表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/151

第125話 第一次新世界大戦編1-08 「壊滅」

20160209公開

15-08 「壊滅」 新星暦4年11月16日 夕


「リガル一士、悪い、俺の背嚢から“ティッシュ”を取ってくれ」

「いいですよ、自分のを使って下さい」

「悪い」


 モジス・ガウ三曹は敵部隊の様子を見ながら、部下から渡されたティッシュで鼻をかんだ。

 “戦果”を確認したい気持ちになるが、強引にねじ伏せる。

 だが、少なくとも鼻の通りが良くなった事で、気持ちが少しだけ高揚した。


 彼の視線の400㍍先で、ダグリガ軍の整列が最終段階に近付いていた。

 増援の部隊と合わせて900弱に膨れ上がったダグリガ軍は、再度の攻勢に出ようとしていた。

 最初の攻勢で一番大きな被害を受けた西側の部隊の生き残り100ほどを後列に下げて、無傷の増援部隊の兵450が最前列に陣取っている。西側のダグリガ軍は2つの部隊を合わせて550に達していた。

 自分達の10倍以上の兵を抱えた部隊の攻勢を食い止める術は、これまでの第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊には無かった。

 だが・・・


「敵部隊の整列終了まであと少しだな・・・ 北側はどうだ?」

「こちらもあと数分で終了しそうです」

「南側は?」

「同じく数分というところです」

「東側は?」

「動きはありません」


 富澤秋定三尉は報告に頷いた後、わざわざ振り向いて声を掛けた。


「よし! 橋本一士、始めてくれ」

「はい、迫撃砲班、射撃始めます。第1班、試射・・・ 撃て! 続けて第2班、試射・・・撃て! 第3班、試射・・・ 撃て!」


 3秒間隔で発射された迫撃砲弾はそれぞれの目標に向けて放物線を描きながら飛翔して行った。

 陣地に、しばらくの無言の時間が訪れた。

 

「第1射、弾着・・・ 今! 続けて第2射、弾着・・・ 今! 第3射、弾着・・・ 今!」

「上出来だ。橋本一士、10㍍単位で着弾点をずらしながら撃てるか?」

「可能ですが、遠近左右どちらに振りますか?」

「任せる」

「ありがとうございます」

「では、持続射を別命あるまで続けてくれ」

「了解。第1班は自分が調整する。第2班はサフラ二士、第3班はシラル二士が諸元算定に当たれ。諸元算定は2射ごとにする事。質問は? よし準備出来次第射撃開始」


 モジス・ガウ三曹は暮れゆく平野部に陣取っていたダグリガ軍の部隊が混乱に陥って行く様子を眺めていた。

 余りにも巧妙な罠としか言えなかった。

 最初に富澤隊長が迎撃ラインとして設定した200㍍というのは、新狭山市が掴んでいる情報から割り出した数値、ダグリガ軍が突撃開始線として用いる距離のギリギリ手前だった。

 そして、南北の敵部隊に追い討ちを掛けた最長距離が300㍍。

 その情報を得たダグリガ軍としては、突撃開始線を300㍍よりも遠くに設定せざるを得ない。

 万が一にも整列中に攻撃を受ける訳には行かないので、安全を見越して設定された進軍開始線が400㍍だった。突撃線は多分300㍍足らずの手前に設定しているだろう。それ以上の遠距離では巨人たちの瞬発力が落ちる。彼らの最高瞬間速度は時速40㌔を超えるほどだが、300㍍の手前で一気に速度が落ちる事はグザリガとの戦いで知られていた。

 だが、400㍍に進軍開始線を設定しようが、03式60㎜迫撃砲にとっては近距離でしかなかった。

 着弾するごとに半径20㍍の鉄片による殺傷圏が発生して行く。

 

「北側、南側の敵の動きは?」

「北側は今の所は・・・あ、前進を始めました!」

「南側も前進を始めました!」

「南北ともに350㍍で射撃を開始しろ。東側、動きは無いな? 第2班の1人を監視に残して元の班に戻れ」


 しばらくすると南北の小銃班が射撃を開始したのか、ガウ三曹の耳に発砲音が届き出した。

 ダグリガ軍が今すぐに全力で突撃に移ったとしても300㍍進む間に第2と第3の班員1人当たり6~7発の射撃が可能だ。そして残りの50㍍は瞬発力が落ちた上に上り坂となっている。1秒間に数㍍も進めないだろう。

 生き残ったダグリガ兵が上り坂を昇る間に10人の小銃班から集中的に銃弾を浴びせられるのだ。


「橋本一士、射撃止め!」


 富澤三尉が伸び上がる様にしてダグリガの主力部隊の損害を確認した。


「橋本一士、奴らの奥に居る輜重部隊を叩けるか?」


 橋本一士が富澤三尉と同じ様に伸び上がって距離を測った。


「大丈夫です」

「各班、5発ずつ頼む」

「分かりました」


 

 その日、ダグリガ軍に衝撃が走った。

 前線の南側を迂回して弱人部族の領土へ侵攻しようとした2個合佐鋼隊(計1000名)が壊滅したという予想外の事態が原因だった。

 部隊の壊滅自体は、これまでの長い戦争で何度も有ったが、今回の事態は異常と言わざるを得なかった。

 敵部隊に損害を与える事も出来ず、一方的に損害を与えられた事はこれまでの歴史に無かったからだ。

 開戦後に判明した弱人部族が使用する強力な弓だけでも対応に苦慮しているのに、それさえも上回る兵器が使われたらしいとの情報は、この戦争が事前の予測よりも困難なものだと言う認識が必要とされた。

 だが、この時点で悲観論が主流になる事は無かった。何故ならば、人口比で10倍もの差が有るのだ。

 損害の見込みを上方修正すれば事足りると判断していたからだ。


 その認識の甘さは徐々に大きな瑕疵となる・・・・・

  

 

 

お読み頂き誠に有難うございます。



74,799 17,609

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