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第117話 新狭山市編3-05 「祝日『聖者の日』」

20160106公開

14-05 「祝日『聖者の日』」 新星暦元年10月27日(日)夜



 昔、或る所に孤児院が在った。

 その孤児院を運営していたのは地方の街に建てられた教会であった。

 決して大きくも無く、運営資金も乏しい中、その孤児院出身者から数多くの実績を挙げた“人物”を輩出した時代が有った。

 それらの人々は口を揃えて言った。


『ララ教使の教えに従っただけです』 と・・・・・・



「えーと、その話がどうして新狭山市の祝日に繋がるの?」


 そう言って、守春香に訊ねたのは親友の宮野留美だった。

 例によって例の如く彼女たちは、春香のクラスメートを中心に夕食後に集まっていた。

 春香はいつも食べているクッキーを飲み込みながら答えた。


「まあ、結構、ドロドロした話だけど、聞きたい?」

「聞きたくなくなったけど、みんなはどう?」

「知っておいた方が良さそうだから、教えてよ、守さん」


 答えたのは高木良雄だった。

 その言葉を聞いた春香はちょっと嬉しそうな顔をして話し始めた。


「ラミシィナ、今でいうラミス神国でのラミス教では教使、漢字で言うと教えるに使うという字になるけど、教使ってそれなりに偉い方になるの。で、そのララ教使というのは結構有名な人なの。彼女が運営していた孤児院から、幾人もの優れた宗教家や、農業、天文学、医学、数学、建築などで優れた功績を挙げた人たちが輩出されたの。その教育方針は孤児たちに自信を付けさせて自分の得意な分野で努力する様にしたって感じかな?」

「うーん、それだけ聞いたらごく普通よね?」

「うん、ごく普通。でも、何故か彼女が育て上げた孤児には偉人と言っていい人物が多過ぎた・・・ まあ、教使になる位だから彼女自身も敬虔なラミス教信者だったんだけど、彼女は地球で言うレオナルド・ダ・ヴィンチでもあったの」


 1人を除いて、みんなの顔に疑問符が貼り付いた。


「天才ってことか?」


 そう言って納得したのは良雄だった。


「そう、彼女はまさしく天才ね。ある意味、ラミス教を体現する存在と言っても過言ではないよ」

「ハルカ様、レオナルドさんは、いかなる、人でしょうか?」


 ムビラ教伝師に半分通訳してもらいながらプリ・ラキビィスが訊いて来た。


「万能人とも言われる程、多方面で才能を示した昔の偉人ですよ、プリ様」


 春香がクッキーを咥えていたので、代わりに良雄が答えた。


「画家として有名だけど、空を飛ぶ機械の概念を残しているね。僕はそのイラストを見た時に感動したよ」

「飛行機?」

「いや、ヘリコプターだよ。航空会社のマークにもなっている螺旋を描いたヘリコプターなんだけど知らないかな?」

「あ、知ってる。田舎に帰った時に乗ったジェット機の尾翼に描かれていた変な機械の事だろ?」


 声を上げたのは橋本翼だった。


「そう、それ。実際は飛べないだろうけど、ヘリコプターを知っている人間からすると時代を先取りし過ぎた人物としか言えないね」

「へー、あれってダヴィンチの発明だったのか?」


 春香がお茶で口の中をさっぱりさせた後で発言した。


「高木君、10点加算。モナリザを知っていても、あのイラストを知っている高校生は余り居ないよ」

「いや、守さんに褒められるのは嬉しいけど、僕より詳しいんでしょ?」

「まあ、一時期航空機関係の資料を手当たり次第に読んだからね」

「ああ・・・ なるほど」


 その言葉を聞いたクラスメートのみんなには、彼女の飛行技術の基礎を占めているのはその時に読んだ資料だろうと分かった。

 

「で、話を戻すけどいい?」

「うん、もちろんいいよ」

「ララ教使に育てられて後世に大成した孤児たちは基本的に独学で功績を上げたの。これは異常な事と言っていいよ。街の発明家レベルなら有り得るけど、エジソンばりに独学で功績を挙げる人を排出するなんて有り得ないから」

「え、エジソン?」

「だって、エジソンって学校に行っていないよ。では彼らはどこで習ったのか? ララ教使、只1人から習ったのよ」

「ごめん、よく分からないけど、ラミス教の教使だっけ? その人って宗教の人だよね? なんか非科学的っていうか、あまり物知りってイメージが無いんだけど?」

「橋本君、ラミス教は地球での宗教の反対方向に突き進んだみたいなもんだよ? 逆に言えば、教義を突き詰めれば、全員が科学者みたいなもんだったとも言えるかな」

「ふーん」

「で、敬虔な信者だったララ教使は小さな頃から色んなことに興味を持って解明に熱心だったみたい。彼女が79歳で亡くなった後に彼女がのこした手記の研究が始まったけど、それは凄い宝の山だった様よ。地球でのノーベル賞ものの研究がゴロゴロ出て来たそうだから」

「なるほど。教え子でもある孤児たちが独学で功績を挙げられたのは、天才そのものだった先生が居たからってことか」

「さて、ここからがドロドロした内情なんだけど、新狭山市が『聖者の日』として明日を祝日にしたのは、ラミス王国人とラミス教教会に対するアピールなの」

「アピール?」

「そう。“我々はラミス教の偉人の功績を讃える度量が有るよ”っていうアピール。移民を希望するラミス王国人を増やす為。ラミス教に恩を売る為にね」

「確かにドロドロだ」


 翼がぼやく様に言った。


「それと、新狭山市の方向性も出せるからね。科学的な考え方を重視するって言外に言っている訳」

「貴ニィらしいと言えばらしいね」


 留美が発案者について感想を述べた。

 だが、返って来たのは予想と違った答えだった。


「実は、私が黒幕なの。だって、ララ教使って本当に凄い人なのに、今のラミス王国では今一評価されていないからね。地球出身者で一番のファンたる私が無理やり貴ニィに捩じ込ませたの」


 ドヤ顔の春香を見たクラスメートの反応は、『ダメだコイツ』という表情だった・・・・・・


 もっとも、暴走する春香を止める事は出来ない事も分かっていたので、全員が無力感に包まれていた。


 もっとも、春香の心情を理解してしまったムビラとプリの2人は納得した表情をしていた。



 そして、幼女の鈴木美羽は、何故か春香と同じ様にドヤ顔をしていた・・・・・・





 

如何でしたでしょうか?



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