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第22話 6-2 「試作品」

20141224公開

2.『試作品』 西暦2005年10月25日(火) 午後12時15分



「遅くなってごめんなさい、真理ねえさん、ハルちゃん」


 そう言って、バスの乗降ステップに姿を現したのは、守真理と春香のいとこの佐々優梨子だった。

 防護服を着ているのでスタイルは分からないが、身長は女子高生としては高い方だった。

 整っている顔の印象は、どちらかと言えば「可愛い系」だろう。

 だが、彼女の印象を一番表すものとしては、柔らかい身のこなしだった。

 今も乗降ステップから通路を通って真理たちの横の席に着くまで、彼女の動きはいかにも女性らしい柔らくて上品な所作を示していた。


「久し振りね、ユリちゃん。遅れた事は別に構わないわよ。それよりも瑠衣おばさんは大丈夫?」

「ちょっと泣かれちゃいました。雅司が宥めてくれたから何とかなったけど・・・」

「へー、意外と使える子だったんだ」

「いや、真理ネェ、雅司はそれなりに使える子だよ?」

「だから、なんで疑問形な訳?」

「なんとなくかばわないといけない雰囲気だったから?」

「もう、いい。そうそう、ユリちゃん、機動隊に持って行ってもらった服のサイズはどう?」


 守姉妹のコントを苦笑いを浮かべながら聞いていた優梨子は、自分に向けられた質問に少しだけ首を傾げながら答えた。


「はい、ピッタリでした。もしかして事前に用意していたんですか?」

「いいえ、違うわ。元々は私用に何着か作っていた試作品を手直ししただけよ」

「そうなんですね。でもこれって、もしかして貴重な服だったりしませんか?」

「どうしてそう思うの?」

「だって、どう考えても貴志さんが言っていた最新の繊維を使った『最先端の軍事レベルの服』っぽいですから」

「あら、貴志ってば、社の最重要機密をばらしてる・・・」

「あ・・・」

「嘘、嘘。貴女にだったら、構わないわよ」


 3人の会話に乗降ステップ辺りから参加する声が聞こえた。

 と言うよりも、自分達の存在をアピールしないといけない会話になったので、仕方なしに声を掛けたというのが正解だったが。


「あー、もしかして、自分達がここに居たら拙い会話の様な気がするのですが?」


 岸部警部補の質問に答えたのは真理だった。


「いえ、別に構いませんよ。ゆくゆくは機動隊にも採用を持ち掛ける予定ですし」

「機動隊に?」

「ええ。それと防衛庁にもアプローチする予定です。なんせ、現行の防弾チョッキの半分以下の薄さと重さで、それ以上の性能を発揮する素材ですから。しかも着心地は通常のデニム生地並みで取り扱いも簡単ですし」

「それが本当ならば、夢の素材ですね。 よし、出してくれ!」


 後半の言葉は運転席に座る部下に掛けたものだった。


「ええ、まさに夢の素材ですよ。防刃性能も持たせてありますし。更には耐水性も有るので、雨の日の管理も不要になります。これを応用したチョッキを使えば、お巡りさんの負担も減るでしょうね」

「防刃性に耐水性も? そりゃ凄い」

「まあ、コストの問題で、もう少し先に発売予定ですが」

「話しのついでに訊いてもよろしいですか?」

「はい、構いませんよ?」

「3人が着ている服は試作品らしいですけど、1着は幾らくらいになるのでしょう?」

「・・・100万円・・・・」

「へー、安くなったんだ」


 明らかに他人と違う感想を漏らしたのは春香だった。

 彼女は真理の説明の間、ずっとドヤ顔だった・・・


「ハルちゃん、高いって」

「いやいや、最初は1センチ四方の繊維を作るだけでそれ位したよ。それから考えれば、1着100万円は安いって」

「まあ、確かに最初から開発に携わっていた春香なら、そう言うわよね」


 守家の傘下企業が、と言うよりも守貴志と春香の2人が産み出した繊維は、他の企業では考えられない方法で開発された。

 彼らは、いや貴志は春香の思考回路を一種のスパコン代わりに使ったのだ。

 貴志自体の遺伝発現度合いは3人の女性たちに比べると弱かったが、3人に対する親和性の高さから、彼を媒体にした“春香の技術の伝達”が可能だった。

 その事を繰り返して試している内に、彼が気付いた事が有った。

 春香の記憶力、思考速度、思考方法が異常な事に・・・

 試しに難解な数学の手引書を彼女に読ませて、その後で彼女の脳波を伝って(・・・・・)幾つかの実験をした。

 結果は、新たに幾つかの簡単な方程式を作り上げる成果をもたらした。 

 それならばと、今度は自分が専攻しようとしていた繊維分野の論文を片っ端から読破させて、実験を繰り返した。慣れて来るにつれて、半ばシミュレーション装置と化した春香の脳が幾つかの分子モデルを作り上げた。

 その一つが、貴志が特許を取得した高機能繊維の原型だった。


 輸送車が速度を落とし始めた。


「さて、到着した様です。忘れ物に気を付けて下さい」 

 

 さやか公園に設けられた自衛隊の臨時後方支援拠点は自衛官の出入りが激しかった。

 物資も頻繁に届き、更には狭山池の“転移ゲート”(自衛隊での正式名称は「狭山池特異点」と呼称されていた)に向かう部隊が最後の装備点検を行う為の拠点となっていた。

 今も、ドラム缶の中に向けて、各自が装備している89式小銃の試射をする小銃小隊が緊張した表情で列を成していた。

 それらの部隊と違い、整列待機している部隊から2人の自衛官が小走りでやって来た。

 2人は真理たちの前で止まると、敬礼をした後で声を掛けた。

 

「お疲れ様、岸部警部補」

「お待たせしました、秋山二尉。こちらが今回の護衛対象の3名です」

「皆さんの護衛任務を受けた陸上自衛隊第37普通科連隊の小隊長、秋山です。“あちら”に行くのは、もう少し後になりそうですので、その間に状況の説明を行います」


 3人を代表して真理が答えた。


「了解しました」

「それと、春香さん、2度も我々を助けて頂き、有り難う御座います」

「どういたしまして・・・ あ、そうだ、こっちの美人さんを紹介しますね。私のいとこの佐々優梨子さんです!」

「初めまして。全力でお守りしますが、多少の不自由はご容赦下さい」

「宜しくお願い致します」


 

 こうして、ただ1人を除いて、2度と日本に還れない運命を背負わされた人々の挨拶が終わった・・・・・・

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

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