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第113話 新狭山市編3-01 「チュウトンチサイ」

20151222公開

14-01 『チュウトンチサイ』 新星暦元年9月1日(水)午前


 この日、新狭山市の砦から1㎞ほど東に離れた場所で新たな砦の完成お披露目式典が行われた。

 完成した砦は変則的にラミス王国第一方面軍の管轄とされ、名前は「ラミス王国新狭山市砦」と呼称されていた。

 他よりも少し高くなっている高台に、100㍍四方の火矢対策の漆喰を塗った木製の壁がめぐらされていた。

 壁の高さはさほどでもない。2㍍ほどしか無い。

 この砦の本当の意味での防壁の製法はこの世界では画期的な方法が用いられていた。砦より100㍍離れた位置に高さ1㍍と2㍍の一見頼り無い防壁が2重に周囲を囲んでいた。

 その防壁には、地球出身の現代人ならすぐに用途と名前が分かる資材が使われていた。

 それを見た日本人のほとんどの大人は『鉄条網』と名前を挙げるだろう。

  


『市長、建設に対するご協力ありがとうございます。それにこの砦には我々にとって、宝の山の様な技術が用いられています。それらの技術の導入も許可頂いた事にも感謝をします』

「いえ、こちらこそ大量の支援物資を得たのですからお互い様です。しかも駐屯部隊の規模も拡大して頂いたのですから、こちらも大助かりです」


 お披露目式典の為にやって来ていたネキフィス・ラキビィス・ラミシィス第3王子の表情は笑顔だった。

 対する金澤達也市長の表情もにこやかなものだった。


 この砦の完成は大きな意味を持っていた。

 まず、新狭山市にとって、自衛隊とアメリカ海兵隊以外で使える戦力が増える事が挙げられる。

 それまでも200人規模のラミス王国駐屯部隊が居たが、火力に偏っている新狭山市の兵力を補完するには使いどころが難しいところが有った。

 だが、この砦で初めて編成された部隊がそれを補える。

 次に、この砦自体の価値が挙げられる。

 新狭山市の砦の支城としてかなり有効なのだ。

 万が一、巨人の侵攻を許したとしても、この砦が在る事で巨人が取れる戦術は限られてしまう。

 無視をすれば背後を突かれるし、抑えるだけでも戦力を分けざるを得なくなるし、攻略するにはかなりの戦力が必要となる。  

 存在するだけで有意義なのだ。


 ラミス王国にとっても、この砦の建造と新たに新編した部隊編成で得られた技術と戦術は大きな価値が有った。

 一見頼り無い様に見える鉄条網だが、実際にネキフィスは自分自身で突破を試みたが、その困難さは想像以上だった。

 今も4カ所ほど絆創膏を貼って貰っている(その際にサトウサンサに小言を言われたが、自分で確かめないと納得出来ないので仕方が無かった)。

 早速、本国での採用を進言する気になっていた。

 この鉄条網の最大の効果は敵の侵攻を停める事では無い。停まった敵を狙い撃ちできる点だった。 

 そして、その事に多大な効果を上げるであろう兵器が導入されていた。

 ラミス王国初のバリスタ装備の部隊が編成されたのだ。

 新狭山市が提供出来たバリスタは、予備も含めて拠点防御用の盾装備の重バリスタが22基、野戦にも使える中バリスタが54基だった。

 重バリスタは櫓を組んで各辺5基づつ設置されていた。

 更に砦の壁には中バリスタ用のジュウガンと呼ばれる発射腔が多数設けられていた。

 この規模の砦としては異常なほどの火力を持っていた。

 

 もちろん、これまでにも弓兵が中短距離での火力を担って来たし、これからも重要な兵種であることは間違いない。

 機動力が何よりも魅力的だし、優れた弓兵がラミス王国には揃っている。

 だが、長時間に亘って継続的に火力を発揮出来るかと言うと体力的な限界が有った。

 それに対して、バリスタは1基に4人の兵が必要となるが、長中距離の火力を齎してくれる。

 更に装填手3人は交代で役割をこなす為に3分の1の時間は体力の回復に当てられる。

 聞けば、より機動力を重視したバリスタも開発中という事だったので、王国での採用は間違いないだろう。



「そういえば、そろそろ市民への公開が始まる時間ですね」

『おお、そういえばそうですね。忘れていました』


 ネキフィス第3王子は苦笑した。

 軍務に就いていない者を軍事施設に入れる発想は王国には無かった。

 それに対して、今日だけとは言え、『新現部族ユニヴァル』は希望すれば市民ならば誰でも砦の中に入れる様に言って来ていた。

 わざわざその様な催しの為の言葉も有った。『チュウトンチサイ』と言うらしい。

 その時、砦内に似つかわしくない匂いが漂い始めた。

 どうして似つかわしくないのかと言えば、美味しそうな匂いだったのだ。


「私は行った事が有りませんが、守君によると自衛隊の駐屯地でも毎年駐屯地祭が行われているそうです。そうだね、守君?」


 それまで通訳に徹していた守春香に視線を送りながら、金澤市長が訊ねた。

 質問までを通訳した後で、春香は頷いた。


「市長にはもう兄から説明が有った筈なので、王子に説明しますね」


 そう言って、彼女は猛然とラミス語を発し始めた。

 ネキフィス第3王子はその熱意にタジタジとなっていた。


 その間に、金澤は周囲を見回した。

 ちょうど市民向けの開門時間となったようだ。

 唯一の門から、市民たちが入って来るのが目に入った。

 視線を更に右に動かす。

 3つ並んだ屋台が目に入って来た。

 そう、日本では見慣れた、あの屋台だ。

 最初に守貴志君から今日の式典の提案を聞いた時に思わず聞き返したが、彼は真剣だった。

 特に料理に関しては、妹の春香君が隠し玉を用意しているそうなので、期待して欲しいと言っていた。

 

 ああ、確かにこれは期待せざるを得ない・・・・・

 そう思って、屋台から漂ってくる匂いに意識を集中した。


 美味しそうな熱せられた醤油の匂いと、諦められていたもう一つの調味料のゆうの匂いが彼の鼻腔をくすぐる。

 その匂いは胃袋を直撃した。

 重要な原材料のトマトが手に入らないのに、春香君は何とかして作り上げた様だった。


「市長、それでは参りましょうか? お2人があいさつしないと、みんなが食べられませんから」



 その日、この地で初めて焼きソバが振る舞われた。

 味も具材も地球で食べられて来たものには劣るが、それでも食べた日本人全てが涙ぐんだほど美味しかった・・・・・

 

 



如何でしたでしょうか?



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