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第122話 第一次新世界大戦編1-05 「開戦」

20160202公開

15-05 「開戦」 新星暦4年11月15日 昼


 その一報が新小倉駐屯地にもたらされたのは昼食直後の時間帯だった。

 新狭山市市長からの文書には主に激励の言葉が綴られていて、自衛隊司令部から送られて来た命令書には事細かな命令と部隊行動基準(ROE)が書かれていた。

 3年間に亘って工事が続けられた新小倉製鉄所と併設されている駐屯地は一体となった要塞と化していた。その基地司令を兼務している第40普通科連隊隊長は命令書を読むとすぐに行動に移った。命令が届いた25分後には警備任務に就いている隊員以外の配下全てをグランドに集合させていた。

 

「遂にダグリガのラミス王国への侵攻が開始された。その時点を以って、我が市はダグリガと交戦状態に入った。それに伴って警戒レベルはコックドピストルに移行する。各員、それぞれの任務に励む事を期待する。なお、当駐屯地より第3小隊がラミス王国へ派遣される。富澤三尉、前へ」

「は!」


 基地司令から富澤三尉に1枚の旗が渡された。市旗であった。

 そこには新狭山市になって新たに制定された市章が描かれていた。

 日の丸を基本としながらも、赤丸の部分に大阪狭山市の市章を白抜きにあしらったものだった。

 それは市民の微妙な心情が反映されていた。

 この地でして来た事は日本国民としての規範からかけ離れているが、祖国を捨て切るのもしたくない・・・

 その結果が日の丸と大阪狭山市市章の合体だった。

 たった2色で構成された幾何学的なこの新狭山市の市旗は後に、この世界で知らない者が居ないほど有名になる。

 第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊47名の出陣式は20分ほどで終了した。

 彼らはそのまま平野部に降りる為の洞窟に向かった。最初は人が1人しか行き来出来なかった縦穴は、今では2人が並んでも問題が無い程に拡張されていた。

 もっとも、この縦穴とは別に断崖にも道幅の広い道は造られていた。こちらは主に物資の輸送路として使われていたが、工期短縮の為に直線路となっていたせいでかなり遠回りになる為、今回は使用しない。

 旧巨人の砦に駐屯する特殊作戦群第1中隊第3小隊が物資の輸送と支援に当たり、第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊が洞窟傍に橋頭堡を築き終わったのは深夜だった。

 


 モジス・ガウ三曹は朝日によって徐々に明るさを増して来た平野部を見渡した。

 彼が現在身を潜めているのは、断崖直下の森と平野部の境界線だった。

 彼の横にはラミス王国側の縦穴に繋がる洞窟を管轄とする駐屯部隊の隊長が居た。


「そろそろ伝令がやって来る頃だ」

「了解しました」


 第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊がラミス王国への応援部隊として選ばれた理由に、言葉の壁が挙げられる。

 「自衛隊本隊」とも呼ばれる日本人の部隊では通訳が必要となるが、ガウ達ならばその必要は無い。

 小隊長の富澤三尉や迫撃砲班班長の橋本翼一士辺りは必要だが、いざとなれば小隊隊員が通訳をするので特に問題は無かった。


「ガウサンソウ、貴様、元は奴隷階級だったと聞いたが、本当か?」

「ええ、そうですよ」

「さすがシンサヤマシだな。いや、悪い意味に取らんでくれ。素直に感心しているんだ」

「どういうことでしょうか?」


 駐屯地の隊長はラミシィスの兵民階級出身の叩き上げの中堅下士官だった。


「オレが知る限り、貴様のような境遇の人間は戦う事が無い為か、軍人に向く空気が皆無だ。だが、貴様らは明らかに軍人としての雰囲気を持っている。奴隷階級の移民を取り始めて数年でその変化をもたらしたシンサヤマシの新兵教育に興味を持っただけだ」

「まあ、知っての通り、新狭山市は矮人が創った国ですからね。その辺りは慣れた物なのでしょう」

「なるほど・・・ ん、来たな」


 その言葉の通りに、ラミス王国の兵士が数名、姿を現した。

 彼らを洞窟の傍に仮設置している小隊本部に送り届ける為に、駐屯部隊の隊長がわざわざここまでやって来ていたのだ。

 伝令からもたらされた情報と依頼により、第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊のしばらくの任務が決定した。

 ラミス王国が築いた防衛線よりも更に南側を廻り込もうとするダグリガ軍を食い止める事だった。

 富澤三尉は今回の遠征に伴い特別に支給された等高線入りの地図を基に、森から1㌔ほど離れたちょっとした丘の上に陣地を築く事にした。

 4時間もの時間を掛けて陣地を完成させた頃に、侵攻して来るダグリガの部隊が視野に入った。

 その数は500人を超えていた。

 


 後に『小倉高地防衛戦』として、新狭山市とラミス王国の両国で有名となる攻防が始まろうとしていた。


お読み頂き誠に有難う御座います。



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