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第118話 第一次新世界大戦編1-01 「04式小銃」

20160122公開

15-01 「04式小銃」 新星暦4年11月4日 昼




 腹這いになったモジス・ガウ三曹の肩に衝撃が走った。

 一瞬だけ標的に視線を送るが、すぐに右手で槓桿ボルトハンドルを上げて、直立させてそのまま引っ張った。

 発射された弾丸の薬莢が排莢されて10㌢ほど飛んで地面に落ちる。

 てのひらでボルトの底を前方に押し込んでから槓桿ボルトハンドルを下に降ろす。

 呼吸を止めて、標的と照準を一瞬で合わせると引金をスっと真っ直ぐ後ろに引いた。

 あっという間に10発の射撃を終えて、空薬莢を集めていると、懐かしい声が聞こえた。


「ガウ三曹、相変わらず上手いなぁ。俺だとこんなにスムーズにいかんな」


 声を掛けたのは移民して来た当時のガウが特にお世話になった土中一曹だった。

 

「自分でもビックリです」


 恩人の褒め言葉に、自然と頬が緩む。

 土中一曹の応援も有り、ガウは今の奥さんと結婚出来た様なものなのだ。


「連射は出来んが、考えたら状況によっては、その小銃の方が役に立つかもしれんな」

 

 土中一曹が言う『その小銃』とは、現代人がこの世界で再開発した小銃だった。

 巨人種のダグリガとの戦争を考えた時に、弾丸の補充が不可能な89式小銃やM16A4だけではいつか破局が訪れる事は必至だった。

 自衛隊が持って来た89式小銃やアメリカ海兵隊のM16A4の様な自動小銃を、この世界で製造するには下手しなくても十数年以上は掛かるという現実から、構造が簡単な回転式ボルトアクション方式が採用されていた。

 原型は旧陸軍が採用していた九九式短小銃だった。


「89式の方が短くて楽なんですがね。それに重いんですよね」


 ガウは正直に愚痴を言った。


「まあ、それはそうだが・・・」


 開発されたボルトアクションの小銃は04式小銃として採用された。

 全長は110㌢に及ぶ。89式小銃が92㌢ほどだから18㌢も長くなっていた。

 理由は簡単だった。戦う相手がタフな巨人という理由からだった。

 対巨人用として考えた場合、弾頭に与える運動エネルギーは大きくせざるを得ない。

 解決策としては弾頭を重くするか、初速を上げるしかない。

 だが、初速を上げる為には高性能な火薬が必要だが、一から開発するには技術も時間も人員も大量に動員する必要が有った。

 『火薬を作る為に科学技術と冶金やきん技術を再開発した』と言われる程、資金と人員を投入して再開発した技術はハーバー・ボッシュ法によるアンモニアの生産だった。

 その後で再開発に着手してなんとか完成にこぎ着けた火薬は初期のコルダイトだった。

 その火薬では、89式小銃やM16A4の様な高度な現代技術を用いて作られる高性能装薬が必要な弾丸は造れない。もし無理やりに弾丸を造っても、初速も遅く、燃焼の不均衡による滓が原因で動作不良を起こすだけだった。

 やっと開発出来た19世紀終盤レベルの火薬を使って初速を上げる方法としては長銃身を採用せざるを得なかった。

 

「でも、実は結構気に入っているんですよ」


 愚痴っておきながら、ガウは一転して笑顔を浮かべた。


「この世界の材料だけで作られた小銃ですから。それに89式よりも巨人向きですからね」


 89式小銃に用いられる89式5.56㎜普通弾の弾頭は4㌘で、初速は940m/秒だった。

 それに対して、04式小銃に用いられる04式7.7㎜普通弾の弾頭は11.8㌘で、初速は730m/秒だった。その結果、弾頭に与えられるエネルギーは1,767ジュールと3,144ジュールとなり、マンスットッピングパワーに大きな差が出来た。ちなみに7.62㎜NATO弾を使う64式小銃は減装薬弾を使用する為にその中間に近いエネルギー量だった。


 土中一曹がなんと答えようかと考えている時に誰かがやって来る気配がした。


「ツチナカ一曹、ガウ三曹、シツレイシマス。小隊長ガ、ガウ三曹ヲオヨビデス」


 そう言って敬礼した隊員は、去年から採用される様になったラミス王国での奴隷階級出身者だった。

 土中一曹とガウ三曹が答礼し、ガウ三曹からの労いの言葉を受けて小隊本部に戻る彼の服装は土中一曹やガウ三曹の迷彩服と違って、どことなく偽物感が漂っていた。


「ガウ三曹、小隊長から言われると思うが、先にこっそりと言っておくぞ。貴様ら第3小隊は多分ラミス王国の支援部隊に選ばれる筈だ。理由は分かるな」

「一番練度が高いからですね」

「ああ、その通りだ」


 新狭山市は1年前から対ダグリガ戦に備えて、自衛隊員の増員に乗り出していた。

 とは言っても、日本出身の市民からの入隊はごく限られた数と予想されたので、ラミス王国からの移民で賄う事にしたのだ。

 意外な事にガウ達の奴隷階級出身の第一次移民の男性の3分の2に当たる21名が募集に応募していた。

 これは後で考えたら分かる事だったが、彼らが一番接触していた市民が自衛隊員だったことから発生した現象だった。

 そこに新規にラミス王国から希望してやって来た10名の移民を加えて発足させたのが、第40普通科連隊第3小隊だった。その他の普通科連隊にも新規に移民からなる小隊が新設されたが、第40普通科連隊第3小隊ほどの練度は得られていなかった。



 そして、彼ら第40普通科連隊第3中隊第3小銃小隊は第1次新世界大戦序盤のキープレーヤーになる・・・・・

 

お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m



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