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第23話 6-3 「長い夜の始まり」

20141225公開

3.『長い夜の始まり』 西暦2005年10月25日(火) 午後1時05分



「現地では今の時間は夜です。現状はなんとか築いた橋頭堡と前線拠点の維持を優先しています」

「と言う事は、前進の許可が出ていないという理解で正しいのですね?」

「端折ればそうなりますね」

「なるほど・・・ 春香、質問は無い?」

「質問じゃないけど、予備のトランシーバーは有りますか?」

「何に使うのですか? 我々が付いていますから通信手段は問題ありませんよ」

「まあ、あちらに着いたら分かります。無ければ持って来た分を使います。それとデジカメの画像を直ぐに印刷出来る様に手配をお願いしても良いですか?」

「分かりました。最優先で手配します」


 陸上自衛隊第37普通科連隊第一中隊第一小銃小隊小隊長の秋山昭二二等陸尉は、目の前で折り畳み椅子に座っている3人の女性たちにブリーフィングをしている最中だった。

 現地の状況などを考えれば、この時点で彼女たちをあちらの世界に派遣する事は異常だった。

 有り得ないと言っても良い。

 何故ならば、いつ、撤退の命令が下ってもおかしく無いからだ。

 理由は大きく分けて2つ有った。

 一、政府が外交面で負けつつあったから

 一、確保した橋頭堡でさえ、脅かされつつあったから 

 とは言え、国民感情を考えれば、ここで“政治決断で”撤退の命令を出す事は“政治的に”自殺行為だった。

 むしろ、自衛隊が負けたから撤退を決めた、という落としどころを狙っていてもおかしく無いと秋山は分析していた。

 それを裏付ける様に、政府からの命令は中途半端なものが多くなっていた。

 もちろん、自衛隊には負ける積りは無い。

 それは、必死に各駐屯地や補給処からかき集めている弾薬を始めとする物資の量が表している。

 残念ながら、“転移ゲート”の大きさの関係と「治安出動」という名目の為に軽火器しか送れないが、今では、あちら側には本当の戦争を起こせるほどの物資が届けられていた。


『しかし、たかが大学生でその辺りを全て見通しているんだから、末恐ろしいと言うか・・・』


 古人類学者の大学教授が、自衛隊の派遣部隊本部に“ある提案”をして来たのは、橋頭堡まで侵入して来た巨人の小部隊を撃退した直後だった。実際に説明したのはゼミの学生だったが、苦笑いせざるを得ないほどに的確な分析だった。

 たった2分で現状分析をした後で、彼が提示した案は魅力的だった。

 彼は自衛隊の悩みを解消する方法として、3人の召喚を要求した。

 そうすれば、侵攻を押し返すどころか、一気に形勢を挽回出来るとまで言い切った。

 


「他には質問は有りませんか?」

「ええ、もう特に無いですね」


 秋山はチラッと腕時計を見て、3人の顔を見た後で告げた。


「それでは、移動を開始します」


 その言葉を受けて、無線機を背負っている小林明一士が支援拠点の本部に警護部隊の移動を報告する。


「こちらガードマン2、プリンセス1・2・3、特異点に向かう、送レ」


 狭山池の底に設置されていた渡り板は自衛隊の手で拡張されていた。

 その先に在る特異点の上だけでなく、周囲にも自衛隊の大型テントが設置されていた。

 その一つに向かいつつ、秋山は3人をそれとなく観察していた。

 不安を感じていない者1人、緊張している者1人、何も感情を漏らしていない者1人・・・・・

 特に最後の人物はキョロキョロと辺りを見ながらも、その動作からは何を考えているのかが伺えなかった。

 岸部警部補によると、2日前の夜に巨人を斬り殺した張本人という事だが、身長が低い事も有って未だに信じられない気持ちだった。

 更に言えば、この少女はきっと初めての実戦をあの時に経験した筈だった。

 理由は簡単だ。

 彼は彼女の剣劇を初めから見ていたからだ。

 最初の一太刀は、迷いなく振り切られたが、コントロールに失敗していたと考えられる。でなければ、あそこまでバランスを崩した理由が無い。その後の太刀筋は振るうごとに洗練されていった。


『少なくとも付け焼刃では無い実力を土台にしている事は確かだな。どうやってあの巨大な剣を振り回せたのかは分からんが・・・・・ それに・・・』


 後で気付いたが、あの時間、秋山たちの救出部隊には上空からのカバーが外れていた。

 それまでは、上空にはいつも支援のヘリコプターが存在するのが前提だったが、あの時間は一斉に攻勢に出た巨人の動きの全容を把握する為にポジションがずれていた。

 それさえも見越していたとすれば、只の女子高生とは思えないほどの冷静さだった。 


 3人の雰囲気が急変したのは、特異点の上に設置されたテントに入った直後だった。

 

 圧迫感・・・・・


 その圧迫感に思わず反応したのか、数人の部下が小銃の安全装置を外す音がテント内に響いた。

 直後に女性の涼やかな声が上がった。


「あ、ごめんなさい。わたし達も臨戦態勢に入る事を言いそびれました」

「安全装置、戻せ」


 秋山の命令を聞いて、もう一度金属音が響いた。


「そうだよ、真理ネェ。ちゃんと言って上げないと、撃たれちゃうよ?」

「どの口が言うかな? もう暴走手前までギアを入れているのはどの子かな?」

「ハルちゃん、無駄に力、入り過ぎだよ?」

「えー、最初に飛ぶのは絶対に私だよ? ウォーミングアップだよ」

「まあ、いいけどね。隊長さん、進みましょうか?」

「了解しました。川口一曹、進んでくれ」

「はい」


 この3人は何か変だったが、転移ゲートを潜る前の会話もおかしかった。


「凄いねぇ、周り中、UKの反応だらけだよ」

「これだけ在ったら、とんでもない事が出来そうだわ。まあ、異星にワープするのもとんでもない事か?」

「ご先祖さんもここを通ったと思うと、なんだか感慨深いものが有るね、ハルちゃん」

「そう言えばそうだね。着いたら、『我々は還って来たぞ!』とでも叫ぶ?」

「えー、それはちょっと恥ずかしい」


 転移ゲートを抜けると、いきなり多数の銃声が聞こえて来た。



 長い夜の始まりだった・・・・・・・・・・

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

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