第126話 第一次新世界大戦編2-01 「ラミス王国支援隊」
20160212公開
16-01 「ラミス王国支援隊」 新星暦4年11月16日 夜
1つの小さな派遣部隊が国家の予定を変えてしまう事は地球の歴史上でも偶に有る。
だが、さほど多くもない。もともとその様な部隊の損害は織り込み済みだからだ。
そして、現代日本人が異星で建設した都市国家レベルにも満たない新興国は敢えてその道を選んだ。
「マジかよ・・・」
「諦めて下さい。それに、このままでは三尉の部隊はすり潰されるだけでしよ? 今日の2倍の兵力を送り込まれたら終わりです。むしろ増援を送る決断をした政府に感謝をすべきかもしれませんよ?」
「気楽に言ってくれるなよ・・・ そりゃあ、俺の部隊は初陣にしては誇るべき戦果を上げたが、全員が素人に毛が生えた程度の練度だぞ? その上さらに新兵と変らん連中の面倒を見ろって言うのは酷だと思うぞ?」
そう言って、元部下の特殊作戦群第一中隊第三小隊の宮崎利光二曹に愚痴ったのは、第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊の富澤秋定三尉だった。
2人とも陣地からダグリガ軍に動きが無いかを警戒しながらの会話だった。
「確かに我々から見ればひよっこですが、それでも頭数は重要です。諦めて下さい」
「で、いつ着くんだ?」
「明日の早朝には37普連から1個小隊、残りの3普連と14普連からの2個小隊は昼前には到着予定です。規模だけで言えば、三尉の小隊と合わせれば計4個小隊で、小さめの普通科中隊規模ですよ」
その答えに溜息を吐いた後で、富澤三尉は表情を引き締めて質問を発した。
「腹を括るか・・・ で、防御陣地築営の資材は届くんだろうな? 今の規模ではそれだけの人員を収容出来んぞ?」
「ありったけの資材をかき集めています。おかげで稼働状態の利用可能なリアカーのかなりが駆り出されています」
宮崎二曹の言葉は誇張でも比喩でも無かった。
この世界に持ち込まれた29台のリアカーの内、第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊が持って来た4台を除く15台が、急遽決まった増援部隊の転地展開に駆り出されていた。
稼働状態の27台の内の19台がこの丘の防衛の為に各方面から駆り出されている。
「マジかよ・・・」
富澤三尉は先程と同じ言葉を思わず呟いた。
「派遣されて来る各小隊は一曹が小隊長を務めています。各班は“本土”で“本職への就職”希望だった士長上がりの三曹がまとめています。まあ、練度は“お客さん”レベルですが」
「小銃弾や迫撃砲弾とかの補充は? まあ、リアカーを大量に持って来るなら期待出来るか・・・」
「しばらく籠城出来るだけの量は揃えるそうです。それと、鉄条網も予備を攫って揃えるそうです」
「なんか、餞別の様な気がして来たぞ」
「まあ、見捨てる気は無いでしょう。それに、中央即応大隊も3日後には到着しますし、それまで耐えて下さい」
「開戦前からあの兄妹は本気だと思っていたけど、予想以上だな」
「あ、そうそう、少佐も中央即応大隊に付き添って来ますよ。例によって例の如く通訳としてですが」
「マジかよ・・・」
富澤三尉は3度目の呟きを漏らした。
翌日の早朝に到着した第37普通科連隊第1中隊第3小銃小隊は34人編成だった。
彼らは簡単な顔合わせと打ち合わせの後ですぐに防御陣地の拡大作業に入った。
予定よりも早く着いた第3普通科連隊第1中隊第3小銃小隊と第14普通科連隊第3中隊第3小銃小隊もすぐに同じ作業に入った。
搬入された資材の成果も有り、その日の夕刻までには1辺50㍍にもなる陣地がそれなりの完成度で出来上がっていた。
「『ラミス王国支援隊隊長』ですか?」
「そうだ。それに伴ってこれから任命式をする」
「了解です」
陣地の仕上げをしていると、富澤三尉の古巣の特殊作戦群第一中隊第三小隊小隊長の関根昌幸一尉が小隊の半数を引き連れてやって来た。資材の運搬に使ったリアカーの回収だけかと思ったら、自衛隊司令部が新たに発行した辞令も持参していた。
野戦任官に近いが、確かに4個小銃小隊149名を纏める為にも必要な処置とも言える。階級も1つ上がって二尉に昇進していた。
「富澤二尉か・・・ 俺がこっちに来た時の階級と同じだが、遥かにしんどい役職だな。ま、頑張ってくれとしか言えんがな」
陣地内で3分間だけ使った簡素な任命式をした後で、関根一尉は帰って行ったが、彼の小隊は引き続き『ラミス王国支援隊』を影からバックアップしてくれる予定だった。
ダグリガ軍の第2次侵攻が始まったのは翌日の朝だった。
ダグリガが送り出して来た部隊は、巨人たちの基準で言えば、1つの砦に配置される定員の1個集将玉隊、すなわち2500人に達する規模だった・・・・・・
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