第13話 4-1 「間引き」
20141105公開
第四章
1.『間引き』
敵主力を破り、橋頭堡を築いた第73合佐鋼隊は5中時長(約45分)の休息を命令されていた。
あと少しで、休息時間が終わると云う時に、その音はいきなり鳴り響いた。
連続して、手を打合せた様な音が幾重にも重なり、周りの建物に反響してジェ槍士の心をささくれ立たせた。
周りの部下たちも少し浮足立っていた。
「全員、いつでも動ける様に備えつつ待機!」
とっさに命令を下しながら、ジェ槍士は音がどこから響いて来るのかを探った。
干上がった池の対岸より少し左にずれた方向だった。
『確か、第74合佐鋼隊の受け持ちだったな・・・』
ジェ槍士たち第73合佐鋼隊が敵主力を壊滅した後で増援としてやって来た部隊だった。
ギュ剣士からの伝令が来たのは、それから2中時長(約18分)後だった。
その頃には、別の方向からも例の音が響きだしていた。
その若い伝令はジェ槍士に伝令内容を伝えると、ジェ槍士を先導するかの様に前を走りだした。
「急ぐ理由を知っているのか?」
「いえ、聞いておりません。ただし・・・」
「どうした?」
「剣士鋼隊からの伝令を機に急に伝令が増えました」
「そうか・・・ 分かった」
先ほどから鳴り響いている音は矮人どもに新たな動きが有った事を示しているのだろう。
少なくとも、こちら側からの動きでは無い。
ギュ剣士はジェ槍士の姿に気付くと、それまで指令を伝えていたであろう剣兵に更に一言二言伝えて送り出した。
「ジェ槍士、我々第733剣士鉄隊は命令により矮人どもの護送をする事となった。詳しい事は他の木隊隊長が揃ってから伝える」
「は!」
ジェ槍士の返答を聞くと、ギュ剣士は周りを見渡して、周囲に聞こえない程度の声量で囁いた。
もっとも、周りの兵たちは出陣の準備で忙しくしていたので、誰も聞き耳を立てる暇はなさそうだったが・・・
「敵の主力が現れた」
「先ほどの兵どもがもう再編成を済ませたのでしょうか? 早過ぎますし無意味ですね・・・ それに先ほどから鳴り響いている音は、先ほどの兵どもが使っていた武器とは違う様ですが?」
「どうも全く別の兵装のようだ。透明石盾を持っておらず、例の鏃だけを飛ばす武器を主に使うようだが・・・ 全く別物の威力だそうだ」
「そうであれば、そちらが主力なのでしょうが、無力な兵をあれほどの数を使う理由が分かりませんね」
「全くだ・・・」
第733剣士鉄隊94人(槍兵4人が戦死し、2人は治兵木隊で治療を受けていた)が、池の底に開いた穴を潜ったのは、それから1長時長(約9分)後だった。
「ジェ槍士、なんか変な気分ですね?」
そう話し掛けて来たのは部下のビョ槍兵だった。
「さっきまでは小雨が降っている“昼間の”場所に居たのに、今はもう夜です。どういう事なのでしょうか?」
ジェ槍士も不思議に思っていたが、考えても分からない事だけは分かっていた。
「分からん。まあ、こっちの方が落ち着く事は分かる。それよりも、作業があとどれくらいで終わるかを『奴隷使い』に訊いて来てくれ」
ジェ槍士が穴から出てすぐに目に入ったのは、あちらこちらで焚かれている篝火が照らし出す、捉えた矮人どもを縄で縛る作業をしている奴隷たちの姿だった。
その作業を監視していた第735弓士鉄隊と合わせた194人で、500人ほども居る矮人をこれから砦に護送するのだが、逃亡を防ぐ為に全員を縄で繋げる作業に思った以上の時間を取られていた。
やっと作業が終了して、出発してから1大時長(約1時間38分)後には隊列が止まった。
「ギュ剣士に確認するので、留守を頼む」
と、ビョ槍兵に声を掛けた後、ギュ剣士の所まで歩きながら観察したが、矮人どもの消耗は予想以上だった。
例の6人組を見付けたが、若さ故か、まだまだ元気そうな気配だった。
上手く立ち回ったのだろう。母娘を自分たちの間に割り込ませていた。
穴に連れられて行く時に睨んで来た雄雌2人とまたしても目が合ったが、相変わらず心力は健在だった。
後から考えても、自分でも理由が分からない・・・・・
だが、ジェ槍士の口は激励の言葉を紡ぎ出していた。
「頑張るが良い」
返答は雌の矮人から還って来た。確かにこちらの言葉を理解した上での動作だった。
彼女は頷いた。
『間引き』が始まったのは、それからしばらくしてからだった・・・・・・
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