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第0話 & 第1話 1-1 「槍士」

旧エピソードの第0話と第1話を公開します。



20140926公開


   挿絵(By みてみん)



 地中に埋没していた『装置』は久し振りに大容量物資の『転送』手順を開始した。


 転送元は前回同様、本来なら転送先のはずの惑星からだ。転送元の『装置』からの様々な測定結果によると、これまでに受け入れた事の無い物資を含んでいる。この惑星に降着した他の仲間の仕事に間違い無かった。


 一瞬後、『装置』は転送を完了した。同時に物資の詳細な情報を自身の記録域に保存した。

 転送された物資は転送部から外部への出口まで到達すると、そこで立ち往生していた。出口に巨大な岩が押し付けられているからだ。2117公転期前に転送されてきた117個の物資の仕業だった。

 物資は外に出る事を諦めたのか、転送部に戻って来た。転送先の『装置』に情報を送り、転送手順を実行する。

 だが、直ぐに再度転送されてきた。しかも続けさまに7個だった。

 それらは、金属製の道具で外の岩を破壊しようとしている様だった。


 その様子を記録しながら、『装置』は自分の機能チェックを行う事にした。次元潮汐発力装置が消費した今回の転送所要力場単位と前回の転送で使われた力場単位を基に、自身の機能効率を計算する。

 結果は機器の劣化による機能低下と予想される機能停止時期を示していた。同じく次元潮汐発力装置の作動残余予測期間もチェックする。機器の劣化よりは良い結果だったが、それでも残余期間は本来の作動仕様期間の27分の1を切っていた。早い時期に堆積物に覆われた為に転送した容量が少なく、想定を遥かに超える期間を動作していたが、そろそろ機能不全に陥りそうだった。


 『装置』が記録している情報によると、母船に搭載された仲間は50000機だったが、星系間航宙途上で母船が受けた損傷が遠因で12578機が降下中もしくは降下直後に動作不能に陥っていた。更に、13125機が本来の目的地から外れて、この惑星の特徴の一つである広大な水中に降下していた。水中でも『装置』は作動可能だが、規定転送容量を極短期間で超えてしまった。


 彼は、この惑星の38121公転期前に異星で製造されていた。3次に亘る異星系生命体採集計画用端末最後の生き残りの可能性が高かった。一緒に送り出された仲間は1機を除き、全て機能停止を迎えた様だった。唯一作動している事が確認出来ていた27845号機も678自転期前に短時間だけ作動して、今では反応が無い。休眠状態に戻ったのか、寿命が尽きたのかは判明しない。


 実際のところ、創造主を始めとして彼を生み出した文明は滅んでいた。

 その文明が作り出して、現在も作動している極少数の中の一つである『装置』は、その事実を知らずに自分に与えられた任務を継続していた。


 結局、『装置』は自身の人工頭脳では計算できない短期間で機能を停止した。

 『装置』の機能停止は3自転期後だった。







 第一章 



1.『槍士』


 第7332槍兵木隊隊長のラ・ス・グ・ジェ槍士は部下達の様子を確認する為に振り向いた。

 彼が居る場所は前線を維持する3つの砦で一番大きく、もっとも南側に位置するタギラ砦の中庭だった。

 今は後穫期12日の10大時刻を1中時長ほど回ったところ(夜9時くらい)だ。

 部下の19人の槍兵は各自、木鎧を締め直している。緊張感は持っているが、特に問題になりそうな兵は一人もいない。入隊して1年以内の兵だけしか居ない割には全員が落ち着いている。初めて経験する夜の出撃についても、それほど気にしていない様子だ。


『よし、行けそうだ。行軍の間に脱落者をいかにして出さないかに集中できそうだ』


 彼は空を見上げた。いい天気だった。雲はほとんど無い。『弱人』どもが信仰している月がいつもの様に薄い赤色に輝いている。この明るさなら足元も十分に見えるから、夜間行軍とは言え、きっと脱落者を出さずに済みそうだ。

 本当の問題は自分達が何の為に、どこに向かうか、を未だに教えてもらっていない事だった。剣士鉄隊隊長のギュ剣士からは、出発時間と装備に関する命令しか下されていない。弱人どもの迎撃にしては余裕があり過ぎるし、夜襲にしては着替えや2日分の戦闘食を背負っていく事はおかしい。

