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第124話 第一次新世界大戦編1-07 「初陣」

20160205公開

15-07 「初陣」 新星暦4年11月16日 昼


「コクラサンサンより、プリンセス3、聞こえるか? 見ていると思うが、間もなくコクラサンサンは交戦に入る。いざとなったら騎兵隊を呼んでくれよ」


 ザっというノイズが入った後で、富澤三尉の耳に懐かしい声が聞こえた。

 記憶の声よりは艶っぽさが増していた。

 彼が使っている携帯無線機1号は、この様な時の為に保管されていた10台の内の1台だった。

 バッテリーも外して保管されていた為に充電さえ出来ればまだまだ使える。もっとも、携帯無線機1号よりも充電に不可欠な燃料の方が保管に向いていない為に自衛隊はかなりの神経を使っていたのだが、今回の遠征の為に渡された2台の携帯無線機1号のバッテリーの充電残量表示を見る限り上手く行ったようだった。


『プリンセス3より、コクラサンサン、私が行ってもいいのだけど?』

「コクラサンサンより、プリンセス3、それは魅力的だが、遠慮しておく。関根三佐に後で怒られるからな」

『プリンセス3より、コクラサンサン、それは残念。じゃ、指揮官らしきダグリガ兵の座標だけ伝えておくわ』


 ガウ三曹は、初めて見た機械を使って何やら会話している富澤三尉の横で、ダグリガ兵の前進を見ていた。現在の距離は最前列が270㍍くらいに差しかかった辺りだろうか? 相変わらず並足だった。


「さあて、そろそろ射撃準備に入るぞ。総員、装填!」


 金属的な音が陣地の32カ所で一斉に上がる。


「西側の隊員は、大体で構わんから、自分の配置の正面にる最前列の槍兵を狙え。照準は腹の真ん中だ。第2射は、第1射を外した奴はそのまま最前列。当たった奴は第2列の同じ位置の槍兵。第3射は全員で撃ち漏らした最前列の残りを潰す。第4射、第5射も突撃して来る最前列を潰して、一旦、射撃を止めろ。改めて指示をする。北と南は、西側が発砲と同時に先ほど言った通りに弓兵だけを狙え。すぐに後退する筈だ。復唱は要らんから、質問が有る奴だけ発言しろ。らんな?」


 富澤三尉は一旦、言葉を切った。


「よし! 奴らに、新狭山市の旗を掲げた俺らには2度と手を出したくなる位に、怖さを叩き込むぞ! 総員、構え! 撃て!」

 

 発砲音は全てが0.2秒以内に収まった。そのせいで32挺もの小銃が発砲したとは思えない程だった。

 命中した初弾は19発だった。その内、致命弾は9発。一瞬胴体を殴られたかのように後方に身体がぶれた後で崩れ落ちる様に倒れた仲間を、周りのダグリガ兵が驚いた様な表情で見詰めた。

 体のどこかに命中した兵は命中した部位によって挙動が違っていた。

 腕部に当たった兵はその手を後方に持って行かれた後で呆然とその手を見た後で傷口を抑えた。

 脚部に当たった兵はその場でひざまずいた。

 陣地の32カ所で金属音が再び一斉に響く。

 第2射は再装填と照準が必要な為にほぼ1秒ほどの間にばらけた。

 第3射からは散発的と言える発砲音になっていた。

 第5射まで撃ち終った時、西面で動けるダグリガ兵は全力の突撃に移った。


「西側は各個射撃! 北と南の動きはどうだ!」

「北側、後退して行きます!」

「南も同じです!」

「300㍍まで追い討ちしろ! 優先順位は弓兵、剣兵、槍兵の順だ!」

「了解しました!」

「西側、奴らの最前列だけを叩け! 上り坂になるから速度が落ちる! 落ち着いて潰して行け!」


 最初の発砲から5分後、ダグリガ軍の攻勢は陣地の70㍍手前で潰えた。

 そして、身動きが取れなくなったダグリガ兵の内の半分ほどが自害をした。

 それらを合わせると、ダグリガ軍の戦死者は100人を軽く超え、戦場で身を潜めるようにしている戦傷者は10人ほどだった。


「撃ち方止め! 負傷した奴は居るか!」


 富澤三尉の命令は即座に実行に移されたが、負傷を告げる隊員は皆無だった。


「よし、第1班は弾倉を新しいのに換えろ。終わったか? 第2班、第3班、弾倉を換えろ。終わったか? 第2班と第3班で西側の応援に来ていた隊員は元の配置に戻れ。再配置が終わり次第、各班長は半数ずつ5分間休ませろ。残りは警戒を続けろ。橋本一士、悪い、迫撃砲班の出番は先延ばしだ。東側の監視に戻ってくれ」

「はい、東側の監視に戻ります」


 矢継ぎ早に命令を下した富澤三尉は携帯無線機1号に向かって話し始めた。


「コクラサンサンより、プリンセス3、聞こえるか? 見ていたと思うが、第1波は潰した。そっちで気になる事は有るか?」

『プリンセス3より、コクラサンサン、完璧な采配としか言えないわ。ま、素人目なんだけど。ダグリガの司令部は大忙し。ひっきりなしに伝令を飛ばしている。現状は報告済み。何か要請が有れば伝えるけど?』

「コクラサンサンより、プリンセス3、特に今のところは無い」

『プリンセス3より、コクラサンサン、どうする? 今なら迫撃砲で司令部を攻撃すれば、完全に潰せるわよ?』

「コクラサンサンより、プリンセス3、いや、止めておく。ここで全滅でもさせたら、もっと大部隊で攻めて来るだけだ。こっちのほとんどは初陣なんだ。あと1日か2日はのんべんだらりと攻めて来て貰った方が助かる」

『プリンセス3より、コクラサンサン、あ、やっぱり気付いてた? 迫撃砲の準備をしていたから、一気に片を付ける気かな?と思っていたんだけどね』

「コクラサンサンより、プリンセス3、あれは保険だ」

『プリンセス3より、コクラサンサン、大胆かつ慎重、ってヤツね。明日には私も参戦する予定なんだけど、その前にちょっと暴れたい気分だったんだけどなぁ・・・ 仕方ない。あと30分ほどしたら帰投するので、何か有ったらそれまでに伝えてね』

「コクラサンサンより、プリンセス3、了解した。あー、こう言うのも変だが、八つ当たりのし過ぎに注意しろよ? お前さんの相手をするダグリガ兵が今から可哀想なんだが?」

『プリンセス3より、コクラサンサン、あら、私は淑女よ? そんな、みっともない真似する筈・・・ あー、翼くんが配属されていたわね。もう、今度会ったら、しっかりと教育しとかなきゃ』

「コクラサンサンより、プリンセス3、ヤツは可愛い部下なんだ、お手柔らかに頼む」

『プリンセス3より、コクラサンサン、確かに助命願いは聞いたわ。次の定時連絡は3時間後を予定』 

「コクラサンサンより、プリンセス3、了解した」



 もちろん、富澤三尉が願っていたのんべんだらりと防戦したいという願いは叶えられなかった。

 5時間後、ダグリガ軍に500人規模の増援がやって来たからだ。

 

 

 

お読み頂き誠に有難う御座います。



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