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第29話 6-9 「富澤一曹」

20150126公開

6-9.『富澤一曹』 西暦2005年10月25日(火) 午後2時59分


「えーと、どこの部隊ですか? 特殊部隊っぽいので、特戦群かな?」


 その場にふさわしく無い、涼やかと言ってもおかしく無い少女の声が聞こえた。


 富澤秋定一曹は、ほぼ反射的に視線と射線を揃えながら声がした方を向いた。


 そこに居たのは、自衛隊の迷彩服に似たデザインの黒い上下を着た背の低い少女だった。

 だが、そこに居る理由、容姿、態度、全てがどうでも良くなる程の特異なモノを纏っていた。

 小隊長の関根二尉と会話を交わす彼女から無理に視線を剥がして、周囲警戒に神経を切り替えるが、気が付けば意識が少女に引き寄せられていた。


 富澤一曹は実家がある大阪狭山市で一度だけ彼女を見た事が有る。

 3年前に実の母が亡くなって家族と共に帰省した時だった。

 久しぶりの故郷だったが、第一空挺団で二曹だった彼は日課としている早朝の走り込みをする為に家を出た。母を亡くして心にぽっかりと空いた穴を意識的に封印して黙々と走り、10分ほどで2850㍍の狭山池の周遊コースに辿り着いた。

 遊歩道を半ば過ぎた頃にその少女に気付いた。

 その時の彼女は白いブラウスと同じく白いスカートを身に纏って、水面を眺めていた。

 その足元には、老犬が草の匂いを嗅いでいた。

 字面だけを見れば、1枚の絵にしたい様な、のどかな光景としか思えないが、彼女の周囲に立ち込める様に“存在する空気”が全てを台無しにしていた。

 『まるでスターが纏う様な存在感、オーラと言っても良い、それを可視状態にすればあの様に見えるのだろう』と後で思ったのだが、その時は単純に不可思議な感覚に襲われたと感じただけだった。

 近付くにつれ、少女がこちらを見て、にっこりと笑った。思わず笑顔を返したが、多分引き攣った笑い顔にしかならなかっただろう。

 お互いの声が届く頃になると、どちらともなく挨拶を交わした。

 そして、すれ違う前後に感じた“空気”は何とも言えない感覚を彼に与えた。

 例えるならば、心に空いた穴をふさいでくれる様な温かい感覚だった。

 彼はそのまま振り返らずに黙々と遊歩道を走り、来た道を逆に辿る様にして実家に戻った。

 後日、彼はその時に体験した事を、少女の親友に話す機会が有った。

 彼女の答えは


『ああ、それ、中学時代の暴走し易かった頃ですね。ジョン、あ、犬の名前ですけど、あの子がまだ散歩に行けたのもその頃だし。話の内容からすると、多分、『白ハル』でしょう。だって、『黒ハル』の時に私たちみたいに『視える』人間が彼女を見たら、絶対に近付かないですから』


 というものであった。最後の『絶対に近付かないですから』と言った時には苦笑いを浮かべていた。


 そして、再び、3年分成長した少女が彼の前に現れた。

 後に知る事になる『黒ハル』状態で・・・・・・・


 その少女が“異常”という事は、少女を連れて本部に帰る時の周囲の様子から、部隊の全員が感じている様だった。

 いつもなら有り得ない程に、全員が注意力散漫だったからだ。

 小隊長の関根二尉でさえ例外では無かった。

 “実戦”で小隊長として急激に成長した結果、部下の信頼を勝ち得た彼であれば、絶対に叱責していた筈なのに、どこか自分の部下の様子を楽しんでいる節も有ったほどだ。



 20分掛けて戻った本部周辺は破壊された照明器具の片付けや、射殺された巨人をブルーシートにくるんだ上で一カ所に集約する作業が終わっていた。

 少し離れた場所には17個の寝袋が並べられていた。

 その全てには担架が敷かれていた。

 

 関根二尉が本部に報告に行く間に小休止の指示が出ていたので、自分達が使っているテントに向かう。

 ちらりと目をやると、巨大な剣を地面に刺した横で少女が少し年上の男性に頭を殴られていた。

 


 その後、何度も死地を一緒に潜り抜ける事になる少女と富澤一曹との再会はこうして終わった。

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m


捕捉

 本部周辺で破壊されていた照明装置ですが、具体的には工事現場で利用されている円盤状のモノです。

 普通科の夜間交戦能力が低い(隊員の一人一人に個人用暗視装置を配備出来ないくらい貧乏ですから、自衛隊は^^;)為に、急遽、購入して持って来ています。

 そのままでは、全周が明るくなってしまうので、外向きはそのままで、自分達の方の半周には目張りをしています。そうする事で、巨人たちの夜目が利くという有利を減らす効果を狙っていました。

 ま、当然ながら、最初に弓で潰されるのですが・・・・・


 巨人たちの遺体をブルーシートでくるんでいますが、2㍍を優に超える巨体を収める事の出来る寝袋を大量に用意出来ないからです。

 それに対して、自衛隊員の遺体はちゃんと寝袋を用意しています。更には、唯一の連絡路である“特異点”のスケジュールが空き次第、直ぐに地球に搬送出来るように準備もされている描写としての【その全てには担架が敷かれていた】です。

 遺体を寝袋でくるんでいるのは、本来使用すべきボディバッグが底を尽いてしまっているからです。

 富澤一曹も、もう見慣れてしまっているので、特に感慨を抱いていません。

 ついでにもう一つ。

 底を尽いた一番大きな理由に、大阪狭山市で殺害された市民と機動隊員に使用されたという事が上げられます。

 一日で4桁に達する犠牲者が出たのですから、自衛隊の備蓄が底を尽いてしまった・・・

 ちなみに、遺体は最寄りの体育館に収められて、家族が引き取るまで保管されました。

 最大出力の冷房が掛けられた体育館内の描写は原作には有ったのですが、本作では割愛しています。

 ちなみに、巨人の遺体をどうするのかに関しては、政府の明確な指示は有りません。

 下手をすると、かなりの人手を割いて穴を掘って、そこに埋葬する可能性も有ります。

 あ、そうそう、巨人は捕虜になる位なら自害するので、ほとんど捕虜は発生していません。

 地球上では自害する前に意識を失った為に捕虜となった巨人も結構な数が居ますが、こちらではほとんど発生していない様です。

 


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