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第37話 7-2 「救出作戦開始」

20150224公開

あらすじ

 巨人ホモ・サヤマエンシスに蹂躙され、拉致された大阪狭山市の市民たち。

 被害者たちの運命は?

 そして、『殺意の塊』の行動は?



7-2 『救出作戦開始』 西暦2005年10月27日(木) 午前3時16分


 半ば本能に近い反応で、守春香は追加で造成した2枚の補助翼をそれぞれ6度と4度だけ捻った。

 補助翼が得た揚力で身体を水平に戻しつつ右上主翼のフラップを13㍉大きく展開する。右上主翼が再び空気層を捉え始めるとバランスを取る為に下げていた右足を上げながら補助翼の捻りを元に戻した。 


 上空1000㍍で待機している間に観測した、温度、湿度、気圧、周辺の地形などの情報を基に気流をイメージし、その結果を使って失速寸前の速度で降下して行くなど、彼女以外には不可能だろう。


 彼女が創りだした、飛行する為のUK製部品は、4枚の主翼、背中に背負う形のラックの前部に固定された主ファンと後部の水平双尾翼垂直双尾翼、両足の補助ファンが主なものだった。

 だが、今はどうしてもファンから漏れる高周波の音が邪魔になる為にファンの造成を解いていた。

 代わりに普段は使わない補助翼を身体の左右に展開していた。


 そろそろかな? と思った途端に、地上の砦のすぐ近くで小さな灯りが一瞬だけ輝く。

 彼女は最後のアプローチに移った。



 M4カービンに取り付けたレーザーサイトの電源を落としながら、関根昌幸二尉は周囲に散らばる部下たちにハンドシグナルを送った。

 作戦は予定通りに進行している。

 後は、彼女の働き次第だった。


 春香は失速寸前の速度で目的の壁の上に向けて滑り込んで行く。

 立哨の巨人たちの注意は外に向けられているので、彼女に気付かずに無防備な背中を見せていた。

 壁に造られたキャットウォークまであと1㍍といったところで、全ての翼を使って制動を掛けると、身体が一気に沈み込んで行く。同時に身体の前方に浮かせておいた巨人の剣の拘束具を解いて、両手で握る。

 キャットウォークに音を立てずに着地する為にひざのバネを使って衝撃を吸収しつつ、運動エネルギーのベクトルを前方に偏向させた。

 目前に迫った巨人の首筋を水平にした剣で後ろから頸椎と気道を同時に貫いた。

 悲鳴も上げさせずに無力化した巨人の身体が倒れようとするが、首に刺さった剣を使ってバランスを取って倒れないようにする。殺した巨人が壁に立てかけていた槍を使って彼の遺体を外壁に縫い付けて、偽装工作をすますと、春香は20㍍ほど右手に居る巨人の元に向かった。

 

 合図を送ってから、3本のロープが壁の上から放り出されるまでの時間は1分も掛からなかった。

 部下たちが降ろされたロープを使って、石垣と壁を立ったままで一気に登って行く。

 関根二尉は第2陣として登り切ったが、キャットウォークに足を降ろした瞬間、足元から水音がした。

 女子高生が産み出した修羅場に到着した証明だった。


 春香は自衛隊特戦群を先導するかのように、立哨中の巨人を屠っていた。

 その数が二桁に達する頃に、一緒に行動していた桜井敦二曹から肩を叩かれた。

 振り返った彼女の目に、ヘルメットに取り付けた暗視装置を眼前に引き下ろした桜井二曹の顔が映った。

 彼は口元を覆った黒いマフラーを引き下げて声を出さずに喋った。


「後は我々がするので、君は次の作業に移れ」


 唇の動きで指示を受け取ってうなずく彼女に、更に言葉を続けた。


「すまんな」


 意味を掴み損ねて怪訝な表情を浮かべた春香に苦笑を浮かべつつ、桜井二曹は付け加えた。


「女の子にさせる事じゃないのは分かっている。だからもう一度言う。すまん」


 春香の返事は笑顔だった。

 返り血で真っ赤に染まった少女が見せた笑顔は戦場に似つかしくない程の笑顔だった。

 数分後、彼女は砦内のある木造建物に向けて右手を差し出して、その時を待った。

 

