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第119話 第一次新世界大戦編1-02 「第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊」

20160126公開



20160127一部変更(特科削除)

15-02 「第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊」 新星暦4年11月4日 昼



 モジス・ガウ三曹は射撃訓練で出た空薬莢を回収係の若い一士に渡した。

 面倒という程ではないが、煩雑な手続きは自衛隊の文化とも言えるそうで、日本出身の先輩たちはよく日本時代の話を冗談のネタにしていた。

 例えば、小銃から排莢される空薬莢を無くさない様に89式小銃に取り付ける専用の器具が有ったとか、万が一空薬莢を1つでも無くせば、大部隊で探さなければならなかったとかだ。

 そんな時間と手間が有れば、訓練に回した方が有意義としか思えなかったのだが・・・


 小隊本部でガウを待っていたのは富澤秋定三尉だった。

 敬礼のやり取りが終わると、富澤三尉が今まで見ていた地図に目を落としながら話し出した。


「ガウ三曹、去年入った隊員は実戦に連れて行けると思うか?」


 着任した時から思っていたが、相変わらず直球な人だった。

 富澤三尉は第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊を立ち上げるに当たり、『市内』に駐屯している特戦群から昇進の上で異動して来た。

 三尉はまさしく兵士としての完成形だった。

 密林での模擬訓練ではガウ達全員が相手をしても軽くあしらわられ、配備されたばかりの04式小銃もあっさりと使いこなして見せた。

 そのくせ、意外と情にもろい所も有り、ガウ達の為に上層部に掛け合う事もしばしばだった。

 

「本音を言えば避けたいところです。ですが、連れて行くしかないのですね?」

「まあな。あれでも他の連隊に比べればかなりマシだ。マシと言えば、来月着任予定の新兵たちが来る前で良かったな。それこそ収拾が付かんようになる」


 新狭山市は去年から、ラミス王国の兵家階級と兵民階級の15歳の女の子100名に追加して、18歳以上の奴隷階級出身者100名を移民として受け入れていた。

 男性の選考基準は自衛隊に志願するかどうかという身も蓋も無いものだったが、意外と応募が多く、定員はあっさりと満たされていた。

 自衛隊に入隊した彼らは、最初に8カ月間の教育期間に入る。

 まっさきに教育されるのは日本語だった。去年配属された二士たちによれば、寝言を日本語で言える様になれば合格と言う程に詰め込まれるそうだ。

 大体4カ月ほど掛けて簡単な日本語での会話と、ひらがなとカタカナでの読み書きが可能になれば、2カ月間の基礎訓練に移行する。

 ここで人生で初めて、兵器の取り扱いを教育される。ラミス王国では兵器を扱えるのは兵民以上の階級だったのだから当然だ。むしろ、それは兵民以上の階級の特権と言っても良かった。戦場での働きによっては身分が上がるかも知れないのだから。

 残りの2カ月間は、去年に関しては全員が普通科として教育されたが、今年からは普通科、施設科、衛生科、需品科の4つの科に分かれて教育されているそうだ。


「確かに・・・ それで、いつ出発する予定ですか?」

「開戦後すぐに命令が出る。予想では1週間から2週間後だ。それまでは訓練漬けだ。銃弾も優先的に回してもらえる」

「まさか今以上にですか?」

「ああ。今以上にだ」


 現在、第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊は1人当たり1日に10発の実射訓練をしていた。

 これは04式小銃受領直後の習熟訓練期に匹敵した。

 自衛隊『本隊』は限りある89式小銃の銃弾の節約も有り、年に30発の実射訓練しか出来ない事を考えると、破格の扱いと言えるのだが、更に優先的に銃弾を回すと言う事は、どれだけ期待されているのかが分かる。

 ガウ自身は知らない事だったが、第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊は一種の教導部隊として期待されていた。

 元々、ガウ達32人は新設される部隊の土台作りの為に募集された移民だった。自衛隊の増員計画に最初から組み入れられていたので、日々の働きや教育もそれに沿った内容になっていた程だ。

 だから、自衛隊に入隊後はすぐに昇進をしていた。でなければガウが入隊後の1年と半年で三曹になれる筈も無い。

 装備も先行量産型の04式小銃を優先的に配備された為に全員に行き渡っていた。

 公平な目で見て、自衛隊『本隊』と米海兵隊を除いて、彼らはこの時代最強の部隊と評価しても良い程だった。

 

 

 その頃の新狭山市の中枢は入って来る情報を基に戦争計画の修正に慌ただしい日々を送っていた。

 3年前、『運命の8日間』と後に言われる事になる新星暦元年の最初の接触時に守貴志が予想した以上の速度で事態が進行していたが、取れる限りの準備はほぼ終了している。

 ダグリガ部族がグザリガ部族を降したのが1年前の事だった。

 本来であれば2年は掛かると予想されたダグリガによるグザリガ占領は、余程周到に準備されていたのか、混乱をさほど見せずに進行した。

 度重なる高高度偵察から得られた情報を総合すると、ダグリガはこの世界で最大の国家となっていた。

 国土はラミス王国の8倍以上になり、人口に至っては軽く10倍以上と推測されていた。

 もし新狭山市が日和見を決め込めば、ラミス王国の敗北は戦争前から確定していたかもしれない。

 ラミス王国が負けてしまえば、次に狙われるのは孤立した新狭山市だった為に、新狭山市は最初からラミス王国に肩入れする事は既定路線と言えた。

 


 開戦は間近に迫っていた・・・・・・

お読み頂き誠に有難うございます。



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