第15話 4-3 「守家の跡継ぎたち」
20141111公開
3.『守家の跡継ぎたち』 西暦2005年10月23日(日) 午後3時47分
大阪狭山市のいたる場所で自動小銃の発砲音が鳴り響いていた。
当事国の日本は勿論、世界中がトップニュースとして取り上げている中、大阪狭山市池之原に在る守家は、外部からの情報と家の外から聞こえて来る発砲音から事態の推移を推測していた。
独自のソースとして有効活用している狭山池の穴を映しているサイトの画像は、巨人たちの増援が完了した事を示していた。
機動隊壊滅後に増援された巨人の兵力は、1000人ほどだった。
断続的に聞こえて来る小銃の発砲音が近付いている最中に、長男の守貴志が新しい情報を探すためにパソコンのマウスを操作しながらポツリと呟いた。
「どうでもいいけど、家の中に居ても流れ弾に巻き込まれる犠牲者の数も相当数発生するだろうね。ま、この家の外壁なら問題無いけど」
守家家長である父親の徹朗は 『こんな状況でよく思い付くな』と一瞬思ったが、これまでに見せた長男の思考の幅の広さを考えると、不思議では無い気もした。
それに、自宅の外壁は去年新しくしたばかりだ。
貴志自身が開発した複合繊維を織り込んだ外壁は重機関銃までなら食い止める性能を持つ。
『自分よりも大きな器で生まれた息子を持ったことを喜ぶべきだろうな』
そう結論付けた徹郎は長男の言葉に答えるべく言葉を発した。
「今回の事件の損失がどれくらいになるか分かんな。我らのグループも相当の被害を受けるだろうな」
「うん、そうだね。従業員で被害に遭った家族への援助も必要だろうし、かなりの期間、操業を停止せざるを得ないだろうし。連絡網が復旧次第流す通達も作っておく必要が有るね。そっちは任せてもいい?」
「ああ、父さんがやる事にする。何か新しい展開が有れば教えてくれ」
徹郎は書斎に在る自分のパソコンを使って、自分が率いる企業グループに流す通達の原案を作ることにした。
「うん。 やっぱり、父さんに居てもらって正解だったよ。自分で作ったら、只の命令の羅列にしかなら無さそうだし」
こういったところが彼の非凡さを表していた。
最適な結果を出す為には誰に任せるかを瞬時に判断できる能力。
その為には、自分を含めて客観的な分析が必要となる。
「お父さん、手伝おうか?」
もう一人居る自慢の後継者たる長女が声を掛けて来た。
「助かるよ、真理」
徹郎は商工会で他の経営者から羨ましがられていた。
現代の中小企業の経営者にとって深刻な悩みとされている後継者に恵まれていたからだ。
環境によっての浮き沈みは仕方ないが、後継者に恵まれずに廃業してしまう中小企業は年々増えて来ていた。
自分たちが潜在的に抱えている問題を守家は既に解決済みだったのだ。
「だって、他人ごとじゃないもの」
そう、真理と貴志の二人は、将来の守グループの経営者として人生を歩んでいた。
徹郎は、2年前の正月に2人から宣言を受けた時の事を思い出した。
元旦恒例の家族総出の初詣を済ませて、自宅に帰って来た後に2人が宣言したのだ。
『守グループは2人が分担して跡を継ぐ』と・・・
そして、末娘が自分のグループの後継者になる事は無いだろうと考えていたが、後継者に立候補した2人の意見は別だった。
歯切れが悪いながらも、彼女の才能を評価していた。
『春香がその気になれば、俺以上の経営者に成れると思うけどなぁ・・・ 才能以上にやる気になるかどうかが問題だね』
『そうね、やる気にならないでしょうけど・・・』
『春香が経営者に向いているとは思えないのだが・・・・・』
『いやいや、姉弟妹で一番才能が有るの、春香だから』
『そうよ。あの子が私たちの中では一番凄いんだから』
どうやら春香は、徹郎には感じられない才能を持っているのだろう。
徹郎としては、長男・長女だけでも後継者に恵まれているのに、末娘まで後継者として育ってくれるなら、企業グループの経営者としては最大級の幸運だった。
『ま、本人次第だし・・・ 何か言って来たら、遠慮なく言う事を聞いて上げればいいんじゃない』
『お父さんが春香に甘いのは昔っからだもんね』
『そ、そうか…』
あの時の会話がほとんど減衰無く徹郎の脳裏に蘇った。
その末娘が何かに気付いたかのように、立ち上がった。
自分に向けられた全員の視線を無視するかのように、彼女はごく自然にリビングルームの壁に掛けられたハウスセキュリティーパネルを操作して、リビングルームを出て行った。
「げ、やられた!」
貴志が突然、声を上げた。
「春香、外の自衛隊を家の中に入れる気だ」
玄関の門のロックが解除された事を伝える電子音が鳴り響いたのは、その直後だった。
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