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第18話 5-2 「殺戮の野」

20141125公開


2.『殺戮の野』 西暦2005年10月23日(日) 午後4時25分


 行進はいきなり止まった。


「もしかして食事でも出るのかな?」


 橋本翼が、ほんの少しだけ期待を込めて囁いた。


「出ないだろうね。 むしろ、いやな予感しかしないんだけど?」


 そう答えた高木良雄の息は少し上がっていた。

 彼はチラッと前方を見てから、右側に視線を移した。

 

 “この土地”に着いた時はまだ夜だったが、今は右手側の地平線の上が明るくなり始めていた。

 

「地球と同じ自転方向なら、右側が東なんだろうけど、どうなんだろう? この“星”に来てから3時間くらい経ったけど、みんな違和感を感じないかな?」

「違和感って?」


 吉井真里菜が、面倒を受け持っている鈴木珠子の様子を確認しながら尋ねた。


「例えば、身体を重く感じたり、軽く感じたり・・・ もしくは、頭がふらついたり・・・ 息苦しかったり・・・ だって、地球と全く同じ重力や自転周期や空気組成って有り得ない筈なんだ」

「うーん、分からないなぁ。 ただ、お腹が空いた事は確かだ」

「うん、さすが翼だ。 この状況で通常運転出来るのは凄いよ」


 宮野留美は、目に入る巨人たちの空気を“視て”いた。

 特に変化を感じないので、良雄が言う『いやな予感』について考えてみた。

 元々、自分たちがどうして拉致されたのか? が分からないと、現在の状況を理解する事は不可能だろう。

 それに関しては、あの“壁”の前の広場で縄を括られるのを待っている時に話し合っていた。

 良雄の意見は『単純労働力の確保』というものだった。

 その他、『身代金目的』や『遺伝子の採取と活用』、『食糧として』などが出たが、最終的には不明のままだった。


「ねえ、高木君、いやな予感って、どういう意味?」


 不安に駆られたのか、河内唯が良雄に訊いてしまった。


「あ、ごめん、不安になった? うーん、余り不安にするのもどうかと思って、話題を変えたんだけど、ダメだったか・・・ うん、しょうがないから言っちゃうね。 『奴隷にするには根こそぎ拉致し過ぎ』って事なんだ」

「えーと、どういうこと?」

「新しく奴隷にする場合、どんな基準で選ぶと思う?」

「役に立つかどうか? かな」

「うん、それも重要だけど、見ただけで分かる基準という点から言うと、それでは不十分なんだ。 答えは簡単だよ。『力仕事が出来るくらい成長していて、繁殖も可能な年齢』という基準が分かり易いと思う。 そう言う意味では、歳を取り過ぎている人の比率が高いと思うんだ」

「でも、みんな元気だよ?」

「うーん、元気という事とさっきの条件は関係無いんだ。 10年先の事を考えたら、若い方が絶対に有利なんだ」

「しッ! 巨人が来るよ」


 真里菜がみんなに注意した。その言葉通りに一人の巨人が歩いて来た。

 狭山池でこちらを見ていたあの巨人だった。留美は屈服していないことを伝える為に、わざと目を合わせた。

 反応は意外なモノだった・・・

 その巨人は留美を見た瞬間に嬉しそうな“空気”を纏ったのだ。

 しかも、驚いた事に何かしらの言葉を掛けて来た。

 もちろん、言葉の意味は分からなかったが、明らかに励ましの言葉だった。


「えーと、宮野さん、なんて言われたの?」

「いや、言葉なんか分からないから、吉井さん・・・ でも、激励の言葉だったと思う」

「それも宮野さんが持っているという“力”で分かったの?」

「留美でいいよ、高木君。みんなも留美って呼んで。 普通に“空気を読んだ”だけで分かったよ。 まあ、こっちを見付けた時の空気を“視た”から、合っている可能性はかなり高いと思うけど」

