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第14話 4-2 「穴の先」

20141107公開


   挿絵(By みてみん)


登場人物紹介

 守   春香  高校2年生 17歳 先祖返り   本編主人公

     貴志  大学3回生 21歳 遺伝発現者  春香の兄

     真理  社会人   23歳 遺伝発現者  春香の姉

     徹朗  会社社長  50歳 遺伝未発現者 春香の父

     幸恵  主婦    48歳 遺伝未発現者 春香の母

     妙   隠居    75歳 遺伝発現者  春香の祖母

     育郎  剣術道場主 73歳 遺伝未発現者 分家に養子 春香の大おじ

佐々   優梨子 高校3年生 18歳 遺伝発現者  春香の従姉

     雅司  高校1年生 16歳 遺伝発現者  春香の従弟

     俊彦  教授    48歳 古人類学者  春香の叔父

     瑠衣  主婦    44歳 遺伝未発現者 春香の叔母

宮野  留美  高校2年生 17歳 春香の親友

吉井  真里菜 高校2年生 17歳 春香のクラスメート

橋本  翼   高校2年生 17歳 春香のクラスメート

高木  良雄  高校2年生 17歳 春香のクラスメート

河内  唯   高校2年生 17歳 春香のクラスメート

上代  賢太郎 高校2年生 17歳 春香のクラスメート

鈴木  美羽  幼稚園年長組 5歳 拉致事件の被害者

鈴木  珠子  主婦    26歳 美羽の母親  

秋山  昭二  自衛官   28歳 陸上自衛隊第37普通科連隊第一中隊第一小銃小隊小隊長

関根  昌幸  自衛官   28歳 陸上自衛隊特殊作戦群第一中隊第三小隊小隊長

岸部  健   警察官   28歳 大阪府警第三機動隊第二中隊第一小隊小隊長


ラ・ス・グ・ジェ   

  槍科  27歳 槍士 グザリガ部族 第7332槍兵木隊隊長

ロキ・ソキ・ゴキ・ギュ

  剣科  18歳 剣士 グザリガ部族 第733剣士鉄隊隊長

  (第7331剣兵鉄隊隊長兼務)





 2.『穴の先』 西暦2005年10月23日(日) 午後1時32分


 その穴を潜ると、もう戻れないという予感が頭を過ったが、宮野留美に抗う術は無かった。

 

 先頭を行く橋下翼が後ろのみんなに聞こえる程度の声量で注意を促した。


「縄梯子が掛かっているけど、泥だらけだからしっかりと掴まりながら降りた方が良さそうだ。美羽ちゃんを誰か背負ってやってくれないか?」

「あ、僕が負ぶるよ」

「頼む」


 2番目の位置に付いていた高木良雄が直ぐに答えた。

 この2人は小学校からの幼馴染なので、意思の疎通が早い。


「じゃあ、私は珠子さんの面倒を看るわ」


 吉井真里菜が自分から1番面倒な役を買って出た。

 前方でテキパキと役割分担が決まって行くのを見ながら、留美は心が温かくなって行く事に気付いた。

 

『うん、みんな、善い人で良かった。本当に良かった』


 こんな理不尽以外の何物でも無い事件に巻き込まれているのに、見知らなかった母娘の面倒を看るなんて厄介な事を、さも当然の様にみんなが請け負っている現状に、留美の口元が緩んだ。


「橋本君、高木君、吉井さん、本当にありがとう」


 思わず出た言葉に、翼が照れた様な声で返した。


「いや、当然の事をしているだけだ。それより、唯を頼む」

「うん、任せて」

「ええと、任しちゃう」


 河内唯が留美の方に振り返りながら、辛うじて笑顔を浮かべた。


「ああ、なんてカワイイの、この生き物は・・・ テイクアウトはどこで受け付けてるの? あ・・・」

「あ、じゃない! 心の声が漏れてるよ」


 真里菜が思わずツッコミを入れていた。

 留美は自分の顔が真っ赤になって行くのを止められなかった。


「宮野さんが一番の大物だね」


 良雄が呑気な声で追い打ちを掛けた。

 後ろから聞える独り言は無視した。


「まあ、妹さんの親友をやれる段階で只者じゃないしな・・・」


『賢太郎、あんたの立ち位置が確定したわ。ふーん、やっぱりね』


 上代賢太郎は明らかに春香よりも先に兄か姉の方と出会っている。

 その上で、春香に頼まれ事をされるくらいだから、あの一族にかなり近い。


 縄梯子は3㍍ほどで途切れ、留美の身長よりも大きな2㍍ほどの下り坂の通路に出た。

 目の前で立ち止まっている唯に追い付いた留美は横に並びながら尋ねた。


「どうしたの、河内さん?」

「真里菜ちゃんと珠子さんが目の前で消えたの・・・」

「え? どの辺?」


 唯が手を伸ばして答えた。


「この指の10㌢くらい先」

「うーん、多分、転移ゲートが有るだろうね。出来の悪い二番煎じのSF小説みたいだけど」

「転移ゲート?」


 留美が答える前に後ろから声が掛かった。


「おい、後ろがつっかえているからさっさと進んでくれ」

「あ、ごめん」


 賢太郎なりの気遣いだろう。

 ちらりと振り返ると賢太郎の後ろに居た50歳台のオジサンが睨んでいた。

 ペコリと頭を下げて、留美は唯の手を握って一緒に“障壁”を潜った。

 最初に気付いたのは、出口で待ち構えている木で出来た細い棒を持った髭だらけの小柄な人間だった。

 出口手前に置かれた篝火に照らされた顔は、巨人と違って日本人に近いが微妙に違う人種という気がした。

 次に気付いたのは、意外な事に空気の匂いが変わった事だった。 なんとなく木の匂いがする。

  

「まさか・・・・・」


 留美はそれ以上の言葉を出せなかった。

 出口で待ち構えている人物が『早く降りろ』と言うかのように出口を示していたからだ。


「早く降りましょう」

「う、うん」


 その人物を横目で観察しながら、二人は出口に掛けられたアルミ製の梯子の先っぽに近付いた。  

 出口から見えた景色には人工的な建物、いや、そういったモノ全てが視界に入って来ない黒い林だった。 なんせ、遠くには一切の人工的な明かりが見えない。

 よほどの山奥なのだろうか? いや、それ以前に“夜”になっていた・・・

 連れて来られた拉致被害者たちが、あちこちに置かれた篝火に照らされて、50㍍ほど先の空き地に集められているのも見えた。

 空き地自体が最近作られた感じだった。 あちらこちらに切り株が見えた。

 唯の後に続きながら、梯子から地面に降り立つと、辺り一面がぬかるんでいた。

 唯の手を引いて、みんなの元に向かいながらふと頭上を見た瞬間に、留美は気付いた・・・・・


「勿論、宮野さんも気付いたんでしょ?」

「ええ、ここは地球じゃない。 まあ、数億数十億年単位で考えると有り得るかもしれないけど

・・・」

「そうだね」


 高木良雄が声を掛けて来た。

 “視る”までも無く、彼は恐怖以上に昂奮していた。


  

 地球上で見る月よりも、小さくて、赤く染まった月が彼らの頭上に在った・・・・・

 

 

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

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