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第39話 7-4 「親友」

20150228公開

あらすじ

 巨人ホモ・サヤマエンシスに蹂躙され、拉致された大阪狭山市の市民たち。

 被害者たちの運命は?

 『殺意の塊』が取る行動とは?

 救出作戦の行方は?

 




7-4 『親友』 西暦2005年10月27日(木) 午前3時37分



「君たちも避難した方がいいぞ」


 そう言って宮野留美たちに言葉を掛けて来た自衛隊員は眼前に降ろしていた暗視装置を上げて両目を出した。

 180㌢ほどの身長で、肉体が鍛え上げられている事は迷彩服の上に防弾チョッキ?を着ていても分かる程だった。そして、その身体から発する圧迫感は民間人では出せないものだった。

 上空では30秒弱に1発の割合で照明弾が今も打ち上げられていた。 

 ただし、ずれたタイミングでも発射されている音と発砲音が遠方からも微かに聞こえていた。


「そうですね、もう大丈夫みたいですし・・・」

「ん、何が大丈夫なんだい?」


 留美の答えの意味が一瞬分からなかったのだろう。自衛隊員が怪訝な顔をした。

 

「いえ、春香の怒りも収まったみたいって意味です」

「君たちは彼女の知り合いか?」

「クラスメートです」 

「凄いな、彼女は。学校でもあんななのかい?」


 そう言いながら、その自衛隊員は周囲で警戒態勢を取っている隊員たちに待機の指示を出した。


「まさか・・・ あそこまで破天荒だったら、普通の高校生なんてやっていられませんよ」

「そりゃそうだ」

「彼女とは幼馴染なので大概は分かっている積りでしたが、さすがにあそこまで常識外れだったとは思いませんでした」

「ははははは。 まあ、彼女のおかげで救出作戦が成功に終わりそうなんだから、態度を変えないで上げてくれ。友達が態度を一変させるとさすがに落ち込むだろうからな」

「あ、それは大丈夫です。彼女、きっと、私を助けに来たんですから。さすがに命の恩人が落ち込む様な真似はしませんよ」


 そう言って、留美は笑みを浮かべた。

 そして、言葉を続けた。


「ありがとうございます。そして、お優しいんですね」

「ん?」

「だって、自衛隊さんから、彼女と私たちの事を思いやっている空気が感じられますから」

 

 少し驚いた表情を浮かべた沢野信弘二尉は次の瞬間、爆笑した。

 その光景に驚いた様な表情で部下が一斉に沢野二尉を見た後で、慌てて視線を分担している警戒ラインに戻す。目が合ったりしたら、後でどやされるのが確実だからだ。


「いやいや、君も大概の大物だよ。悪いな、時間を取らせた。門の所まで行ったら、後は機動隊が誘導してくれる。友人同士の再会が上手く行く事を祈っているぞ」

「はい。本当にありがとうございました」

「あ、あの!」

 

 2人の会話が終了したと見たのか、高木良雄が声を上げた。

 沢野二尉が視線を向け来たのを見て、良雄がちょっと上ずった声で尋ねた。


「多分教えてくれないと思いますが、所属部隊はどこですか?」


 一瞬だけ間を開けて、沢野二尉が答えた。


「S・・・ 内緒だぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 そう言って深々と頭を下げた良雄を“変な奴”という目で見るみんなに、沢野二尉が声を掛けた。


「俺が頼むのも変だが、くれぐれも春香君の事をよろしく頼む。彼女は君たちを助ける為に大きな犠牲を払っている。その事を踏まえてやってくれ。では・・・・・」


 彼は一瞬の間を開けた。


「巨人の拉致からの解放おめでとう。そしてよくぞ耐えた」


 そう言って、彼は部下を引き連れて巨人たちが寝泊まりしている建物群に向かった。



 

