、砦に凱旋する時は胸を張って入るぞ! 我々はそれにふさわしい戦果を上げたのだからな!」


 彼らUSMC第31海兵遠征部隊選抜チームが陣取るごく低い丘の頂上に至る斜面には、3ケタに迫ろうかという巨人の死体が連なっていた・・・・・

 

 


「で、いつ帰れるの私たち?」

「あー、それはちょっと私では分からないなあ・・・」


 吉井真里菜の質問にそう答えた守春香の顔には微妙な影が有った。

 彼女たちは他の拉致被害者たちと一緒に、砦から1㌔ほど離れた場所で待機させられていた。

 兄の守貴志の姿はここには無い。

 彼は他の学者たちと一緒に司令部に詰めている筈だった。


「守さんは自衛隊や機動隊の人達と仲がいいんでしょ? 何か聞き出して来てよ。お願い!」


 真里菜が両手を顔の前で合わせて頼んだのに合わせて、他のクラスメートも同じ格好をした。

 それまで正常に戻った母親にしがみついていた幼稚園児の鈴木美羽も真似をしていた。

 鈴木親子にとって、高校生のグループはまさに命の恩人だった。

 母親の鈴木珠子も現実逃避していた間の記憶は薄いながらも残っていた。

 もし高校生たちが手助けしていなければ、2人は生き延びる事は出来なかっただろう。

 そんな中、宮野留美だけは真っ青な顔色で呆然としていた。


「ほら、留美も一緒にお願いをし・・・・・」


 真里菜の言葉は途中で消えた。


「留美・・・ 顔色が真っ青よ? 留美、聞こえている?」

「あ、ごめん・・・ 今頃になって、恐怖が来てる・・・」


 嘘だった。

 彼女は薄々は気付いていたのだ。

 拉致被害者の救出に成功したにもかかわらず、何故か自衛隊員や機動隊員の意識に達成感が少ない理由を心の底では不思議に思っていた。

 高木良雄がこの避難場所に来る途中で漏らした疑問の答えも今分かった。

 彼はこう呟いていた。


「被害者の救出に成功したのに、どうして砦の中を執拗に掃討してるんだろ?」


 その答えは、絶望をもたらすものだった。

 その時、救出された安心感から座り込んで休んでいる市民たちの間を歩いて来る自衛隊員2人と機動隊員1人の姿に気付いた。

 その意識は見事にコントロールされている。

 ちなみに、留美たちのグループの周りは大きな空間が出来ていた。

 人の形をした“鬼”とでも言える春香を恐れているのは、多分留美の様な能力を使わずとも分かるだろう。

 3人の大人たちが春香に向けて敬礼をした。

 当の春香は小首を傾げた後で言葉を発した。


「お久しぶりです、秋山二尉、岸部警部補、小林一士」

「春香君、この度の協力に全自衛官、全機動隊員を代表してお礼を言う。本当に助かった」


 秋山二尉の言葉に合わせて、3人が同時に頭を下げた。

 

「いえいえ、私が協力したのは個人的な動機ですから、気にしないで下さい」


 どこか照れくさそうな表情を浮かべながら春香は答えた。


「また機会を改めて司令からも礼を尽くす予定だ。だが、その前にまた君の力を借りたい」

「もう巨人は駆逐されたのでは? さっきから銃声が聞こえていませんよ?」

「ここでは言えないが、君の兄上からの指名で頼みたい事が発生している」

「はぁぁぁぁ・・・ 貴ニィの指名なら仕方ないですね。分かりました、直ぐに準備します」


 そう答えた春香は血だらけの迷彩服の上から装着している弾帯・2型に吊り下げていた2つの弾入れ・2型と水筒を背中から外して留美に渡した。


「これを先に渡しておくね。片方には12個の歯ブラシと歯磨き粉が3つ入っているよ。それともう片方には石鹸が4つ入っているからみんなで使って。でも、大事に使ってね・・・ 留美なら意味が分かるよね?」


 最後の言葉は留美の耳元で囁かれた。

 留美の返事は全てを理解した上で発せられた。


「ええ、分かっているわ。素直にありがとうと言うね」

「うん、さすが留美だ」


 顔を離した後で答えた春香の顔は嬉しそうだった。

 実際のところ、留美の目に映る春香の意識も同じ反応を示していた。


「お待たせしました」


 表情を真剣なものにして春香は秋山二尉たちに声を掛けた。

 

 砦に向かう4人の通り道は自然と開いて行った。

 少しでも春香から遠ざかりたい一心から起きた現象だった。

 それは、ある映画の有名なシーンの様でもあった。


 思わず、留美はその光景を見ながら呟いた。


「巨人よりも怖がられる春香の身にもなってよ・・・ 他でも無い春香に助けられたのよ、あなたたちは・・・・・」


 


 それは、無理というものであった・・・・・・・・ 

如何でしたでしょうか?


 春香さんが不憫で仕方ありません(;;)

 みんなを助ける為に“鬼”になったのに、感謝する人間がクラスメートグループと救助部隊だけなんて・・・

 まあ、見方を変えると、そっちの方が多数派なんですけどね(^^)


【それは、ある映画の有名なシーンの様でもあった】

 チャールトン・ヘストンさんが主役の超大作です。



 さて、あと1話か2話でエピソード1が終了する予定です。

 次回更新は3月12日(木)以降の予定です。

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