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第24話 6-4 「騎兵隊」

20141225公開

 4.『騎兵隊』 西暦2005年10月25日(火) 午後1時25分


「兄はどこに居ますか?」


 異世界に在る「穴」の出口の縁で、外の様子を窺っている秋山二尉に尋ねた守春香の声は、戦場が近いというのにいつもと変わらなかった。

 手は防護服を脱ぐ為にせわしく動いていた。


「多分、あの辺りでしょう。すぐに確認させます」


 秋山がそう答えた後で部下を呼ぶ声を聞きながら、春香はその方向を視た。

 そこでは彼女の兄が、彼女が開発したばかりの剣技を使って巨人を食い止めていた。

 春香の思考が、勝手に無数の可能性を推測し、自動的に打ち消して行く。


「岸部さん、巨人の剣を」


 相変わらずこの場にふさわしくない、どこか楽しげな春香の声が機動隊の隊長に向けられた。

 思わず、春香の声に違和感を覚えた岸部が尋ねた。


「大丈夫なのか? 様子が変だが?」

「そうですか? 全然問題無いですよ?」


 彼女の肉眼は今の様な暗い環境下では虹彩も黒いせいで本来の性能を発揮出来なかった。

 だが、今の彼女は全く問題としていなかった。  

 自分の瞳に映る光景、その反射を分子レベルで拾い上げた上で脳内で情報を処理するという異常な方法で補正していたからだ。


「早くしないと、もっと押し込まれますよ」


 岸部警部補が部下からゴルフバッグを受け取り、抜き身の巨人の剣を取り出した。

 全長150㌢ほどの両刃の剣はずっしりとした重さを持っていた。4㎏は有るだろう。

 握りに粗末な革のベルトが巻かれているが、握り難い。男の自分でさえ、握り締められない太さなのだ。

 造りは全体的に雑な印象だった。多分、鋳造製の、大量に作られている様な剣なのだろう。

 見るだけで『はがねの冷たさと鋭さ、製造技術の凄さ』を感じた日本刀とは全く違う。

 微かに高音の音がどこかから聞え出した。


「ありがとうございます」


 防護服を脱ぎ終わった春香が両手で巨大な剣を受け取った。

 剣の剣身に左手を添わせるように動かした春香が後ろを振り返った。

 そこには、先ほど秋山が示した方向を食い入るようにして見詰めている守真理と佐々優梨子が居た。

 甲高い音がますます大きく聞えて来た。

 もちろん、自衛隊が発砲する銃声は今も断続的に聞こえる。

 岸部がチラッと見た先の暗い林のあちらこちらで発砲の際のマズルフラッシュが煌めいていた。


「真理ネェとユリネェ、先に潰しに行って来るから、私の代わりをよろしく」

「無理するな、と言いたいけど、この状況は想定以上にまずいわね。いいわ、春香の代わりは私たちがするわ。優梨子ちゃん、順番が狂うけど、先に上がって貰っていい?」

「うん。ありがとう、真理ネェ」

「はい、分かりました」


 ふと、会話する3人の女性を見た岸部は再び違和感を覚えた。3人の身長が同じになっていた。

 

「秋山隊長、岸部隊長、これから見る事はしばらくの間でいいですから、内緒にしておいて下さい」


 真理が二人に声を掛けた。


「それは、一体どういうい・・・・」


 秋山二尉の声は途中で途切れた。


「ええ、今見ている事を内緒にして欲しいのですが、如何ですか?」


 その場に居た全員がやっと気付いた。

 女子高校生が空中に浮かんでいるという異常な光景に。


「そんじゃあ、騎兵隊のラッパでも脳内で吹き散らしながら行きますか!」


 あくまでも軽いノリで、その女子高生は空中で方向転換した。

 穴の中に高周波音が満ちた。

 事態の推移に付いて行けない警護部隊をその場に置き去りにして、女子高生は空中に躍り出た・・ 正確には緩やかな降下角で空中を滑りながら、速度を上げてつつあった。

 彼女は50㍍ほどで十分な速度を得たのか、急速に方向を変えて、主戦場となっている広場の先に在る林に向かった。


「説明はしてくれるのですか?」


 意外な程冷静な声が聞こえた。

 秋山二尉だった。


「勿論です。でも、さほど驚かないのですね、二尉は」

「目の前で起こった現実を否定する程、ひねくれていません。それに・・・」


 彼は部下の方に顔を向けて命令を下した。


「我々は普通に降りるぞ! 妹さんだけじゃ無いのでしょう?」

「こう言ってはなんですが、凄いですね。ええ、本当に凄い」

「ま、嫌いじゃ無いですからね、超常現象は。・・・もっとも怪奇現象は駄目ですが・・・」


 真理の返事は大笑いだった。

 十秒間ほど笑った後で、彼女が笑顔で言った。


「本当に凄い! 私たちの護衛に貴方の様な自衛官が付くなんて、幸運ですわ」

「ええ、こちらも良いものを見させてもらいましたし、お互いに幸運と言う事で。・・・で、どうしますか、ここに居た方が安全ですが?」


 あえて、秋山は訊いていた。

 彼女たちはここで大人しくしているつもりは無い。それは先ほどの会話から明らかだった。


「支度を済ませたら、私たちも動きます」


 彼女たちの準備は、防護服を脱いだらすぐに終わった。

 春香のバッグに入っていた懐中電灯とトランシーバをそれぞれ手にして、優梨子がデジカメを持っただけだったからだ。


「優梨子ちゃん、無理はしないでいいからね」

「はい。真理さんも無理しないで下さいね」

「まあ、私は護衛の人が沢山居るから安全よ」

「行って来ます」


 優梨子も春香と同じ様に飛び立って行った。


「さあて、騎兵隊の登場と行きますか」


 上機嫌な様子で真理が呟いて、秋山の方を向いた。


「秋山二尉、本部まで連れて行って下さい。上空から撮影した周辺の写真を提供します」

「了解です」


 たった3人の女性の増援で戦況が動き始めた。

 



 

  

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

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