 作戦は次の段階に移った。

 特殊作戦群3個小隊72名は確保した橋頭堡を後続の普通科隊員に引き継ぐと、砦内部に侵入を始めた。

 やがて1個小隊が唯一の門に繋がる内部の門に辿り着いた。ここまで1発の発砲も無い。

 人間の注意力が一番低下する時間帯を狙って行われているとはいえ、作戦は順調に進んだ。



「どうなっている?」


 橋本翼が押し殺した声で宮野留美に訊いて来た。


「凄いよ、もう何十人もそこらじゅうに散らばっているわ。門の所にも辿り着いたし」


 留美は上半身を微かに上げて、周囲の状況を確認してからクラスメートたちに伝えた。

 

「あ、門を開ける準備に入った・・・」

「巨人たちの反応は何も無い? 余りにも上手く行き過ぎている気がするなあ」

「うーん、特に何も無いわ」


 高木良雄の質問に答えつつ、留美は更に周囲の状況を注意深く見渡した。


「あ・・・・ ハルが見えた・・・」

「え、守さんが? どこに?」

「壁の上。何かしようとしているみたい」


 彼女はみんなが起きてから、ずっと状況を伝えていた。

 上空に留まっている「白ハル」に似た人物の事も伝えたし、続々と現れる自衛隊員の事も伝えた。

 出来るだけ周囲の人間に聞かれない様に小声で話していたが、それでも浅い眠り故に起きてしまう人も居た。

 可能な限り静かにすべきなのだが、残念ながら人間は理性のみで行動しない。

 予定以上に順調に進んでいた計画が破綻したのは、分別盛りであるべき年齢の男性が取った行動が発端だった。


「プリンセス2よりプロセッサーへ、トロフィーの一部で騒ぎが発生。どうして我慢が出来ないの・・・」

「プリンセス2、規模は?」

「一気に拡がっています」

「了解、引き続き、情報を送られたし」

「はい」


 佐々優梨子は眼下の騒動を悲しい思いをしながら見詰めた。



「プリンセス3、“お客様”が騒ぎ出した。やってくれ!」


 初めて会ったばかりの名も知らない三曹が声を出して春香に指示を出した。

 同時に砦の周辺から上空に向けて何かが打ち上げられた。


「了解! みんな、耳をふさいで!」

  

 春香は標的とされている建物に向けて発砲を始めた。

 周辺に衝撃波が襲う。

 彼女が持つ技術の中で最大の火力を誇るパチンコ玉を使った『超高速射出銃』による衝撃だった。

 春香が開発した高機能繊維の宇宙空間における対デブリ能力を調べる為に開発したものだが、当時は真空で実験していた為に、大気が有る状態では初めての発砲だった。

 秒速3㎞で打ち出されたパチンコ玉は大気に触れた瞬間に赤熱し、更には減速しつつ幾つかに砕けながらも標的の建物に到達した。

 効果は絶大だった。

 屋根に使われていた木材に触れた瞬間に木材もろとも爆散した為に、10発を打ち込んだ段階で建物内には無事な調度は残されていなかった。

 もちろん、建物内に居た人間も同じだ。

 巨人たちの司令部はこうして壊滅した。



お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m


P.S. 作中ではリズム重視の為に軽く流した描写の補足を追記しておきます。


【右上主翼が再び空気層を捉え始めるとバランスを取る為に下げていた右足を上げながら】 

 とっさに右足を下げる事で空気抵抗を使ってそれ以上の傾きを止めた感じです。

 まあ、揚力は発生しないのであまり意味が無い気もしますけど・・・


【上空1000㍍で待機している間に観測した、温度、湿度、気圧、周辺の地形などの情報を基に気流をイメージ】

 翼の形状を決める際に春香嬢はかなりの文献を読み込んでいます。

 その際に大気の状態の重要性を理解した彼女は自分なりの方法で測定する方法を開発済みです。


【悲鳴も上げさせずに無力化した巨人の身体が倒れようとするが、首に刺さった剣を使ってバランスを取って倒れないようにする】

 ちょっと力加減を間違えると、首が切断される状態でした。


【殺した巨人が壁に立てかけていた槍を使って彼の遺体を外壁に縫い付けて】

 槍先に含まれているUKに直接働きかけているので、音を出さずに成し遂げています。


【石垣と壁を立ったままで一気に登って】

 当然ですが、身体は水平です。特戦群なら目隠しをしても出来る初歩の技術という設定です。


【人間の注意力が一番低下する時間帯】

 夜明け前ってところです。


【周辺に衝撃波が襲う】

 俗に言うショックウェ-ブです。

 音速は秒速340㍍くらいなので、マッハ8以上の速度です。

 本当はもっと酷い状態になる筈ですが、目をつぶって下さいませ(^^;)

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