第127話 第一次新世界大戦編2-02 「『小倉高地防衛戦』第3ラウンド」
20160218公開
16-02 「『小倉高地防衛戦』第3ラウンド」 新星暦4年11月18日 朝
後に『第一次新世界大戦』の激戦地として有名になった小倉高地を初めて訪れた新狭山市民は、『高地』という名前を裏切る様な、その余りにも可愛い丘を見て、自分が抱いていた印象が崩れる事となる。
周囲よりもほんの十数㍍だけ高い丘の頂上部には当時を再現した陣地が在り、その中心にその時の戦いを記念した石碑がラミス王国により建てられている。
そして、陣地の外周を巡り、見渡す限りに巨人の兵が埋め尽くすさまを想像して、呟く。
『よくもまあ、絶望しなかったもんだ』
その日の早朝に姿を現したダグリガ軍の陣容は、『ラミス王国支援隊』のサポートに回っている特戦群から事前に伝えられていた。
その情報を基に迎撃態勢を整えたが、実際にその威容を見ると、さすがに『シャレにならんな』と思わざるを得なかった。
「隊長、さすがに旅団並みの兵員は圧巻ですね。思わず『圧倒的じゃないか、敵軍は』とか言いたくなりますね」
「おいおい、それ、シャレにならんからな。それに元ネタは『圧倒的じゃないか、我が軍は』だろ・・・」
『ラミス王国支援隊』隊長の富澤秋定二尉は、増援部隊としてやって来た第37普通科連隊第1中隊第3小銃小隊隊長の三井一郎一曹にツッコミを入れた。
三井一曹は真面目で有能な自衛官だったが、滲み出るオタクの空気は隠せていなかった。
「ドロス隊が居れば良かったんですがね」
三井一曹の言葉を聞いた富澤二尉はもう少しだけ付き合う事にした。
「ドロス隊も最後は数に押し切られたぞ」
「なるほど、そうでした。となれば、ソーラレイを使いますか?」
「1回使っているからなぁ。敵もそれなりの対応を考えて来るだろう。それに緒戦で余りこっちの兵器の性能を知られたくない」
「となれば、粘り強く防御に徹しますか」
「いざとなれば、特戦群が南の部隊を翻弄してくれるだろうし、明日には中央即応大隊がやって来る。それまでの辛抱だ」
前回と違って今回は小銃班の数が4倍になった上に鉄条網の防壁まで備えられている。
損害を無視して、一気に力押しで来なければ、十分に対応は可能なはずだ。
緒戦で未知の兵器で壊滅的被害を受けたダグリガ軍は、戦訓を取り入れたのか、700㍍以上離れた場所で幾つかの部隊ごとに一旦整列した。
その後で500㍍以内に近付かない様に大回りでこの丘を包囲しようとした。
これまでの密集した隊列を組んだ攻撃と違い、今回は兵の間隔を開けている。横列が組み終わった時には兵の間隔は2㍍は離れていた。1列に100人ほど居るから幅200㍍の横列が出来上がる。後列は20㍍ほど離れている。
よほど迫撃砲による被害が堪えたのだろう。
確かにこれならば、1発当たりの被弾は局限される。
例えば、これまでだと横列に直撃した場合、半径20㍍の被害を受けるので、一気に中隊規模の損害を受ける事になる。
だが、この配列ならば、1個小隊に満たない損害に局限される。
問題は、初めて試すであろう隊列で、まともな指揮が執れるかか?だが、損害と秤に掛けた結果の苦渋の決断だろう。
「それでは、そろそろ持ち場に戻ります」
三井一曹がそう言って敬礼した直後、残りの2小隊の隊長も後に続く。
答礼後、自分の小隊の下に戻ろうとする三井一曹の背中に、思わず声を掛けていた。
「三井一曹、ダグリガには『連邦の白い悪魔』は居らん。『丸い棺桶』しか居ない筈だ」
振り返った三井一曹がニコリと笑った後で答えた。
「確かにそうですね。少佐も明日には着く事ですし、それまで粘って見せます」
『小倉高地防衛戦』第3ラウンドは30分後に開始された。
お読み頂き誠に有難うございます。
ちょっとした心境を活動報告に書いています。
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