第36話 7-1 「白馬の王子様」
20150218公開
登場人物紹介
守 春香 高校2年生 17歳 先祖返り 本編主人公
貴志 大学3回生 21歳 遺伝発現者 春香の兄
佐々 優梨子 高校3年生 18歳 遺伝発現者 春香の従姉
宮野 留美 高校2年生 17歳 春香の親友
吉井 真里菜 高校2年生 17歳 春香のクラスメート
橋本 翼 高校2年生 17歳 春香のクラスメート
高木 良雄 高校2年生 17歳 春香のクラスメート
河内 唯 高校2年生 17歳 春香のクラスメート
上代 賢太郎 高校2年生 17歳 春香のクラスメート
鈴木 美羽 幼稚園年長組 5歳 拉致事件の被害者
鈴木 珠子 主婦 26歳 美羽の母親
ラ・ス・グ・ジェ
槍科 27歳 槍士 グザリガ部族 第7332槍兵木隊隊長
ロキ・ソキ・ゴキ・ギュ
剣科 18歳 剣士 グザリガ部族 第733剣士鉄隊隊長
(第7331剣兵鉄隊隊長兼務)
リュ 槍士 第7333槍兵木隊隊長
ヂュ 槍士 第7334槍兵木隊隊長
グ 槍兵 第7332槍兵木隊で一番大柄
ミョ 槍兵 第7332槍兵木隊では古参
バ 槍兵 第7332槍兵木隊所属
ビョ 槍兵 第7332槍兵木隊所属 実質的な木隊の副隊長
あらすじ
巨人に蹂躙され、拉致される大阪狭山市の市民たち。
被害者たちの運命は?
7-1 『白馬の王子様』 西暦2005年10月27日(木) 午前3時12分
宮野留美は思わぬ時間に目が覚めてしまった。
原因は今見たばかりの夢のせいだった。
まさか自分が、覆面を被った誘拐犯にさらわれそうになった時に『白馬に乗った王子様』に助けられる、というような少女趣味にまみれた願望丸出しの夢を見るとは思わなかった。
しかも、その夢の中では一瞬で恋に落ちたのか、心臓が爆発しそうな程に高鳴っていた。
隣で寝ている鈴木美羽がもぞもぞとしたが、そのまま目覚めずに眠りの世界に戻って行った。
いきなり上半身を起こした留美に気付いたのか、高木良雄が小さな声で尋ねて来た。
「どうしたの、留美さん? 悪い夢でも見た?」
「ごめん・・・ うん、大丈夫・・・ 大丈夫だから・・・」
「ならいいけど」
「ごめんね・・・ 今日も頑張らないといけないからもうちょい寝よ・・・」
彼らはこの砦に連れて来られてからの3日間、男女の別なく働かされていた。
主な作業は砦の北東側に拡がる麦畑の収穫だった。
良雄によると、植えられている穀物は二条大麦の一種らしいとの事だった。
彼も詳しくは知らないと言っていたが、古代エジプトの時代にはパンの材料として活用されていた様だ。
作業自体は簡単な作業だったが、機械に頼った暮らしをして来た彼らにとっては過酷なものだった。
見事な程の夕日が訪れれば作業は終了するが、ひたすら腰を屈めた状態で打製石器を使って麦を刈って行くだけの作業は気力と体力を削って行った。
作業で酷使した腰を労わろうにも、寝床は地面だった。下に敷く布も、上に掛ける布も無く、着の身着のままで寝るしかなかった。
もっとも、良雄が遠回しに表現した意見では、これでも最悪の事態は避けられている様だった。
普通ならば、この状況下では女性はもっと酷い仕打ちを受けるのが歴史的には当然という事だった。
確かに、拉致された中に存在する女性たちはその様な事を強制されていない。
もっとも、それもいつまでもつかは不透明だった。
それに、もっと気掛かりな事も有った。
彼女たちがこの砦に連れられて来てから後に到着した巨人たちは全員が傷を負っていた。
巨人たちの空気がどんどんと荒んで行くのを見ている留美は、いつか感情が爆発し、その矛先が自分たちに向かう危険性に対する心配が人一倍強かった。
何故か留美たちに構って来る巨人(部下が20人近く居て、彼の上司らしき若者もそれなりに気を使っている態度からどうやら彼はそれなりの立場の“人間”の様だ)の空気も、ピリピリとしたものになりだしていた。
良雄に言った手前、もう一度寝ようと身体を横たえたが、直ぐには寝付けそうに無かった。
理由は、昨日の晩に守春香を見たからだ。
この地に連れて来られた日に感じた予感めいたものは有ったが、彼女を見た時はさすがに目を疑った。
彼女の事だから本当に助けに来てくれるのでは? と、無意識のうちに心の支えと化していた予感だったが、春香は留美の想像の上を行っていた。
『空を飛んで来る事無いじゃない・・・・・』
多分、春香に気付いたのは彼女だけだろう。
万が一、彼女が飛んでいる方向を見たとしても、いや、仮に星を遮る姿を視線に捉えたとしても無意識のうちにノイズとして処理するだろう。
たまたま、留美が人間の意識を視覚情報として捉える能力が有ったからこそ気付けたのだから。
クラスメートにだけは言ったが、さすがに彼らも直ぐには信じられない様だった。
『当然よね。私でさえ、最初は思わず幻覚を見るくらい疲れているのかと思ったくらいだったのだから』
だが、上空の春香は懐かしい意識パターンを発していた。
中学生の時に何度も目にした『黒ハル』パターンを・・・
しかも、完璧に怒っていた。
長い付き合いで初めて見るくらいに怒っていた。
宥めたくて無意識にとった行動は、笑顔を浮かべ、小さく手を振る事だった。
その瞬間の春香の意識パターンの変動は見物だった。
全く正反対の意識が目まぐるしく入れ替わり、結局は怒りのパターンのまま飛び去って行った。
昨日の朝の2度目の飛来も留美だけが気付けた。
かなり上空を飛んでいたので、作業をしている日本人も、その監視役の縄文人らしき者たちも気付いていなかった。
周囲に気付かれない様に痛む腰を伸ばす素振りを何度もしながら見たが、大きな旋回を続けていた。
『きっと、白馬に乗った王子様の夢を見たのはハルのせいね。うーん、再会したら恥ずかしい夢を見せた責任取って貰うんだから・・・』
心の中で責任転嫁を済ませた留美は、何となく目を開いた。
夜空に春香が居た。
これまでになく低空を飛んでいた。手を伸ばせば届く様な高度をゆっくりと旋回をしている様だった。
速度も遅い。
『何が起きたの? 墜落? アクシデントでも有ったの? でも、これは・・・ !!』
視線だけで追い掛けていたが、春香はそのまま壁の方に向かった。
「高木君、起きてる?」
「ん、起きてるよ」
「出来るだけ動かないで、みんなを起こさないといけないみたい」
そして、つい先ほど確信した事を告げた。
「白馬n・・・ ハルが助けに来たから」
宮野留美は心の底から断言した。
先ほど見た守春香は怒りの意識では無く、殺意の塊と化していた・・・・・・・
お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m