 彼が所属している第73合佐鋼隊は剣兵100人、槍兵220人、弓兵180人の総数500人の兵員を満たしている数少ない部隊だった。支援木隊2個も定員を満たしている。

 だが、定員は満たしているが、最後の仕上げをせずに訓練を打ち切って、移動命令が出ていた。消耗している前線の増強の為だろうと噂されていた。鋼隊は強行軍を重ねて、昨日の昼過ぎにタギラ砦に到着した。そのまま配置に就かされると思っていたら、割り当てられた営舎での待機命令が出た。その待機中にも同じ集将玉隊に属する合佐鋼隊が2個到着していた。一度に3個もの合佐鋼隊が増援されたのに、大規模な攻勢が予定されているという噂は流れていない。

 しかもおかしな事に、第7集将玉隊を率いる第71合佐玉隊及び、一緒に行動している筈の第72合佐鋼隊の姿が見えない。第73合佐鋼隊と同じ時期に再編に入った事は知っていた。二つの部隊は優先的に兵の補充を受けた為に、前穫期には前線に戻っていた。いや、戻っている筈だった。


 そして、夕食の後にやっと下された命令が夜10大時刻に夜間行軍を実施するというものだった。


 砦の門の辺りで動きが有った。第73合佐鋼隊隊長が直接率いる第731剣士鋼隊が沈黙の中で出発を始めた様だ。ジェ槍士はその様子を見ながら、自身が所属する第733剣士鉄隊が出発する時間を推測した。3中時長(約30分弱)ほど掛かりそうだ。


「ジェ槍士、準備はいいか?」 


 先鋒を見ていたジェ槍士に声を掛けてきたのは、ギュ剣士だった。

 ジェ槍士たち木隊の兵と違って、鉄製の鎧を着用している。彼の名前、ロキ・ソキ・ゴキ・ギュという名前が示す通りに、生まれた時から上級士官になる事を約束された若者だった。

 ジェ槍士が槍兵としての初陣から11年掛けて、やっと槍士になったのに対して、彼は今回の初陣で、いきなり100人の兵を率いる剣士鉄隊の剣士様だ。本人がその事をどう思っているかは分からないが、ジェ槍士の様な下層階級出身者から見れば羨ましいと思う。そんな心の中を見せずにジェ槍士は槍を垂直に掲げながら返答した。


「は、準備は万全であります」


 ギュ剣士は一瞬、複雑な顔を浮かべた後で大きく頷いた。

 そして先鋒の方をちらっと見た後、ジェ槍士に付いて来るように仕種で示しながら、離れた場所に歩いて行った。ジェ槍士は『何か秘密の命令でもあるのか?』と考えながら後を追った。


「どう思う、今回の任務は?」

「は、私には分かりかねます。ただ、命令を遂行するだけであります」


 ギュ剣士は小さく『そりゃ、その通りだ』と呟きながら、ジェ槍士の目を真っ直ぐ見ながら、もう一度質問した。


「それでは、質問を変えよう。槍士仲間の情報網はなんと言っている? こういった時は、そっちの方が正確な事が分かるからな」


 ジェ槍士は驚きを隠しながら、無難に答えることにした。よく知らない上級者に知っている事を全てさらけ出して、情報源に迷惑を掛ける事は絶対にしてはいけない。下級兵士の常識だ。