 拉致被害者救出作戦は次の段階に進んだ。

 『市民が巨人たちの建物に引き込まれている可能性を考えて』建物内の探索を開始する段階に入ったのだ。

 もちろん、建前だった。

 この砦を今後の拠点とするには、巨人たちを排除する必要が有る。

 『市民の救助』というよりも『制圧』以外の何物でも無かった。


 関根昌幸二尉はCQB(Close Quarters Battle:近接戦闘)の原則通りに部隊を6つに分けた。

 先鋒の班がスタック(4人1組の密集隊形)を組んでゆっくりと全方位を警戒しつつ前進して行く。それを援護する様にずらした位置から2つの班が続く。

 先鋒の班が一番手前の建物に辿り着き、数十㌢ほど壁から離れた位置をゆっくりと扉に近付く。

 後続の班も建物に取り付いて、更に警戒範囲を拡げた上で警戒密度を上げた。

 今までのところは、隊の施設を使った訓練やアメリカまで出張して受けた研修で散々繰り返した訓練通りの動きだった。

 先鋒の班が扉まで進んだ後、慎重に中の様子を窺う。特に異常は無いようだった。

 2人が扉の反対側に回る。

 だが、中に入る段になって戸惑いを見せていた。しばらくして扉の開け方が分かったのだろう。

 どちら側が、どっちの方に開くかを知らせて、突入のカウントダウン開始をハンドサインで合図した。

 扉を開ける役割の隊員が扉から出ている棒を上に引き上げて一気に扉を押し込んだタイミングで反対側の2人が室内に突入した。続いて扉を開けた隊員側の2人も室内に突入する。

 更に後続の班の4人も突入し、最後尾の班が外で警戒を続けた。

 しばらくして8人が建物から出て来ると、扉から飛び出ている棒に白い布を巻き付けた。

 そうしてシラミ潰しに建物を制圧して行った。


 

「うーん、留美、めちゃくちゃ汗臭い・・・」

「そういうハルだって、鼻が曲がりそうに血生臭い!」


 そう言って、お互いを抱き締める再会の儀式が終わった二人は顔を見合わせた後で大爆笑をした。


「いやー、本当に良かった。絶対に助ける気で来たからねえ。もし駄目だったら、私、一生自分の事を無能だと攻め続けるところだったよ」

「いやいや、ハル、アンタが無能だったら、世の中の全員が無能って事になるから!」


 そう言って、留美はもう一度春香を抱き締めた。


「ありがと・・・・・ 貴女が助けに来てくれると信じたから耐えれたんだよ。ハルが親友で良かった・・・・・」 

「ん・・・ それはこっちのセリフ・・・ 留美なら私が助けに行くまで死なないと信じられたから来れたんだから・・・ 生き残ってくれてありがとう」


 

 沢野二尉の心配は杞憂だった。

 守春香と宮野留美の2人は、ある意味ではお互いに依存する存在だったからだ。





 周囲で2人の再会シーンを眺めている人間にとって、2人の女子高生の抱擁は日常への回帰を予感させるものだった。



 もちろん、全員が間違えていた・・・・・・・








お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m


 さあて、最近はあとがきに時間を費やすので予定よりも遅く公開する事になっている気もしますが、今回も補足しておきます(^^;)



【肉体が鍛え上げられている事は迷彩服の上に防弾チョッキ?を着ていても分かる程だった】

 本来、特戦群は「戦闘服市街地用」を着用していると言われています。

 ですが本作では市街地戦用よりも現地の環境(植生)に適した「空挺迷彩服2型」を着用しているという設定です。


【ずれたタイミングでも発射されている音と発砲音が遠方からも微かに聞こえていた】

 はい、伏線です(^^)

 詳しくは次話で出て来る筈です(多分)

 ヒントは、拉致被害者救出&砦奪取作戦の割には投入された部隊が少ない点です。


【周囲で警戒態勢を取っている隊員たちに待機の指示を出した】

 こんなところで長話をしている場合では無いのですが・・・・・


【「S・・・ 内緒だぞ」】

 本当なら“内緒だぞ”どころじゃ無いんですけどね(^^;)


【数十㌢ほど壁から離れた位置をゆっくりと扉に近付く】

 これは壁に当たって「跳弾」となった敵の銃撃を喰らわないようにする為です。

 この当時でも「市街地戦訓練」では常識となっているノウハウです。


【隊の施設を使った訓練やアメリカまで出張して受けた研修】

 特戦群の訓練内容は公開されていませんので、mrtkの勝手な設定です。


【どちら側が、どっちの方に開くかを知らせて】

 これもCQBの基礎です。


【扉から飛び出ている棒に白い布】

 もしかすれば違う方法かもしれませんが、この様にする事で「制圧済み」と他の部隊に知らせる目的です。

 あ、そんなに意味が無い設定として、巨人たちの扉は地面に空けた穴を木材で補強して、扉に取り付けた閂を落とし込む感じです。

 ですから、内側にも外側にも開きます。

 今回の突入では引いた後で突入するよりも押し込んで突入する方がスムーズなので押し込んでいます。

 あ、門は更に水平方向の閂が追加されていますので、人手が必要となっています。

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