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第120話 第一次新世界大戦編1-03 「増強部隊」

20160127公開

15-03 「増強部隊」 新星暦4年11月4日 夕


 訓練に使った装備の片付けを命令しようとしていたモジス・ガウ三曹の下に小隊本部付の一士がやって来たのは課業時間が終わる少し前だった。3人居る小銃班長全員に呼集が掛かっているようだった。

 残る班員の中の同期のマクダ・ヤタ士長に片付けの監督を頼んでガウは小隊長室に向かった。

 途中で、それぞれが同じ小隊で小銃班長を務めるタリル・ジル三曹とバレラ・コク三曹と出会った。

 

「何か心当たりは無いか?」

「いや、特にない」

「もしかすれば、計画が前倒しになったとか?」

「なるほど・・・」


 もともと3人は奴隷階級出身者の第一次移民でやって来たので、付き合いは3年を超えていた。

 最初の試みと言う事も有り、苦労もしたが、毎年やって来る自分達と同じ様な移民の世話や教育などをしている内に結束は固くなり、今では背中を預ける事を躊躇しない程にお互いの能力を信頼していた。

 ちなみに3人に割り当てられている部屋は隊舎の同じ部屋だった。

 小隊長室に入ると、富澤秋定三尉の他にもう一人の自衛隊員が居た。階級章は一士だった。


「悪いな、もう課業も終わると言うのに。で、わざわざ集まって貰ったのは、我が小隊に増強部隊が配属されるので貴様らにだけでも先に紹介しておこうと思って、だ。一士、自己紹介を」

「はい。明日付で第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊に配属になる橋本翼です。よろしくお願い致します」


 そう言ってキビキビとした動作で頭を下げた橋本一士だったが、3人の小銃班長の頭の中では幾つかの疑問点が渦巻いていた。


「モジス・ガウです。こちらがタリル・ジルとバレラ・コクです。良ければ質問してもいいですか?」

「構いませんよ」

「自分の記憶では自分達と同じ年頃の自衛隊員は居ないのですが、おいくつですか?」

「20歳です」

「もしかして、『本市民ほんしみん』出身では?」


 橋本一士は意味が分からなかった様で、富澤三尉の方を向いた。


「こっちに来た時に自衛隊員では無かった市民の事だ、一士」

「なるほど、ありがとうございます。ええ、その通り、あの時は未だ高校生でしたから」


 その答えはガウ達に軽い驚きをもたらした。


「もし良かったら、何故、入隊をしたのかをお伺いしても? 多分、部下の全員が知りたがる事でしょうから、先に教えておいた方が手間が減ります」

「一言で言えば、他人に任せるだけでは無責任だと思ったからです」

「自分の命を懸けても?」

「ええ。それに救われた命ですから、今度は他人を守りたいと言うのも本音です」

「分かりました」


 ガウは頷いた後で、小隊長の方を向いた。わざと言わないでいる答えを訊く為だった。

 薄々は答えが分かっているのは、その瞳を見れば分かる。


「小隊長、質問、良いですか?」

「ああ、何を訊きたいのかは分かっている。彼が率いるのは『迫撃砲班』だ」

「迫撃砲・・・ですか?」


 噂は流れていた。

 それまでに無い火力を発揮出来る部隊が新たに編制されているらしい・・・ と言う話は土中一曹からも聞いていた。詳しくは教えてくれなかったが、元々自衛隊にはそういう部隊が在ったのだが、こちらには来ていないので新編されたという事だった。 


「まあ、どんな武器かは明日詳しく説明する。おかみは今度の戦争に本気で望む気だぞ。それでは、各班長は部下の所に戻って良し」



 サッと頭を下げる室内礼をして小隊長室を去る3人を見送った後、残された2人はソファもどきの長椅子に向い合せに座った。


「しかし驚いたな。風の噂では高校生コンビから自衛隊に志願したのが居るとは聞いていたが、本当だったとはな」

「まあ、1人くらいはそんなのが居た方が良いでしょう。それに、本気でみんなを守りたいと思ったのも本当です」


 2人は顔見知りだった。元々富澤三尉は旧巨人の砦を本拠地とする特戦群に所属していたし、何かと目立つ高校生コンビの一員だった翼と顔を何度か合わせていた。


「そういえば、少佐はどうしている? 結婚して、少しは丸くなったか?」

「少佐? ああ、春香なら相変わらずですよ。もっとも、子作りも出来ないのはダグリガのせいだ、女の幸せを奪っている償いをさせてやる! って言っていますよ」


 答えは笑い声だった。


「確かに相変わらずだ。と言う事は腕は鈍っていないんだな?」

「ますます化け物じみていますよ。噂では訓練するのにバリスタじゃ物足りない、なんて言ったとか言わないとか」


 一瞬の間を置いて、爆笑が起こった。

 笑いの発作が治まったのは十数秒後だった。


「ヘタしたら、この世界で最強じゃねえのか?」

「ヘタしなくてもです。ここだけの話、我々の迫撃砲以上の火力を持っている人間なんて現状では彼女だけですから」

「違いない」


 守春香という規格外の戦力に関する事は、「自衛隊『本隊』」とよばれる日本から来た隊員の間では公然の秘密だった。

 翼も自衛隊に入隊した後に先輩隊員から聞かされたのだ。 


 そして、一瞬の間を置いて、富澤三尉は呟いた。


「あの兄妹が今度の戦争に本気だと言うのは間違いないな・・・・・」



 その声音は真剣なものだった・・・・・・


お読み頂き誠に有難う御座います。



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