「あまり正確な事は分かりません。ただ、行き先が分からないという事は、これまでの経験では有りませんでした」

「なるほど。分かった。話は変るが、部下を動揺させない事を心掛けてくれ。今から行く所はどうやら対応が難しい所の様だ。私も詳しくは知らんがな」

「は、了解致しました」

「では、部下の所に戻ってよし」


 ジェ槍士は掲槍礼後、自分の隊に戻りながら今の会話を振り返っていた。これまでに得ていた情報にほんの少し肉が付いた感じがしたが、肝心な事は分からずじまいだ。

 それよりも、ギュ剣士が何故わざわざ自分に声を掛けたかの理由の方が重要だった。若いとはいえ、部下の扱いが上手そうという感触があった。理由は簡単だ。


『俺に声を掛ければ、他の隊にも情報が回ると確信していたな』


 第733剣士鉄隊は、敵の目を避ける為とはいえ、松明も点けずに暗闇の中、草原を南に向けて走破した。

 そして、『境の森』の中をひたすら踏破した後に待っていたのはとんでもない崖登りだった。

 ただ、何度も行軍した部隊があった様で、登攀道が整備されていた事は幸いだった。その事も謎の一つだ。わざわざ道を作る理由が分からない。

 崖を登り切った先はまた森だった。やっと森を抜けると、大きな平原が広がっていた。行軍中、左手には麦の群生が視界一面に生えていた。

 半日ほどして着いた場所は大きな池(ジェ槍士はこれほどの大規模な池を初めて見た。対岸が見えないほどだった)のほとりに築造されたばかりの砦だった。こんな場所に砦を新たに作る理由が分からないし、集将玉隊も収容出来るほどの規模も謎だった。

 しかも、組み上げた大規模な石段の上に砦は造られていた。


 到着した時刻が夕方だったせいで正確には数えられなかったが、農作業から戻ってくる『矮人』が100人ほど居た。やはり、行軍中に見掛けた麦の群生は畑だったのだ。

 しかし、100人もの貴重な奴隷を使っているとは、かなり重要な土地という事の裏返しだった。

 砦に到着して最初に気付いたのは、負傷兵の多さだった。と言っても戦闘で負傷した訳でも無さそうだった。負傷兵のほとんどが骨折をしていた。知った顔が居なかったので確認は出来なかったが、ちらりと見えた胸兵札から、行方不明の部隊かもしれなかった。

 

 砦の営舎で一泊したおかげで全員の疲労は少しだけ取れたが、起床と出発はまたしても急だった。上層部もよほど慌てていたのか、行軍準備が出来た鉄隊から出発を指示して来た。おかげで第733剣士鉄隊が行軍の先頭を務める事になった。これほどの混乱を起こすことになるのが分かっていながら、上層部が焦る理由も慌てて行軍する理由も分からなかった。

 南西に1バキ(約20km)ほど行軍した時だった。それまで黙々と行軍していた部隊に動揺が走った。

 『果ての壁』が見えたのだ。

 ジェ槍士も初めて見る『果ての壁』に不安を感じた。存在しているという話くらいは、ジェ槍士はもちろん、誰でも知っている。悪い事をしたら、そこに捨てられると聞かされない子供は居ないからだ。

 だが、実際に目にした者はどれ程居るだろう? だんだんと近付いて来る(本当は自分から近付いているのだが)『果ての壁』は石でも金属でもない、何かのっぺりとした物で出来ているようだった。高さは2グマ(約100m)を少し超えている。それが左右に延々と広がっている。『果ての壁』という言葉がぴったりと来る光景だった。

 『果ての壁』の1グマ(約50m)手前で整列させられたが、そこで武装した上で「別命あるまで待機」命令が出た。待機場所は、元は森の様だった。切り株があちらこちらに残っている。足元は泥でぬかるんでいて、ところどころに見た事も無い魚が死んでいた。いやな臭いもする。

 だが、本当に興味が湧く対象は、壁に開いている二つの穴だった。片一方の穴の下の壁に泥がへばりついていた。今もその穴からは泥混じりの水が流れ出ている。人一人しか通れそうにない穴に梯子が掛けられていた。

 全員の目が釘付けだった。

 本当に謎だらけの遠征だった。

 日光にじりじりと焼かれた1大時長弱(1時間半位)後に、ジェ槍士を含む木隊隊長達は、ギュ剣士の下に集まる様に命令された。集まった槍兵木隊隊長3人と弓兵木隊隊長1人の計4人の部下を地面に座らせて、ギュ剣士は説明を始めた。


「現在、わがグザリガが陥っている手詰まり状態を打開する為に弱人どもに気付かれないように、この土地を領土とした。2年前の事だ。それ以降、開墾を進めてきて、今年からはかなりの収穫が期待できるようになった」


 今までこの土地が手付かずになっていた理由は、『境の森』とあの崖が原因だという事は、実際に踏破した人間なら納得できる。ジェ槍士達が詳しくは知らなかった位だから、よほど秘密を守る厳重な措置が取られてきたはずだ。


「しかも、弱人どもは気付いていないようだが、奴らの防衛線の裏側に抜ける事が可能な道を発見した。この高地は我らにとって、重要な土地だと言う事が分かってもらえたと思う。その重要性故に、第7集将玉隊の派遣が決定された」


