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第123話 第一次新世界大戦編1-06 「御子息」

20160203公開

15-06 「御子息」 新星暦4年11月16日 昼



「さあて、ガウ三曹、貴様らの初陣にしてはいきなりシンドイのは何故なんだろうな? もうちょい楽な方が良かったんだがな」


 富澤秋定三尉が苦笑いを浮かべて、割と大きな声で言った。


「日頃の行い、ってヤツでしょうか?」

「なら、真面目な三曹のせいじゃないな。俺か? 俺かも知れんな。悪いな、みんな」


 モジス・ガウ三曹は強張っていた表情が少しだけ動いた事に気付いた。

 それは周りのみんなも一緒だった。

 さすがに『自衛隊本隊』で最強の部隊と言われている特戦群出身の富澤三尉は肝が据わっている。


 ラミス王国の洞窟駐屯地から譲って貰った丸太と特戦群が運んでいた少数の薄い鉄板を使って作った簡易砦は四方をダグリガの部隊に囲まれていた。西側に部隊の半分の250ほど、南北がそれぞれ100で、東は1番少ない50ほどという布陣だった。その分けた部隊で1番少ない部隊でもガウ達と同じくらいなので、突破しようにも他の部隊と挟撃される事を考えると難しい。なんせ、機動力は巨人の方が圧倒的に上なのだ。

 こちらの様子を探っているダグリガ軍との距離は350㍍ほどだった。

 

「隊長、質問いいですか?」

「なんだ、タリル三曹?」


 南側を受け持っているタリル・ジル三曹が声を上げた。


「こんなちっぽけな砦なんか無視して行けば良いのに、どうしても落としたそうに見えますが、どうしてなんでしょうか?」

「この丘がこの辺りで一番高いし、広さもそこそこあるからな。ここを抑えておけば、侵攻する際の拠点にもなるし、糧食なんかの物資の集積所も作れるからだろう。それが証拠に、ガウ三曹、奴らの後方に控えている部隊を見てみろ。武器の代わりに荷物をたくさん抱えているだろ?」

「本当ですね」

「そう言う訳だ、タリル三曹。それと・・・」


 一瞬、砦の中央に設置された高さ4㍍ほどの木製のポールにはためく市旗に目をやった。


「初めて見る旗と陣地の様相に疑問を持っているんだろう」


 彼らがこもっている防御陣地はかなりの完成度を持っている。

 今朝まで何も無いただの丘だったが、4時間で作ったとは思えない出来の陣地が出来上がっていた。

 1辺15㍍四方に幅1㍍、深さ50㌢の溝を掘り出し、土は丈夫な麻袋に入れて土嚢にして外側に並べ置いて応急の陣地を作った後に、丸太と鉄板で補強して更に溝を1㍍まで掘った。外周を補強している傍から、中央で交わる様に連絡路となる溝を掘って行った。

 最終的に出来上がった砦は迫撃砲で攻撃されない限り、弓矢や槍を装備している敵相手では簡単には落ちない程の強度を持っていた。もちろん、雨が降った時は露天なので大変だが、矢の雨の方が命に係わる。

 もっとも、ダグリガが実用段階まで開発して使っている「テツハウ」と呼ばれている一種の手榴弾も想定している為に、これでも未だ強度的には不十分と言えるが、欲を言い出せばキリが無かった。


「隊長、敵が動き出しました」


 ガウが報告すると同時に富澤三尉が確認した。


「南、北、東に動きは無いか?」


 それぞれの班から返事が返って来たが、動き出したのは西側の部隊だけだった。

 敵の部隊は槍兵を30人で1列とした横隊を3列並べ、その後ろに弓兵を1列配置させていた。

 陰になって見難いが、最後列は剣兵の列の様だった。

 速度は並足というところだ。


「タリル三曹、バレラ三曹、半分こっちに回してくれ。200㍍で撃ち始めるぞ。風は追い風3、風向による修正は無し、移動方向によるリード無し、直接狙って撃ってよし」

「隊長、北側敵部隊動き始めました!」

「南側もです!」

「東側動きなし!」


 富澤三尉はさっと南北の敵の動きを確認した後に新たに命令を下した。


「南北は陽動だ。ただし、200㍍まで近付いたら、弓兵だけを狙って撃て。東側は動きが無いんだな?」

「有りません」


 迫撃砲班班長の橋本翼一士が即座に答えた。

 迫撃砲の他には銃剣しか持っていない迫撃砲班は1番脅威度の低い東側を受け持っていた。

 一瞬だけ考えた後で富澤三尉は更に命令を下した。

 

「橋本一士、1班を監視に残して、2班は射撃準備に入ってくれ。指示は追って出す」

「はい、1班を監視任務に残し、2班で射撃準備に入ります」


 富澤三尉は頷くと、今までで一番大きな声を出した。


「全員、聞け! 自分の股間を確認しろ! なくなっている様に感じるが、御子息はちゃんとられる! なんせ、ビビったらおしっこを勝手に暴発するからな! どうだ、居たか? さあて、諸君! 我々矮人だけの部隊が、どれほど獰猛どうもうかを巨人たちに教えてやろうじゃないか!」


 馬鹿正直に自分の股間を確認した46名は思わず苦笑いを浮かべた後、確認の為に下に降ろした右手を元に戻した。

 その表情は、先程よりも明らかに緊張感が減っていた。



 こうして『小倉高地防衛戦』が開始されようとしていた。

お読み頂き誠に有難う御座います。



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