「なるほど・・・ もし、巨人たちと交渉する様な事が有れば、みや・・留美ちゃんにお願いしようかな」

「うん、任されちゃおうかな・・・ って、言葉が全然分からないから無理だけど。 まあ、ハルなら何とかしちゃいそうだけどね」

「え、守さんのこと?」


 いきなり飛び出した名前に、真里菜が怪訝そうな顔をした。


「そう、守春香だよ。 あの子、とんでもなく頭が良いから、あっという間に言葉を覚えちゃんじゃないかな?」

「そうは見えないけど? それに成績もそんなに良くなかった気がするけど?」

「いやいや、びっくりするよ、本当のハルを知ったら。 まあ、勉強向きの頭の良さじゃないんだけどね。 あ・・・」


 留美は何かを思い出したか、もしくは思い付いた様な声を上げた。

 そして、小さな声で呟いた。


「ハルとまた会える気がして来た。 いや、助けられるというのが正しいのかな? まさかねえ・・・」


 だが、彼女の呟きはそれ以上続く事は無かった。

 何かに気付いた様に振り向いたのだ。それは先ほどとは違う雰囲気だった。


「なに、それ・・・ そんな・・・」


 彼女の表情には恐怖が張り付いていた。

 そんな留美の表情に気付いたクラスメートたちは、彼女の視線の先を追った。

 そこには、先ほど留美に声を掛けた巨人と、初めて見る衣装を着た巨人が一緒に歩いている姿が在った。その後ろに留美と身長がさほど変わらない数人の男達が続いている。


「どうしたの、留美さん?」


 宮野留美の答えは非情な情報だった。


「高木君の考えが正しかった様だわ。 あの巨人、雑草を刈る感覚で人を殺せるタイプだ・・・」


 それからの数時間は地獄だった。

 多分、しばらくは叫び声や悲鳴、呟き、消えゆく息苦しそうな呼吸音が耳から離れないであろう。

 抵抗する気力も無くした生き残りの市民たちが辿り着いた先は、川を渡った先に在る石垣の上に築かれた砦だった。

 

「どうやら、あそこが終着点みたいだな」


 あの地獄の様な状況を経験しながらも、辛うじて冷静さを保っている上代賢太郎がみんなに告げた。


「大体400㍍四方の砦みたいだから、前線基地みたいな感じだな。随分古い石垣の様だが、防壁が新しい。古跡の上に新しく砦を建てたんだな。石垣が5㍍で防壁が4㍍ってところか・・・ 防壁の屋上部分はキャットウォークになっているのか。 ということは、それなりに守りは堅そうだな。 1000か2000の兵隊くらいは余裕で居そうだな」


 賢太郎の後ろには一人分の空間が開いていた。彼の後ろに居た中年を過ぎていたであろう男性は“処分”されていた。両手を縛りつけていた縄が切られてプラプラと揺れている。その縄は返り血でどす黒く変色していた。

 その砦の横を通って、石垣の角を左に曲がると、前方には門が有るのか、石段が地面まで伸びていた。

 市民の先頭がその石段を登り始めたところだった。 

 

「上代君の言う通り、ここが目的地で正解みたいだね」


 良雄が後ろを振り返りながら話し掛けた。


「もう、休めるんなら、どこだっていいわ」


 精神的にも、体力的にもさすがに限界が来ていたのであろう。

 気丈な真里菜がやや投げやりに言った。   

 幅5㍍、高さ3㍍の観音開きの門は簡単な造りだったが、櫓門になっていた。

 その櫓門を潜ると、10㍍先の正面に高さ7㍍ほどの壁が在った。左右の広がりは30㍍ほどで、同じ高さの壁に囲まれている。その壁の上部全てに矢倉が在った。

 左右の壁には、それぞれに先ほどと同じくらいの門が組み込まれていた。


「結構、本格的な防御力を持っているね」

「ああ」


 賢太郎は、その壁の上に建てられた矢倉を見上げながら良雄の感想に答えた。

 外の門を突破しても、この空間で四方八方から矢を浴びせられてしまう。

 かなり実戦慣れした造りと思わざるを得なかった。

 市民の列は左側に在る門に伸びていた。

 その門を潜って目に入って来た光景は、呆けたように座り込んでいる、先頭の方を歩いていた市民の姿だった。

 次に気付いたのは、座り込んだ市民に袋に入れた水を飲ませている数十人の背の低い人間たちの姿だった。


「高木君、気付いてる?」


 賢太郎の前を歩いている留美が声を上げた。


「多分」


 良雄の答えは短かった。

 そして質問を返した。


「もしかしたら現代に生き残っている縄文人かも知れないって言うんだろ?」

「さすがに無理が有るわよね」

「それを言うなら、身長が全員2㍍を軽く超える人種が居る方が無理が有るって。ましてや転送ゲートなんて代物が在ったんだ。なんでもアリと思っといた方が良さそうだね」

 

 良雄の“空気”が力を回復しだした。

 そして、彼は色々な意味を含めて、声に力を込めて言った。


「だから、君が言った事が本当になってもおかしく無い」

「え? 何か言った?」


 良雄は一拍分の間を開けて言った。


「守春香が、君を、助けに、やって来るって言った事だよ」

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

 

 うーん、もっとサクサクと話を進めたいのですが、mrtkには無理ッス(><;)

 あ、それと、『予感』に関して、皆さまは不思議な経験をした事が無いですか?

 mrtkは有ります。

 まだ小学生だった当時、何故か急に『落ちているお金を拾いに行こう(^^)』と思ってしまったmrtkは、近くのショッピングセンターに出掛けました。

 そして、そこで落ちていた1万円札(聖徳太子の時代)を本当に拾ってしまいました。mrtkの半世紀に及ぶ人生で最高額の拾いモンでした。

 で、拾った事に何の感慨も抱かずにショッピングセンターの事務所に届けて、家に帰っちゃいました(^^;)

 後日、落とし主さんが苺のショートケーキをくれましたが、全く違和感を覚えなかったmrtk少年でしたとさ・・・・・

 今思い出せば、何故、その時にそう思ったのか? 何故、不思議に思わなかったのか? と思いますが、その時は全て当然の出来事という感覚だった記憶が残っています。

 まあ、単に“電波クン”だっただけかもしれませんが(^^;)



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