 ジェ槍士は他の3人の木隊隊長と顔を見合わせた。全員の顔に笑みが浮かんでいた。久々に聞く朗報だった。

 グザリガと呼ばれる『強人』種の部族は東西からの圧迫に悩まされ続けてきた。西からは同じ強人種ながら、何度も争ってきたダグリガという部族に。東からは弱人種ながら、豊富な鉄資源を活用した軍装で、彼らと一進一退の戦いを今も繰り広げているラミスという部族に。


「それだけではない。この高地は、もしかすれば『消えた弱人部族の天地』の跡地の可能性が高い。その証拠に、大規模な開墾の跡や、砦の跡が残っていた。我々が泊まった砦は奴らが造った古い都市跡の土台の上に建てたものだ」


 話がおかしな方向に進んでいる気がした。

 確かに、これほど恵まれた土地を『消えた弱人部族』が見逃すはずは無かっただろう。だが、それだけでやつらに結び付ける事は乱暴では無いか?


「上層部がそう判断した最後の理由は目の前に在る。あの穴だ。2日前に土木奴隷が穴の奥にあった岩を割ったところ、大量の水が噴き出した。おかげで警備していた第71合佐玉隊は巻き添えで、隊の三分の一が戦闘不能に陥った。砦に居た負傷兵がそうだ。死者もかなりの数に上ったので、急遽我々が送り込まれた訳だ」


 やはりあの砦に居たのは、行方が分からなくなっていた合佐玉隊だ。ジェ槍士も何人か顔見知りが居たので気にはなっていたが、こんな所に居たとは思いもしなかった。

 ギュ剣士は部下の顔を見渡した。全員が話に付いて来ている事を確認してから、話を続けた。


「大量の水と一緒に、おかしな物が多数流れてきた。それらを分析した結果、鉄製の道具や透明石で作られた容器を確認した。残念ながら、我々には無い技術で作られていたそうだ」


 ギュ剣士は再度、一拍を置いた。


「わが隊は、これから穴の向こう側を偵察する。もし可能ならば何人かを捕らえて連れてくる事も命令を受けている。何か質問はあるか?」


 嫌な予感を覚えたジェ槍士は率直にギュ剣士に質問した。今回の遠征で多少は気心が知れたので、これ位なら怒らないと分かっているから出来る芸当だった。他の剣士ならば、また冷や飯を食らわされる可能性があった。


「兵が待ち構えていた場合、どうすれば良いのでしょうか?」

「その時は我々の血で、敵の戦力を探るだけだ。命令ではそうなっている」


 そう答えたギュ剣士の顔は納得をしていないが、覚悟を決めている、と語っていた。


「分かりました。全力を尽くします」


 4人を代表して、ジェ槍士が答えた時だった。穴を警戒していた部下が大声で叫んだ。


「隊長! 誰かが出てきます!」


 その場に居た全員が穴の方を見ると、確かに穴から後ろ向きの下半身が見えた。見慣れない足衣を履いている。足の動きは自分達と変らないが、その大きさは矮人の様だった。ギュ剣士が槍士・弓士に命令を下す。


「各隊は警戒態勢を取れ。急げ!」


 それぞれの隊長が隊に戻りながら、命令を下している間に矮人は穴から飛び降りた。その頭部を見たジェ槍士は嫌な予感が当たった事に落胆した。


 その矮人はラミス部族の兵が使う戦壷そっくりな物を被っていた。偵察兵だ。穴の向こうは戦場になる。しかも、力押しの急襲になるだろう。


『いや、戦場はこちら側になるかも知れん』


 どっちにしても、グザリガは新たな敵と戦う事になる。


 そう、ジェ槍士の中では、新たな矮人部族は『敵』と認識されていた。ジェ槍士が命令を下すまでもなく、部下の槍兵達が一斉に矮人を突き倒した。


 その矮人は息を引き取る間際まで何かを訴えていたが、意識が混濁していたのか、意味をなす言葉は無かった。



20150305

 いきなり訳が分からない第0話が始まり、更には訳が分からない世界観の物語が続いたので混乱されたと思いますが、この物語の裏舞台を知っておいてもらう意図から、この形になっています。

 


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